技術戦略 研究テーマの多様な情報源(その34)
2016-02-12
前回の『価値づくり』に向けての三位一体の技術戦略 第4回では、組織単位でスパークを起こす意義およびその方法を解説しました。今回は、個人、組織単位で共通的にスパークの頻度を上げる方法について、解説したいと思います。
アイデア発想のノルマを課すというと、あまりにも当たり前に聞こえるかもしれません。しかし、私は、この方法は個人でも、組織でも、「長期的に」スパークの頻度を上げるに大きな効果があると考えています。
このようなルールを導入すると、最初は、それまでそのような習慣のない多くの人にとって、アイデア発想には苦労すると思います。なぜなら、スパークを起こすための十分な原料(特に市場知識)が頭に蓄積されていないからです。
そのため、初めはたいしたアイデアは出てこない可能性は大きいのではないかと思います。しかし、良いアイデアが出てこないといって、ここでこの制度を止めてはいけません。とにかくこのルールを続けるのです。
そうするとどうなるか?皆が進んで、スパークの原料となるような情報を集めるようになります。何かそのための活動を始めるというより、普段の生活の中で、市場の情報や技術の情報に関心を持つようになります。つまり情報に対する感度が高まっていきます。
現実的には、多くの人が他の業務で忙しいため、仮にアイデア創出のために、主体的にアイデア源となるような情報を集める活動をすることができても、そのために割くことのできる時間は限定的ですので、そこで得られる情報は知れています。
むしろ、日々様々な情報源に触れる機会の中で、世の中の動きや仕事の周辺の情報に感度高く関心を持つことで、仕事や生活の中で、情報収集活動に敢えて時間を割かなくても、自然にスパークの原料となる情報が蓄積されていきます。
このような活動を2年、3年、5年、10年と長期に続けていくと、皆の頭の中には相当の量のスパークの原料となるような情報が蓄積されて行きます。そうすることで、個人単位でも組織単位でも格段にスパークの頻度が高まるようになります。
隣接可能性という言葉があります。これは、米国の生物学・複雑系の学者のスチュアート・カウフマンという人が唱えているイノベーションの起こる前提を示す言葉です。生命が誕生する前の地球にあった、アンモニア、メタン、水、二酸化炭素といった簡単な分子から、一足飛びに人間や牛を化学反応で作ることはできない。
その過程には、糖の分子やたんぱく質や核酸といった物質を経て、徐々に作られていくものである。イノベーションも同様で、一度一定の「実現範囲の境界」(糖の分子等)に達すると、そこで新たな世界が広がる。そこからまた更なる「実現範囲の境界」(タンパク質)に達し、また新たな世界が広がる。そのような連鎖でイノベーションが起こる、というものです。
アイデアの発想も同様で、一度あるアイデアに到達すると、そのアイデアがたいしたものでなくても、そこではそれ以前には想像できなかった新しい世界が広がり、新たな視野を得ることができます。
つまり、ノルマ締切日までになんとか創出したアイデアは...
、そのアイデアがたいしたものでなくても、そこから更に他のアイデアに進化していく土台になるということです。したがって、発想のノルマを課すことを長期に続けていくと、新しいより進化したアイデアが生まれて行くというものです。
どのくらいの頻度でアイデアを出してもらうかですが、1年に1回、半期に1回では少なすぎます。できれば、毎月、長くても四半期に1回ぐらいのアイデア創出のノルマを課すべきと思います。さもないと、スパークの原料は蓄積しませんし、アイデアの進化の度合いも随分遅くなるでしょう。