「安全規格」とは、キーワードからわかりやすく解説

 

1. 「安全規格」とは

ここでの安全規格とは、一般消費者・大衆を危険から守ることを目的とする安全基準をさしています。代表的なものとして、電気用品安全法があり、一般消費者を感電・火災等から守ることを目的としています。また化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法)は、化学物質汚染による人や動植物への危害を防ぐことを目的としています。

 

2.  「安全規格」と安全認証

安全規格とは、上記のように製品の安全性について定められた最低限の基準です。自動車の運転に例えると、安全規格は交通ルール、安全認証は運転免許です。運転免許を取得するには、交通ルールを知っている必要があります。しかし、交通ルールをいくら厳密に守っても、交通事故を完全に防ぐことはできません。

 

3. 「安全規格」と日本企業

日本では昔から航空機、鉄道、医療装置など社会の重要インフラ領域では監督省庁の統制による厳格な安全性の担保が図られてきました。アメリカの安全規制と同様です。こうした産業領域では 一般産業とは異なる枠組みのなかでの設計、製造、運用がなされてきましたので、社会インフラのグローバル対応の中で、とまどいとジレンマもあると推測されます。
 
日本メーカは国内の厳しい規制の中で世界でもトップレベルの技術対応力がありますが、ヨーロッパや米国はそれぞれがそれぞれのスキームを持っていて、それに従わないと事業できません。 アメリカはアメリカの考え方、ヨーロッパはヨーロッパの考え方であり日本流はほとんど通用しません。新規に市場参入する以上相手に合わせなくてはなりませんが、日本メーカにとって3通りの対応を余儀なくされることになります。できるだけ共通対応したいところですが、コスト、リソースを要することになり、QCDバランスを図ることが困難です。

 

4. 欧米と日本における「安全哲学」の乖離

日本企業がグローバル展開で直面する最大の壁は、規格そのものよりも、その根底にある「安全哲学」の違いにあります。日本の安全思想は、長年「信頼性の追求」に重きを置いてきました。これは「壊れないこと」を安全と定義し、現場の熟練工や設計者の高い技術力によってリスクを封じ込める手法です。

 

一方で、欧米の安全規格(特に欧州のCEマーキング等)が立脚しているのは「リスクアセスメント」の概念です。「機械は必ず壊れる」「人間は必ずミスをする」という性悪説的な前提に立ち、万が一故障しても安全な状態に移行する(フェイルセーフ)仕組みを客観的なエビデンスで示すことが求められます。日本流の「丁寧な作り込み」という主観的な品質の高さだけでは、論理的な説明を重視する欧米の適合性評価をクリアすることは困難です。この思想の差こそが、日本メーカーがコストとリソースを浪費する要因となっています。

 

5. QCDバランスを維持するための戦略的アプローチ

前述した「3通りの対応」によるリソースの分散を防ぎ、QCD(品質・コスト・納期)のバランスを最適化するためには、設計段階からの「プラットフォーム化」が不可欠です。各国の規格ごとに個別の製品を設計するのではなく、製品のコアとなる部分は共通化し、安全に関わるインターフェース部分だけを各地域の規格(UL、CE、JIS等)に合わせて差し替える「モジュール設計」への転換が求められます。

 

また、認証取得を単なる「輸出のための事務作業」と捉えるのではなく、設計プロセスの透明化と標準化の好機と捉え直すべきです。国際規格に準拠した設計プロセスを社内で標準化できれば、それは特定のベテランエンジニアのスキルに依存しない「組織としての設計力」へと昇華されます。これが結果として、中長期的な開発コストの削減と、新市場への投入スピードの向上に繋がります。

 

6. 安全規格を「競争優位」の武器にする

これからの日本メーカーにとって、安全規格は守るべき「ルール」であると同時に、市場を勝ち抜くための「武器」でもあります。もはや優れた製品を作るだけでは不十分であり、その安全性をいかに国際標準の言語で証明できるかが、事業の成否を分ける時代です。

 

各国の規制の差に翻弄されるのではなく、国際標準化の動向を先読みし、自社の技術がスタンダードとなるよう働きかけるロビイング活動も含めた「規格戦略」が重要となります。日本が誇る高い技術力を、グローバルな安全の枠組みの中で正しく機能させること。それこそが、ジレンマを克服し、日本企業が再び世界のインフラを支える鍵となるはずです。

 


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