【ものづくり企業のR&Dと経営機能 記事目次】
1.技術経営の実践
技術経営に関して解説します。技術経営とは一体何をすることなのか、最近では
MOTと呼ばれる場合も多いのですが、技術経営というと、何やら難しそうな印象を受けたり、最先端の研究開発型企業や一部の大企業が中心に取り組んでいるものというふうに考える方もおられますが、本来はとてもシンプルなもので、ほとんどの企業、(特に製造系企業は全ての企業)が取り組めるものだと思います。後述の3要件が満たされている企業は「技術経営を実践している」と言うことができます。また、技術経営をコンサルティングする場合、この3要件を実現することが基本的な指針になります。
2.技術経営の3要件
私が考える技術経営の要件は、次の3つです。
(1) 長期的視点にたって企業が経営されていること
(2) 企業の経営資源である技術を中軸に据えて企業成長を実現していること、もしくは実現しよう
としていること
(3) 自社の技術を高めるために継続的な投資を行っていること
一つひとつの要件について、考えます。
(1)長期的視点にたって企業が経営されていること
価値の高く、競争力のある独自技術を創っていくためには、時間がかかります。言い方を変えれば、時間をかけて、試行錯誤しながら問題解決をし、蓄積された技術ほど、他社に真似できない強い技術になる可能性があります。時間をかけてしっかりと技術を造り上げていくためには、長期的視点にたって企業が経営されていることが絶対条件です。将来の経営環境の変化を読み、自社のありたい姿(ビジョン)を常に指針にしながら経営を行っていくことが必要なのです。
(2)企業の経営資源である技術を中軸に据えて企業成長を実現していること、もしくは実現しようと
していること
ここでは、「技術」と「企業成長」の2つのキーワードについて、もう少し説明したいと思います。まず、「技術」ですが、前回(第6回)で紹介したように、単に製品を構成する要素技術、すなわち科学技術としての方式やメカニズムに関する知識という意味だけでなく、技術を使いこなすノウハウや知恵を持った人(人的資源)、組織として技術を扱い、目的を実現していく能力(組織プロセス)が組み合わさったものとして考えることが重要です。すなわち、技術経営においてマネジメントする技術とは、要素技術+人的資源+組織プロセスであり、要素技術を核にした組織能力と理解することができ、これを私は、技術プラットフォーム、もしくはコア技術と呼んでいます。
次に、「企業成長」です。企業成長というと、売上の増大や市場シェアの拡大、あるいは企業規模の増大などの財務的な結果をイメージしがちですが、それだけではありません。「企業成長」の意味は、企業が顧客や社会に提供する価値の範囲を拡大すること(これまで提供してこなかった人々へも価値を提供すること)や、提供価値の水準を高めること、あるいはこれまでとは異なる新しい価値を提供できるようになること、を意味しています。
(3) 企業成長の中軸である技術を高めるために継続的な投資を行っていること
「技術を高める」ためには、以下の4つの考え方があります。
①、技術機能を高度化すること
たとえば、金属加工などで、これまで±0.1mm内の精度でしか加工できなかったものが、±0.01mm内の精度で加工できるようになる、といった例が挙げられます。
②、技術を共有化し、組織の知として伝えること
特定の人だけができるのではなく、他の人も同様にできるように技術を伝えていくことです。そのためには、技術の標準化や計画的・継続的な人材育成が大切になります。
③、技術を他の商品に積極的に応用展開すること
技術は、商品に応用されることで一層磨かれます。これまでとは異なる技術的な仕様や条件のもとで技術を使いこなすためには、新たな技術開発が必要になり、そのことが技術を高めます。
④、メカニズムを研究・解明すること
技術は、再現性のある方式が実験的に確立されれば、それがどのようなメカニズムになっているのかが十分理解されていない場合でも成立します。また、メカニズムの解明は、すぐに商品化に結び付く仕事ではない場合も多く、優先度が低くなりがちです。しかし、メカニズム が明らかになることによって、技術の応用展開が容易になったり、技術の水準の大幅な向上が可能になります。
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