2015年6月8日に東京都内の住宅で、7歳の男の子がドラム式の洗濯乾燥機の中に閉じ込められて死亡する事故が起きました。事洗濯乾燥機は、その日家に届いたばかりということでした。死亡した子供は、業者が設置する様子を興味深そうに見ていたそうです。ドラム式の洗濯乾燥機は、ドアが閉まると内側からは開けられない構造になっています。洗濯乾燥機を製造した大手電機メーカーは、安全対策として、子どもが中に入らないようドアにロック機能をつけたほか、本体や説明書には「子どもが入ると窒息するおそれがある」と表示して注意を呼びかけていたようです。しかし、なぜリコール宣言しないのでしょうか。なぜなら筆者は、機械設計者として、明らかに設計ミスと考えるからです。
同じような事故は、2008年~2010年に韓国で数件発生しています。洗濯機を製造した韓国の大手電機メーカーはリコールを宣言して、内側からでもドアを開けられるよう部品を無償で取り替えたうえに、ドアが完全に閉まらないようにする器具を配布するなど対策を取ったようです。失敗の先行事例が数年前にあったにもかかわらず、事故が起きるまで放置したと思われても仕方ありません。これはおそらく、製造物責任法(PL)に抵触し、多額の損害賠償が発生します。ドアに付けたロック機能は、閉め忘れれば機能しないわけです。「窒息するおそれがある」と表示するだけでは、子供にはわかりません。これらは、消極的な対策でしかないわけです。
設計のリスク対応策として、「フェールセーフ」と「フールプルーフ」という安全設計の手法があります。フェールセーフとは、部品やシステムなどの故障が安全側に制御すること。つまり、一部の機能が損なわれても大事故までには至らない設計法で、飛行機で言えば、片方のエンジンがトラブルで動かなくてももういっぽうのエンジンのみで飛べるという考え方です。一方のフールプルーフとは、機械設計者なら基本中の基本で、日本語ではポカヨケとも言います。なんら知識をもたない者が誤った用法で事故に至らないようにする仕組みのことです。身近なところでも、多くの事例を発見できます。例えば、人が座っていないと噴射されないウォシュレットやギアをパーキングに位置させないとエンジンがからない自動車などです。図1のパソコンのコネクターの形状もフールプルーフ設計となっています。上下左右が非対称となっているため、誰がやっても間違いなく差し込めます。
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図1 フールプルーフ設計の例
筆者の家もドラム式洗濯機を使っているので、確認してみたところ、ドアは、ワンタッチで、軽い力で締めやすくなっていました。そして、中からは、どう見ても開きにくい構造となっていました。内側からドアを開けられるようにしても、幼子には開ける知恵があるかどうかもわかりません。フールプルーフの考え方から設計するなら、例えばドアにストッパーを付け、ワンタッチで閉まらない構造にすることが一つの解決策になると思います。この方法なら、現在使っているドラム式洗濯機に部品を付加するだけで対策も可能となります。