- QFDの作成が担当者に委ねられている
- そのためQFDの項目に漏れが生じる
- そのため開発段階に後戻りが生じる
- 過去に作ったQFDの再利用や更新が進まない
マスターと差分によるQFDのファイル管理とは
2019-04-09
今回、事例として挙げる問題点は、次のようなことです。
ここでは、QFDを効果的に活用できるデータベースのようなシステムについて、解説します。QFDの項目だけを管理するのならば、リレーショナル・データベースを用いれば可能です。リレーショナル・データベースはたくさん市販品があるので、どれを使ってもデータ構造にさえ気を付ければ、目的は果たせると思います。
しかし、「QFDで」ということで考えると、残念ながら僕はQFDを使ったリレーショナル・データーベースを知らなかったので、それとは別に僕がやっている方法を事例として紹介します。
僕もかつて同様の問題を抱えていたことがありました。僕の場合はQFDに限らず、FMEAでも同じような問題がありました。つまり、QFDやFMEAを新製品開発のたびに担当者が一から作り、それを担当者が自身のコンピュータやネットワークのファイルフォルダーに保存し、そのためファイル数が多くなり、かつ、あちこちに分散して保存されていたため、再利用ができなかったというものです。そして再利用できないという問題は、生産性の低下(QFDやFMEAの作成に時間がかかる、開発工程の後戻り)品質の低下(項目に抜けが起こる)という形で現れました。
分散したファイルの悪循環
幸いにも(?)、僕が携わる新製品開発は、新製品といっても、恐らく80%近くは既存技術の再利用で、残り20%がまったく新しい試み、というようなものです。そのためQFDやFMEAの項目の80%は大体同じものです。つまりQFDやFMEAを再利用しやすい環境にあります。
そこで過去に担当者がそれぞれ作ったQFDやFMEAを集めて、マスターQFDやマスターFMEAにまとめました。これはデータ項目がすでに入っているテンプレートのようなものです。新製品の開発といっても、このマスターを再利用することで80%以上のQFDやFMEA項目を網羅できます。
そして新製品開発の際は、残り20%に当たるNUD要求仕様(NUD: New、Unique、Difficult)に対してだけ、新しくQFDやFMEAを作るようにしました。これを差分QFDとか差分FMEAと呼んでいます。
つまり新製品開発の際は、再利用し修正を加えたマスターQFDと差分QFD(またはマスターFMEAと差分FMEA)をセットで揃えることで、漏れの防止(品質向上)と後戻り防止や時間短縮(生産性の向上)を図るようにしました。
マスターファイルと差分ファイルの善循環
最初にマスターを作ったときは、その生産性や品質の向上がどの程度のものか分からなかったので、まずは製品のタイプごとにマスターのサンプル(見本)を作るところから始めました。と言っても、過去のQFDやFMEAから項目を抽出して、マスターを作ることは結構大変な作業なので、インターンの学生に手伝ってもらいました。目的としたところは、皆を説得する材料として、まずは見本を作ること、社員の時間とコストの削減、インターンの教育などです。また「マスターの更新を重ねることで、徐々に精度を上げていく」という前提があったので、最初のマスターには完璧なものは求めませんでした。それでも十分過ぎるくらいの利用価値がありました。
一旦マスターを作った...
あとは、その再利用を進めながら新しい項目を追加したり、内容の変更をしながら、マスターの内容の精度を上げていきました。新製品を開発するたびに、マスターの修正・更新が進むという感じです。またマスターはネットワーク上(SharePoint)にあり、誰でもどこからでも利用可能なので、生産性と信頼性を上げたい社員達による再利用が進んでいきました。
リレーショナル・データベースなどのソフトウェアを使うこともない簡単で原始的なプロセスですが、新製品の開発頻度を考えれば、コストと労力、成果(生産性と品質の向上)のバランスが取れたプロセスだと思っています。