中国人社長の人材採用ポリシー 中国企業の壁(その12)
2018-06-04
今回は以前関わった中国企業の中国人社長が社員を採用するときの考え方を紹介したいと思います。今回の話の対象は管理職または将来の幹部職候補の人になります。採用の流れは、履歴書を見て見込みありと思った人に対して社長が最初に面接します。次に社長がよいと思ってもダメだと思っても副総経理や募集部門の責任者が面接をします。これは社長と社内のスタッフとの目合せのためですが、面接での評価で大きく意見がずれることはほとんどないそうです。さてすごいのはここからです。
2回の面接の後、これだと決めた人と最終の面接を行います。場所は会社の事務所ではなく、ホテルのカフェでコーヒーを飲みながら2時間くらい話をするそうです。その席で社長は自分の考えていることを包み隠さず正直に伝えます。また、相手の考えも正直に言ってもらうようにしています。相手がどのような仕事をしたいのか、この会社でどのポストまで辿り着きたいと考えているのか。
それに対して、自分の会社で相手が望むポストを用意してあげることが出来るのか。辿り着きたいポストですから、現時点ではなく将来的に本人の希望を叶えてあげることが出来るのかを考え、本人に伝えます。このように相手の希望とこちらの要求を擦り合せして採用を決めます。こうして採用した社員は、ほとんど退職することはないそうです。
中国企業で、ここまで相手のことを考えて採用活動をしていることに驚きを隠せませんでした。日本企業でもここまで考えている会社は少ないのではないでしょうか。この社長は、社員に対してはっきり物を言いますし、厳しいこともびしびし言っていますが、会社の雰囲気は悪くありません。社長の人柄がそのまま出ています。
新しく工場を建設するのに伴い体制強化の支援をしている中国企業で、工場主要部門の責任者を募集し、応募してきた人の採用面接をやる機会がありました。募集するにあたっては人材に求める要件は事前に擦り合せをして決めていました。その求める要件に近い人が応募してきたので、実際に会ってみることになったのです。
面接でその人のすべてを理解する、実力を図るのは正直難しいと思います。まして中国人は、面接で何でもできると言います。それでも少しでもその人の本質に迫れるような質問を事前に考えて本番に臨みました。今回会ったのは品管部長の候補者で、年齢的には30代半ばでした。大学を卒業後、大手日系メーカーの品質部門で約8年勤務。その後規模の小さい日系メーカーで4年勤務。そして現在の勤務先に移っていました。
彼の履歴で疑問に思ったのは、現在の勤務先への転職では給料が下がっていたことです。その理由を尋ねました。彼が言うには、現在の勤務先はISOの認証機関で、そこで審査員の資格を取ることが転職の目的だったので、給料が下がるのはわかっていたが自分のキャリアアップを優先した。そして資格を取ったので次の転職を考えたとのこと。
このクラスの中国人は給料がすべてではなく、自分の専門領域のスキルを習得することで、自分自身のキャリアアップを図ることを考えているのですね。ですから、こういう人を採用するには、この会社で仕事をすることであなた自身が成長できることを示すことが必要になると考えてください。
話をしていて感じたのは、品質管理畑の仕事をずっとやってきているので、品質管理に関する知識を持ってい...
るのはわかりましたが、頭でっかちで自分の手を動かして改善していくことはしないのではないかという懸念を持ちました。審査機関にいたこともその懸念を大きくしました。
この会社の工場は、品管部門が整備されてなく一から作る必要があること。検査員のレベルが低く教育が必要だから、あなたが教育する必要があること。そして、検査に必要な標準書類も不十分なので、当初はそれらを品管部長が作らなければならないこともあることを話して、これらをやってくれますか?と聞きました。
要するに、指示するだけではなく自分自身が手を動かしてやる必要があり大変ですよ。それをやる覚悟がありますかと聞いた訳です。それをやることで、組織の構築や運営管理の能力が付き、さらに大きな組織を任せられるようになるとも伝えました。それに対して彼は、やってもよいと答えてくれました。