自社サービスのブランディングで健康面をケア
1. 互いの強みを生かし、経営統合へ
株式会社セントラルメディエンス(中川隆太郎・代表取締役)は2022(令和4)年1月、それまで企業に産業医を紹介し、従業員の心身チェックや健康経営のフォローを行う産業保健事業を進めていた株式会社Veritas Japan(ヴェリタスジャパン・中川代表取締役)と、医薬品卸売事業を営む株式会社MeRecom(メレコム・同代表取締役)が合併。社名には「医療を生活の中心に』という意味が込められ、両社の強みを生かした産業保健事業やメディカルサポート事業(PCR検査、医療用医薬品の卸・販売)などを通じ、製造業や運送業、介護福祉施設などの契約企業様に対して企業の資産である従業員の健康と、健康経営実現に向けたサポートが行われています。
そんな同社ですが、経営統合の背景には2020(同2)年1月以降、日本国内で流行が続く新型コロナウィルス感染症の影響があります。企業側から「スポーツイベント開催や従業員の就業を止めないためには、クラスターを発生させない予防策が必要」といった切実な声が寄せられるようになったそうです。これら要望に当初は、治験事業を行っていたメレコム社で抗体検査キットの販売を始め、その後は抗原検査キット、PCR検査の順で実施したところ、想像を超える反響だったことや両社の代表を中川氏が兼務していたことから、経営統合に大きく舵を切ったといいます。
2. 革新的な医療サービスを創造し、人々の生活の中心に
同社事業の柱の一つである産業保健医事業では同社の「従業員の健康は企業の資産である」の考えに基づき、同社が選任した産業医の仲介を行い、産業医による健康診断やストレスチェック、職場巡視・指導などを通じ、企業全体や従業員の健康度・課題の改善といった“健康経営”に向けた取り組みをサポート(目標:3)しています。
【写真説明】同社の産業保健医事業におけるサービスの一つ「メンタルヘルス相談」(同社提供)
特に、長引くコロナ禍の影響でメンタル不調を訴える従業員も増えてきていることから、指導やアドバイスが行われているそうです。
中川社長の設立当初からのビジョン「革新的な医療サービスを創造し、人々の生活の中心に健康であることの喜びや満足感を提供する」ことに努めてきた同社ですが、設立当初から事業を通してSDGs(持続可能な開発目標)の理念に沿った活動が行われてきていたことを実感したきっかけは、新型コロナ騒動だったそうです。「今でこそ、(国民も)コロナウィルスに対する心の面における態勢(身構え)はできているが第一波の時は皆、不安でしかなかった。そのような状況下で、事業を通じ“何か提供できることはないか”と考えた時、自社サービスのブランディングで、経済を止めずに安心して就業し、かつ健康面のケアができないかという強い思いが、中川社長の心中にあったのでは」といいます。
3. 全国初!移動式PCR検査車両事業を開始
コロナ禍の中、感染対策や東京五輪・パラリンピック競技大会を控え「その場で受診(PCR検査)したい」といった問い合わせが全国から集まったことを受け同社では、全国初となる移動式のPCR検査車両事業を開始(目標:3)。今年で3年目となった同事業ですが、検査車両1台を用意し、北海道※から宮城県、大阪府、広島県、沖縄県など全国各地を巡回しています。対象は企業やイベント・スポーツ大会主催者、クルーズ船舶の運航会社など様々。これまで検査対象となった検体数は1万5千にのぼり「今年の夏ごろまでは予定が一杯(1都15県)」だそうです。同社では「例えばスポーツ選手などが、限られた時間やスケジュールの中、公共機関を使わず会場や宿泊施設の敷地内で受診ができるうえ、検査結果も2時間程度で分かり、陰性証明書も発行(外国語可)できるなど、国の基準も満たすことができ、大きな強みとなった」と振り返ります。
※北海道のPCR検査は2022年6月を予定
【写真説明】移動式のPCR検査車両(2020年11月・大阪、同社提供)
4.“心の健康度を数値化”従業員の健康増進を経営戦略の一つに
現在、同社では従業員に対し、年1回以上のストレクチェック受診(5か国語に対応)を推進するなど、定期的に心の健康度を測るための取り組みが行われています。また、受診結果を基に保健師や精神保健福祉士、産業カウンセラー、睡眠アドバイザーなど専門職の資格を持った従業員が対応しています。同社も「自身の心の健康度を数値化し、把握することに加え、相談やアドバイスを行うといった体制(環境)作りは、従業員を守るうえで重要なこと」といいます。
メンタル面以外では、健康診断の結果により食事や健康面のアドバイスが行われているほか、対外的には横浜市主催の「よこはまウオーキングポイント」に参加。従業員が万歩計を持ち「1日8000歩(同市推奨)」を目標とした健康づくりに取り組んでいます。最近ではエレベーターやエスカレーターを使わず階段を利用する従業員が増えてきたほか、互いの歩数を比べ合うなど、従業員の意識にも変化がみられるようになったそうです。
また、...
5.仕事と育児等の平等な分担を実現、女性管理職も3割強
ジェンダー平等の実現(目標:5)に向けた取り組みでは、中川社長はじめ、家事と育児の両立に対する理解度が高く、フレックスタイム制度やテレワーク(シフト制)を取り入れ「仕事と育児等」の平等な分担を実現しています。また、女性管理職が占める割合は37%(3月1日現在、全従業員49人、男女比は4:6)と、政府目標の「2020年30%」を超えています。
また、会議資料のクラウド化による社内共有(ペーパーレス)をはじめ、EV社有車の導入や社内照明のLED化、マイコップ持参、クールビズ・ウォームビスなど、持続可能なエネルギー供給の実現(目標:7、13)に向けた取り組みが行われているほか、発展途上国の子ども向けワクチン費用として寄付するため(目標:4、13)、エコキャップ運動にも参加。開始から2ケ月で、ワクチン9人分に当たる約8千個が集ったということです。
6.多岐にわたるSDGs活動で地域に寄り添った社会貢献
ダイバーシティ経営(目標:10)に向けた取り組みでは、前述のPCR検査後の陰性証明書発行への対応や従業員の年齢や国籍にとらわれることなく20~60代までと幅広い採用(外国籍2人)が行われているほか、中川社長や営業部長自らがOJT[1]やロールプレイング[2]を行い、自身の経験を基に従業員の指導にあたっています。また「地域と関わることで、自分たちの仕事に何かプラスになることを得てほしい」と、従業員に対し月4時間(就業時間内)の自己啓発時間を設けています。
また、社会貢献面(目標:3、11、16)では「企業の稼働を止めない」ことを強く意識し、インフラ事業や福祉施設へのマスクの提供をはじめ、体温計や文化芸術団体への寄付などが行われています。また現在、世界的な問題となっているウクライナ危機(2021年~)では、ストレスチェック事業やPCR検査事業内での寄付活動を予定しています。
【写真説明】横浜市へマスクを寄付する同社従業員。写真中央は中川社長(2020年4月・同社提供)
このほか、今年2月からは東京都市ヶ谷の提携クリニックと協同で、これまで法人などを中心に行っていたPCR検査の対象を個人に広げ、無料で提供(6月末まで)。連日24時間態勢(4月まで)で行われ、受診数は会社帰りの会社員ほか、児童生徒とその親など周辺住民らを中心に3千件(3月30日時点)を超えたそうです。
7.SDGs通じ、医療界の唯一無二の存在に
これら活動を続ける中でSDGsに対する従業員の意識にも変化が表れてきているようです。例えば、昼休憩時の消灯や業務で使用するボールペンの一本化といった細かなところから、移転時に不要となったデスクに中川社長自ら壁を取り付け、コーヒーカウンターとして再利用するなど「当たり前のようだが、取り組んでいなかったことに対する細かな気付きや、ユニークな発想が出てくるようになった」と話しています。また、最近では〝UD(ユニバーサルデザイン)を社内文書に!〟という社員発想のアイデアが生まれました。
【写真説明】不要となったデスクをコーヒーカウンターとして再利用(同社提供)
2030年のゴールに向け「17の目標、すべてにかかわっていきたい」と話す同社ですが「まずは『従業員の健康は企業の資産である』(目標:3)の理念の基、企業全体の健康度を改善することで企業利益の向上につながるようサポートを続けていきたい(目標:8)」と話します。また「長引くコロナ禍や世界情勢が激しく変化する中、皆が少しでも心身ともに健康に過ごせ、働けるよう取り組んでいきたい」といいます。
同社がこれまで、従業員(契約企業)の健康診断を基にケアを行った人数は約6万人(2017年~)に上りますが「2030年ごろには日本国民の10%にあたる1000万人を目標に、健康度の向上につなげる取り組みを進めていきたい。また、SDGsを通して医療界の革新的サービスを展開する唯一無二の存在として当社を知っていただければ」と様々な思いを語ってくれました。
記事:産業革新研究所 編集部 深澤茂
【記事中解説】
[1]OJT…On The Job Training(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)・職場での実務経験を通し、業務に必要な知識や能力、技術などを身に付けるための職業訓練。
[2]ロールプレイング…ロール(role・役割)とプレイ(play・演じる)を組み合わせた言葉。現実に近い模擬場面を想定し、さまざまな役割を演じさせ、問題解決法を会得させる学習法で社員教育などにも使われている。