1.下町ロケットの見せ場
池井戸潤原作の「下町ロケット」がテレビドラマ化され、ドラマの中で、中小企業の典型的な「すり合わせ技術」が紹介されている見せ場がありました。吉川晃司さん演じる帝国重工の財前部長が、バルブシステムの製造ノウハウを見せられ、佃製作所の強みを目の当たりにするシーンです。それは、バルブシステムの品質を極限まで高めるものです。具体的には、穴あけ、切削、研磨、仕上げ等のノウハウです。製造装置の精度を上回る技術者の感覚や勘所は、帝国重工に真似できない設定になっています。このようなノウハウを非公開(秘密)にすることで、佃製作所は特許と同じくらい価値ある技術をセールスポイントにできているわけです。
2.すり合わせ技術とは
「すり合わせ技術」の語源は、東京大学の藤本教授が提唱されてきた論文のキーワードからとの説もあるようです。その意味は、製品を構成する部品や材料を、相互に微妙な調整を行うことで、本来の性能が発揮されること。 つまり、製造ノウハウをブラックボックス化することとも言えます。写真のようなキサゲ加工が分かり易...
いと思います。言葉通り、複数のキサゲ面どうしをすり合わせて平面度を出す熟練技だからです。近年、自動車、複写機、半導体製造装置等の金型技術、液晶の材料技術が、すり合わせ技術の代表例とされてきました。どれも日本の技術の強みです。しかし、韓国の現代、サムスン等は、いくつかの製品分野で日本の技術を追い越しているのが現状です。
すり合わせの代表例:キサゲ加工
3.自動車のすり合わせ技術
最近、自動車のすり合わせ技術は、競争力を失ったと言う人もいます。自動車の付加価値の70%は、部品企業が生産しているからです。コスト競争力は、設計段階でどのような部品を組み込んでいくかでほぼ決まります。いままでの日本では、サプライヤーが企業と綿密にすり合わせる設計プロセスが、高品質、低コストの部品設計を生み出してきました。しかし、世界の流れから孤立するリスクも表面化してきました。なぜなら、自動車が、エレクトロニクス化及びIT化され、ソフトウエアの割合が大きくなってきたからです。例えば、衝突回避用の自動ブレーキは、欧州のコンチネンタルやボッシュのシステムが採用されているようです。ますます、標準化のニーズは高まると思われます。
4.今後の方向性
中国進出の日本企業が多い中、GMや現代は、インドに工場を建設しています。すり合わせ技術の拠点にしようとしています。その理由は、インドは英語圏で、コミュニケーションの円滑化が図れることや教育レベルが高いことです。
「すり合わせ技術」が標準化され、部品のモジュール化や現地化が進むと、日本企業の強みは少なくなります。残る砦は、デザインぐらいになるかもしれません。例えば、サムスン等は、ヘッドハンティングした技術者から技術ノウハウを徹底的に吸収しています。お客様ニーズを加味した設計品質や
TRIZの活用等、知恵の部分までをも凌駕しつつあります。日本のものづくり企業は、簡単に真似されない製造ノウハウ、製品コンセプト発想力、人財開発力等を基本から見直すことが必須となっていると考えます。