企業においてオープン・イノベーションを実現するには 研究テーマの多様な情報源(その26)
2015-10-22
前回のその25に続いて解説します。オープン・イノベーションは、世の中に広く存在します。つまり、「オープン」な環境に存在する「価値創出」機会を見つけ、それをこれもまた世の中に広く存在するオープン」な技術やその他の能力を縦横無尽に活用し、それを製品・事業として実現、すなわち「イノベーョン」を起していこうという考え方です。このように、オープン・イノベーションは『価値づくり』経営と表裏一体の関係にあります。
これは、これまで日本企業が追求してきた「ものづくり」とは対極の概念です。「ものづくり」では、自社の従来からの「ものづくり」における強みを活用し、製品や事業を展開していこうという概念です。そのため、収益機会は、自社の得意とする能力の近傍の極めて限られた領域を対象としています。 しかし、オープン・イノベーション(『価値づくり』)では、広い世界の中で、自社の従来からの強みに拘泥せず、広く価値創出・収益機会を見つけて行こうという考え方です。したがって、自社にとってのオープン・イノベーション(『価値づくり』)では、「ものづくり」の何倍、何十倍、何百倍もの収益の機会の実現が可能ということです。
このようにオープン・イノベーションは、企業経営の歴史の中でも、まさに「画期的」な経営の概念と言えることができます。したがって、オープン・イノベーションはもはや一部の学者やコンサルティング会社の作った一時的な経営上の流行ではありません。しかし、日本企業においては、オープン・イノベーションは、市民権を得ているとは到底言える状況にはありませえん。
一部の日本企業においては、オープン・イノベーション担当部門が置かれ、この活動に積極的に取組む姿勢が見られます。しかし、オープン・イノベーションの本質が理解されることなく、空回りをしている感もあります。その大きな理由が、オープン・イノベーションは『手段』に過ぎないということです。
『価値づくり』経営とオープン・イノベーションは表裏一体の関係であると述べましたが、重要な点で異なります。それは『価値づくり』経営は企業の『目的』である一方で、オープン・イノベーションは、この目的を実現するためのあくまでも『手段』であるということです。日本企業においては、この点が理解されずに、オープン・イノベーションがあたかも『目的』であるがごとく取り扱われているように思えます。本来の企業の『目的』である『価値づくり』経営の重要性・その背景を理解せずに、『手段』に過ぎないオープン・イノベーションを追求する、させることは大変危険です。
欧米の企業においては、組織の指示命令系統は極めて強力であり、組織の下部にいる社員がオープン・イノベーションの意味・意義を理解していかなくても、オープン・イノベーションは実行されていきます。しかし、良くも悪くも、社員の主体性に任される傾向の強い日本企業においては、社員がこのオープン・イノベーションの意味・意義を理解していない中で、オープンイノベーションを追求しても、それは機能しません。研究者に、自分達の仕事を奪うものだと誤解されることの多いオープン・イノベーションでは、なおさらです。
『価値づくり』経営の「もの...
づくり」経営に対する優位性は、理解しやすいものです。一方で、オープン・イノベーションは、それ自体では、一般の社員にはその意味・意義はピントこない概念です。そのため、企業のイニシャティブや組織名称としてオープン・イノベーションを使うことは、私はあまり賛成しません。一部の経営陣や、経営企画部門の人達には理解されても、実際に日々の活動の中でオープン・イノベーションを実行する立場にある社員には、オープン・イノベーションは無関心で済まされるどころか、誤解や反発を招くものです。オープン・イノベーションは『価値づくり』の追求の中で、実行されるのです。その為、オープン・イノベーションを実現するためには、『価値づくり』の概念を組織全体に浸透させる活動や体制が必要となります。