『価値づくり』の研究開発マネジメント (その1)
2016-05-10
「研究開発の生産性を向上させたい」は、以前からの多くの日本企業の課題でした。私も過去のコンサルティングの中で、企業の生産性評価の指標作りなどのプロジェクトを経験してきました。
しかし、イノベーションについていろいろ考える内に、その基本姿勢において、『研究開発』に『生産性』という、生産に関わる言葉、言い換えると効率に関わる言葉を使うこと自体、そもそも間違いではないかと考えるようになりました。今回はこの点について解説してみたいと思います。
それでは、研究開発の生産との違いは何でしょうか、生産の主要な目的は、求められる品質を確保しながら、『既定』の製品をより少ない経営資源で生産することと言えると思います(品質をより広く捉え、機能や顧客価値までも含むものとして定義しようという考えもありますが)。
一方で、研究開発は、大きな顧客価値を生み出し、同時に他社がやっていないこと、もしくは成功していない製品や事業を生み出すことです。したがって研究開発では、『未だ実現されていない』ものを生み出すことです。
生産は『カイゼン』に代表されるように、今実際に目の前の『自社』や『自部門』の中の具体的な現象、すなわち実態のある『確実』なものを前提にした活動です。
研究開発は、何をテーマとして選ぶのか、そしてそれをどのような技術として製品を完成させるのかといった、広く『世の中』全体や『将来』に目を向けた活動、すなわち大きな『不確実性』を前提とした活動です。
生産と研究開発では、その確実性が180度違うということです。この前提に基づき、適正な研究開発マネジメントを行っている企業は少ないのではないかと思います。
問題のある企業は2種類あるかと思います。一つはそもそもこの前提をきちんと理解していない企業です。例えば、B2B(生産財企業)は、既存の顧客の要求のみへの対応(不確実性が低い)に終始するなどの例です。
二つ目の企業は、この前提は理解しているが、それを前提に適正な研究開発マネジメントを行えていない企業です。例えば、経営陣がこの点について自ら明確な方針を提示せず、研究開発部門に、「こんなに金使ってるんだから、とにかく成果を出せ」と迫る企業です。
意思決定理論に、リアルオプションというものがあります。これは、「今わからないことは、複数の選択肢を設定し、ある程度の投資である程度の段階まで実行するだけで、現状ではその先の結論を出さない」というものです。
不確実性の高い段階では、様々な選択肢(オプション)を用意して、確実性が高まった状況になったら意思決定をしようという考え方です。ですので、確実性が高まった状況においては、すべての選択肢を続けるのではなく、その段階で正しいと判断された活動のみが継続されるということです。
まさに、不確実性の高い環境での活動を強いられる研究開発に求められる意思決定はこのようなものです。つまり、研究開発活動の初期においては、様々なオプションを生み出し、...
活動を行うことが必要です。
ここで重要な点が一つあります。様々な選択肢は、すべて続けられる訳ではないということです。しかし、不確実性が高い最初の段階では、何がその後の確実性が高まった段階で選ばれるかはわからないのです。
したがって、不確実性の高い段階では、様々な選択肢の活動を広く行うことが必須となってきます。つまり、研究開発活動においては、いわば『非生産的』な活動を行わなければならないということです。
次回は、どのような『非生産的な活動』を行ったら良いのかを解説します。