1.プロジェクトメンバーの役割と責任
シックスシグマはプロジェクト体制で行う為、メンバーの役割が明確に定義されており、役割に応じた教育が行われます。QCサークルは主に現場主導で行われ、上級管理職は主に結果の聞き手であるのに対し、シックスシグマでは"チャンピオン"に任命された上職者はプロジェクトリーダーと協力し積極的に活動を推進する責任があります。この様にシックスシグマは単なる欧米版改善活動ではなく企業経営を強く反映させた活動と言えます。
個別教育としてシックスシグマの概念と、プロジェクトサイクルの雛形である
DMAIC活動のトレーニングが行われます。さらにデータ分析に必要なQC手法や、統計ツールの教育にも力が入れられています。特にブラックベルト以上のプロジェクトインストラクターになるには、多数のプロジェクト指導経験に加えてより高度な統計手法トレーニングを受け、統計手法のエキスパートでもある事を求められます。
2.シックスシグマの導入と初動教育
シックスシグマを導入する際には、まずトップマネージメントがシックスシグマの概念を理解し、推進組織の構築と推進メンバーを任命して教育機会を与えます。次に中心となるチャンピオンを育成し、そしてプロジェクトの立役者となるブラックベルトを教育します。
一般的にブラックベルト(BB)は、プロジェクトマネージメント及び高度な統計スキルを有する者が任命されるので、導入初期は、経験豊富なマスターブラックベルト(MBB)を外部機関から招き、トレーニングを行い育成する方が効率的です。
プロジェクトメンバーとなるグリーンベルト(GB)やイエローベルト(YB)は、ブラックベルトにより育成されるのが一般的ですが、グリーンベルトは小規模プロジェクトを任されるケースも多く、基本的な統計手法は早期に身につけておく必要があり、導入初期は同様に外部機関のマスターブラックベルトにより育成した方が立ち上がりが早くなります。
3.活動に参加するメンバーの役割
既述のようにシックスシグマとは単なる改善手法ではありません。またチームを編成しプロジェクト体制で事に当たらせるという活動体制が異なる改善サイクルとも異なります。経営層部が深く関わり責任を持つことにより、企業を変革する機能を有する活動なのです。故にシックスシグマのチームは企業経営のインフラの一部と言い換えても良く、図1のように各メンバーの役割も明確に設定してあります。
図1.シックスシグマ活動のメンバーと役割
(1)チャンピオン/スポンサー
主に上級管理職から任命され、プロジェクトを成功に導く責任があります。
•企業方針に沿ったプロジェクトの選定を行う
•プロジェクトリーダーの選任とチームに必要なリソース(時間、資金等)を確保する
•プロジェクトの定義と適用範囲の指定と変更時の承認を行う
•活動における組織的妨害からの擁護と障壁の排除を行う
(2)ブラックベルト(BB)
BBはリーダーに相当する役割を実行し、プロジェクト執行と成功の要となる役割を担っています。QC手法や統計手法の活用に優れ、GBやYBを指導する役割も負っています。
•プロジェクトメンバーを選定する
•チャンピオンと協力してプロジェクトのゴール、適用範囲、実行計画等を設定する
•チームに必要な資源やデータを特定・確保する
•チームメンバー(GB/YB)へのシックスシグマ手法や統計教育のサポートを行う
(3)マスターブラックベルト(MBB)
MBBは複数のプロジェクトチームに対し、チームマネジメントからデータ解析の指導に至るまで広範囲に渡る専門的アドバイスを行います。BBで複数のプロジェクトを経験し、統計解析力及び指導力に優れた者が任命されます。
•推進手法の総指導者として複数のプロジェクトチームをサポートする
•ブラックベルトやグリーンベルトの育成を行う
•プロジェクトの全体の活動進捗を管理し、達成時期や総合成果を見積もる
•チーム間の対立や優先度の調整を行う
•チームの成功を関係者に周知し、シックスシグマ活動の成果をアピールする
(4)グリーンベルト(GB)
GBはプロジェクトメンバーとして十分なトレーニングを受けている人が該当します。経験を積んだGBはBBのサポートを受け、プロジェクトリーダーを務めます。
•プロジェクトのコアメンバーとして活動する
•担当業務に関する小規模プロジェクトのリーダーを行う
(5)イエローベルト(YB)
シックスシグマ活動に参加する為の最低限の教育を受けている人が該当します。GBに比べQC手法や統計手法のトレーニングが緩和されています。
•プロジェクトメンバーとして活動します
4.シックスシグマ導入における役割分担と教育の問題点
シックスシグマのシステムは、経営を立て直し利益の確保に効果的な体系なのですが、効果だけ重視され十分な教育がなされず、役割認識が薄いまま行う企業も少なくありません。次の2つの問題点は多くの企業で見られるでしょう。
(1)チャンピオンの役割意識の欠如
チャンピオンは一般的に部長職以上の上級管理職が任命されますが、プロジェクトが一端始まるとその後はプロジェクトリーダーに全て丸投げし、経過報告だけを指示して傍観者を決め込む方が多く見られます。規模の大きなプロジェクトほど部門間の協力が必要ですが、縄張り意識が強く非協力的だったり、通常業務と兼務しているメンバーがプロジェクトに時間を避けなかったりして、活動が頓挫する事は良く見られます。
従来の日本企業式管理システムのままでシックスシグマを始めた典型的な失敗です。チャンピオンはプロジェクトの成功が自分の采配にかかっている責任を自覚し、日頃からチームに関わりシックスシグマの意義を忘れないようにしなければなりません。
(2)リーダー適格人材の不足
マスターブラックベルト(MBB)とブラックベルト(BB)はフルタイムで活動に専念するポジションですが、シックスシグマを積極的に展開している企業は、多数のプロジェクトを並行して進めようとする為、リーダーにBB相当の従業員を充てがうことが出来ていません。...
これはBBの育成にコストと時間がかかるのと、選任人員を確保するのが困難なためです。
企業により違いはありますが、この様な場合はBBに複数プロジェクトを担当させたり、グリーンベルトを小規模プロジェクトのリーダーに任命しBBにサポートさせるケースが多く見られます。一方でリーダーに任命されるGBは日常業務も多忙である事が多く、十分な活動時間を取りにくい問題があります。これはQCサークル活動の停滞と類似の問題です。
これら2つの問題はシックスシグマを改善活動の一体系としか見ておらず、プロジェクトは本業の片手間に行う副業的イメージを持った上層部が多いためです。またシックスシグマをそのまま運用しようとせず、日本風土に合うようカスタマイズして運用する方がより大きな効果が引き出せるでしょう。但しチャンピオンの役割を省く様な、都合よいカスタマイズを行えば、重大課題が解決されないまま小規模課題だけを取り扱う活動となり、時間とコストをかけ導入した意義が感じられないでしょう。