6基のスクリューでコントロールできる海洋調査船とは

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機械技術


 海洋調査船「ちきゅう」は、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)が管轄する2005年に建造された世界最高の科学掘削能力(水深2,500m、海底下7,000m)を持つ巨大船(全長210m、幅38m、高さ70.1m、定員200名)です。

 特に海底下をより深く掘削するため、世界で初めてライザー掘削技術[1]を導入し、近い将来、地球内部のマントルへの到達を目指しているそうです。そして数キロ先の海底をピンポイントで掘削するため、船自体が海流や嵐であっても(わずか数メートル以内で)動かず静止できるように、アジマススラスタと呼ばれる6基のスクリューでコントロールできる能力を備えている点が、他では真似できない技術です。

※画像はイメージです

◆ 海洋調査船が担うミッション

(1) 巨大地震の謎を解く

  南海トラフ地震発生帯の掘削計画、東北地方太平洋沖地震の調査掘削

(2) 生命の謎を探る

  下北半島東方沖の海底2,000m以上の掘削に成功し、採取した石炭層からメタンを生成する微生物を発見

(3) 地球の歴史を探る

  海底下の地層を円柱状にくり抜いて、その資料から刻まれる当時の地球環境を読み取る

(4) マントルまで掘る

  マントルまで掘り、試料を採取することで地球内部の仕組みや地球の成り立ちにどのような影響を与えているのかを明らかにする

 

 これらのミッションは、ほとんど全てが世界初ということで、特許取得の対象にもなっているようです。特に(2)と(4)はかなり興味を持ちましたので、懇親会の場で講演された先生方に色々と聞いてみました。

 (2)の生命の謎を探るミッションでは、すでに二酸化炭素をメタンに変えるメタン生成微生物を採取し、それを培養することにも成功しており、二酸化炭素問題を解決するための方策が提案されています。

 また、これまでの掘削で、地表では発見されていない様々な微生物も発見されているといいます。今後、前述の二酸化炭素からメタン生成する以外の特性を持った微生物の存在が明らかになるかもしれません 。

 (4)マントルまで掘るミッションでは、まるで宇宙にある未知の星に足を踏み入れるような衝撃を感じました。

 ところでマントルと聞いて、どろどろとしたマグマが地殻の下で動いているというイメージでしたが、それは誤りのようです。マントルとは、固い岩石で、液体のマグマではありません。地下600 km位の深さまでのマントルは、かんらん石のたくさん集まったかんらん岩(SiO2含有量(重量%)が45%以下の岩石)と考えられています。また地下600 km程度よりも深い部分では、かんらん岩と同じ化学組成を持つ高圧で安定な岩石であると考えられているそうです。

 マントルは長い年月をかけて変形しながらゆっくり流れていて、地球内部を対流しているとみられています。そして、かんらん岩は、温度が上がるか、圧力が下がるか、またはこの両方の作用によって少しずつ熔けて液体のマグマを作ります。

 液体であるマグマは、固体のかんらん岩よりも浮力が大きいので、かんらん岩の対流よりも早く地表(海底)に到達し、そこで冷やされて海洋地殻を作る岩石(玄武岩)になる、と考えられています。

 マントルへの掘削に関して、いろいろと先生方に聞いてみましたら、様々なハードルがあるようで、特にマントルの熱に耐えうる材料の開発が必須なのだそうです。1,000℃以上の温度に耐えるドリルやそれを船の動力源から繋ぐワイヤーの開発など、解決すべき課題が残っているようです。新たな挑戦には新たな材料開発が必要と聞いて、技術に携わる者はやるべきことが未だ多くあることを実感した次第です。

 これらの新たな材料開発が達成できたら、彼らはいよいよ世界で初めてマントルを掘削することに成功するでしょう。そして、そこに何があるのかも明らかになる日が来ると思います。 夢を繋ぐ新規材料の開発とともにその日を待ちたいと思います。

 

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機械技術


 海洋調査船「ちきゅう」は、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC)が管轄する2005年に建造された世界最高の科学掘削能力(水深2,500m、海底下7,000m)を持つ巨大船(全長210m、幅38m、高さ70.1m、定員200名)です。

 特に海底下をより深く掘削するため、世界で初めてライザー掘削技術[1]を導入し、近い将来、地球内部のマントルへの到達を目指しているそうです。そして数キロ先の海底をピンポイントで掘削するため、船自体が海流や嵐であっても(わずか数メートル以内で)動かず静止できるように、アジマススラスタと呼ばれる6基のスクリューでコントロールできる能力を備えている点が、他では真似できない技術です。

※画像はイメージです

◆ 海洋調査船が担うミッション

(1) 巨大地震の謎を解く

  南海トラフ地震発生帯の掘削計画、東北地方太平洋沖地震の調査掘削

(2) 生命の謎を探る

  下北半島東方沖の海底2,000m以上の掘削に成功し、採取した石炭層からメタンを生成する微生物を発見

(3) 地球の歴史を探る

  海底下の地層を円柱状にくり抜いて、その資料から刻まれる当時の地球環境を読み取る

(4) マントルまで掘る

  マントルまで掘り、試料を採取することで地球内部の仕組みや地球の成り立ちにどのような影響を与えているのかを明らかにする

 

 これらのミッションは、ほとんど全てが世界初ということで、特許取得の対象にもなっているようです。特に(2)と(4)はかなり興味を持ちましたので、懇親会の場で講演された先生方に色々と聞いてみました。

 (2)の生命の謎を探るミッションでは、すでに二酸化炭素をメタンに変えるメタン生成微生物を採取し、それを培養することにも成功しており、二酸化炭素問題を解決するための方策が提案されています。

 また、これまでの掘削で、地表では発見されていない様々な微生物も発見されているといいます。今後、前述の二酸化炭素からメタン生成する以外の特性を持った微生物の存在が明らかになるかもしれません 。

 (4)マントルまで掘るミッションでは、まるで宇宙にある未知の星に足を踏み入れるような衝撃を感じました。

 ところでマントルと聞いて、どろどろとしたマグマが地殻の下で動いているというイメージでしたが、それは誤りのようです。マントルとは、固い岩石で、液体のマグマではありません。地下600 km位の深さまでのマントルは、かんらん石のたくさん集まったかんらん岩(SiO2含有量(重量%)が45%以下の岩石)と考えられています。また地下600 km程度よりも深い部分では、かんらん岩と同じ化学組成を持つ高圧で安定な岩石であると考えられているそうです。

 マントルは長い年月をかけて変形しながらゆっくり流れていて、地球内部を対流しているとみられています。そして、かんらん岩は、温度が上がるか、圧力が下がるか、またはこの両方の作用によって少しずつ熔けて液体のマグマを作ります。

 液体であるマグマは、固体のかんらん岩よりも浮力が大きいので、かんらん岩の対流よりも早く地表(海底)に到達し、そこで冷やされて海洋地殻を作る岩石(玄武岩)になる、と考えられています。

 マントルへの掘削に関して、いろいろと先生方に聞いてみましたら、様々なハードルがあるようで、特にマントルの熱に耐えうる材料の開発が必須なのだそうです。1,000℃以上の温度に耐えるドリルやそれを船の動力源から繋ぐワイヤーの開発など、解決すべき課題が残っているようです。新たな挑戦には新たな材料開発が必要と聞いて、技術に携わる者はやるべきことが未だ多くあることを実感した次第です。

 これらの新たな材料開発が達成できたら、彼らはいよいよ世界で初めてマントルを掘削することに成功するでしょう。そして、そこに何があるのかも明らかになる日が来ると思います。 夢を繋ぐ新規材料の開発とともにその日を待ちたいと思います。

 

 [1]ライザー掘削技術:「ライザーパイプとドリルパイプによる二重管構造により、地下を掘削するときに使用する泥水(でいすい)を回収することが可能となり、回収した泥水は成分を調整し直して再度掘削作業に利用することができます。この使用される泥水は掘削したときに出てくるカッティングスの除去、ドリルビットの冷却や地層の圧力を抑え込むなどといった働きがあり、地層によっても調整を行っています。海水を用いるライザーレス掘削とは異なり、地層の圧力を抑え込むことが可能となるので掘削孔が崩れないようにし、より深く掘削することを可能としています。また、ライザー掘削では泥水とともにカッティングスも船上に回収されるので、研究だけでなく掘削している地層の把握や掘削孔の状態の確認にも利用されています」  (JAMSTECホームページ、2019年7月より引用)。

 【出典】八角様 HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

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この記事の著者

八角 克夫

化学技術・知的財産・情報の3つの柱のプロとして、お客様の課題解決や将来へ向けての提案をしていきたいと考えております。

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