品質工学が戦略と言われる理由

1. 部分最適から全体最適へ(従来設計とロバスト設計の違い)

 田口博士は常々「技術の総合判断の議論が必要」と語っていましたが,多くの企業は目先の部分的な仕事に追われて技術者の役割と責任を忘れているのではないでしょうか。 戦略的技術者は,モノ・コトの変革にシステムの「全体最適」を考えて,品質とコストの和の社会的な損失の最小化に結び付けることが大切であると考えています。 もう少し分かりやすく言えば,仕事の目的を明確にして,仕事のやり方を効率的に改善して、個人の自由の和を拡大し,余った時間を新しい仕事や,人間形成に必要な趣味に活かすことが大切と考えています。

  しかし,大学では細分化された専門技術を学び,企業では仕事が細分化され,クローズループの組織が形成されて,部分的な目標が設定されて,お客様の立場や地球規模に立った全体最適化のものづくりが行われていません。このような時こそ技術者は、目先の問題解決の戦術ではなく,将来を見据えた戦略的思考で,他社より安く,他社より品質が良い「市場生産性」を高めることが大切です。

図.従来設計とロバスト設計の対比

・品質工学が「戦略(Strategy)」といわれるのは,モノを作る前にお客様のほしい目的機能について,n=1の評価で先行性・汎用性の高い「機能性評価やロバスト設計」を行い,試作レス・試験レスで短期間に安定性(SN比)・再現性(直交表)の高い技術開発を行うからです。

・従来設計が「戦術(Tactics)」といわれるのは,モノを作ってから決められたスペックの目標に対して,専門技術を使ってたくさんの試作や試験を繰り返して「モグラ叩き」で問題を解決するからです。n=多数の評価で効率が悪いだけでなく,結果が再現しない場合もあります。

◆関連解説『品質工学(タグチメソッド)とは』

 

2. クロスバー交換機開発の例(1950年代)

 田口博士が戦後の混乱期に,クロスバ-交換機の寿命40年,電話機の寿命15年を保証するようAT&Tから設定されました。 そこで「どうしたら故障やトラブルを起こさないものを生産の前に設計できるのか」と考え,技術開発でその要素技術を確立し,日本がアメリカに初めて勝った製品がクロスバ-交換機でした。40年間使えるようにするのは技術ですが,機能・価格・設計寿命の設定は、商品企画の問題で技術ではありません。20年後に電子交換方式に発展して無用になったので,結果的に40年という設定は誤りであり,設計で40年もつように設計したことは無用でした。

 今では機能性評価にSN比を使っていますが,当時もお客様の使用条件,環境条件,使用期間をノイズと考えて、初期値の「変化率」で寿命を推定していました。  「変化率」をノイズとの交互作用で評価し,変化は小さくできましたが,初期値を変えることができなかったため,その後SN比と感度に進化したのです。

 

3. 品質工学における「4つの戦略」とは何か

 技術開発の「4つの戦略」は下記のように考えています。   技術者は専門技術を使って自然界にない人工的なシステムを創造するわけですが,田口博士は「システムを評価するときには、専門技術を使ってはならない」として,先行性・汎用性・再現性の高い評価技術を「技術戦略(技略)」と考えました。

 経営者の責任はバランスシートで評価される結果責任で...

すが,技術責任者は研究開発の効率化で顧客がほしい市場生産性(他社より安く、他社より品質が良い)を高めることが役割と責任です。研究開発の能率が悪いのは,テーマ選択の悪さと設計・試作やテストにかかる開発期間の長期化ですから、研究開発の戦略は表の4つが大切になります。

 技術者はこの戦略に基づき、お客様のほしい目的機能を分割して機能性評価を行い、その場合システムの分割でなく機能の分割でなければなりません。 パラメータ設計では、複雑なシステムでなければ改善はできません(無用の用)。 SN比と直交表の活用は,下流における設計の評価と検査のためであり、改善は専門技術(制御因子)で行います。

  「4つの戦略」をマネジメントするのは「技術責任者の役割と責任」なのです。

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