7.やり直しをせずに「成果」を出す技術者であれ
農耕民族である日本人の多くは,勤勉努力で汗を流して仕事をすることが美徳であり,成果が出なくても日頃の努力で評価される社会でした。NHKのプロジェクトXに登場するストーリの多くは,偉大な成果をだしていますが,その影には長時間かけた汗と涙の物語です。
これからの国際社会で競争相手に打ち勝つには,このような努力は全く無意味です。1950年頃に出された実験計画法の下巻の538ページに「一生懸命長い時間働いたけれど,その成果がゼロだった時,その人の仕事量はゼロと考えるのである」とあります。効率的に働くためには,計画段階で目標達成のためのプロセスを明確にして,無駄な作業は極力省くことが大切です。
従来設計は一品料理の握りずし方式であり,品質工学は多品種同時開発型の中華料理方式です。将来の商品動向をイメージして商品群ごとに共通な要素技術や製造技術の技術開発を先行させて,顧客の要望する多品種商品の編集設計ができることが開発の効率化では大切なことになるのです。
8.「試作レス」「試験レス」の技術者であれ
技術開発型の開発をする場合でも,機能性設計で試作品を作っていたのでは開発期間の短縮は到底望めません。どんなテーマでもまずコンピュータシミュレーションが出来ないかを考えることです。最近では,商品開発だけでなく製造技術領域まで拡大してシミュレーションによるロバスト設計が盛んに行われています。
シミュレーションの場合でも2段階設計が考えられますが,機能性設計においては機能の安定が目的ですから,全ての制御因子を考える必要もなく精度の追求もそれほど問題ではないのです。しかし,機能設計では目標値にチューニングすることが要求されますので,実際の商品に近いことが必要になり精度も高めることが要求されます。そのためには,最適化設計の条件で試作品を作って標準条件で合わせ込みをする方が簡単な場合が多いのです。(標準SN比という考え方です)
従来の信頼性試験や寿命試験における評価は,規格に対する合否の判断を行うもので,良品の品質レベルは分からないのです。「良品の品質レベル」は,理想機能からのずれである機能性をSN比で評価することが大切なのです。
「試験(Testing)」は過去の結果を調べることであり,「評価(Estimation)」は未来を予測することです。
私も1億回の寿命試験をして出荷したところ,市場では200回足らずで故障してしまった経験がありますが,ノイズを上手く考えれば,24時間以内の機能性の評価で済んだことです。
また,大学の入学試験の成績も大学生の能力を正しく評価したものではありません。ただ,収容定員の脚きりのための合否の判定に使うだけです。真の評価は多面的な情報でMT法を用いて未来の能力や可能性を評価することが大切です。
9.コストに強い技術者であれ
田口先生が「大学の技術者教育ではコストのことが出てこない」とよく言われますが,企業においても,コストのことを考えて開発設計する技術者はめずらしいと言えます。システム設計では,機能を満足する沢山のシステムを考案しますが,大体のコストのみ考えて最適なシステムを選択します。パラメータ設計では安い部品を使って2nd look VEが不要な設計を行います。矛盾するような話ですが,機能性を改善するためには最低限の複雑なシステムが必要なことはいうまでもありません。
許容差設計においては,品質改善の成果をコストに還元するために品質とコストとのバランス設計で無駄を省けばよいのです。部品などの直接コストも重要ですが,間接コストである開発納期などによる損失は企業にとって大きな問題でであり,これについては殆ど考えていないと思います。ましてや,市場でのお客様...