デザインによる知的資産経営:「ブランドづくり」(その3)

 前回のその2に続いて解説します。
 

2.ブランドづくり

(1)商品の名前

 「無印良品」を運営する株式会社良品計画(1990年に西友から分離)は、自社が提供する商品・サービスに「無印良品」「MUJI」以外の商標は、原則として使用していません。多くの企業は、自社の名称(ハウスマーク)があり、その下で食品を扱う、衣料品を扱う……ということになると、個別の名前(商標)を付けます。日本のブランドの多くは、「○○社」の特定の商品グループを示す商標「**」という関係ですが、駄菓子から家まで、全部が「無印良品」です。
 
 良品計画という社名はほとんど知られていないでしょう。「『無印良品』ってどこが作っているの」と考える人はほとんどいないはずです。需要者は「無印良品」は「無印良品」だ(それ以上詮索しない)、と思っています。ここが重要です。
 
 「下請けからメーカーへ」と思う人たち……。筆者の経験では、その方々は「名前」に関心がないのです。「技術」ないしは「製品」(「商品」ではなく)ばかりを考えていると、「名前を考えよう」と提起してもインパクトのある名前は出てこない。
 
 「無印良品」という名前がなければ、今の「無印」の世界はなかったことに気づいてほしいと思います。「名前」を付けるとき、今、目の前にある商品を売ることだけでなく、その商品そしてこれから自社が出す商品で生活を、新しい世界をつくる、という意気込みで「名前」を付けることを考えてください。
 
 一つの商品を世に出したら、「**(商標名・ブランド)だから」と思わせるに至る細かな細工や工夫をして努力する。これが「ブランドづくり」のために重要です。そして、「理念」からぶれないことを忘れずに。
 

(2)企業理念

 企業理念として、良品計画のHPには良品価値の探求など3項目が挙げられていますが、本稿との関係では企業理念の下に掲げられた「無印良品の理想/私たちは何のために存在しているのか/美意識と良心感を根底に据えつつ、日常の意識や、人間本来の皮膚感覚から世界を見つめ直すという視点で、モノの本質を研究していく。そして『わけ』を持った良品によって、お客様に理性的な満足感と、簡素の中にある美意識や豊かさを感じていただく」が分かりやすいと思われます。
 
 キーワードは「人間」「モノの本質」「わけ」そして「美意識と良心感」でしょう。松井忠三前社長は「原点にあったのは日本の禅や茶道の精神です。飾り気がない状態にとことん削ぎ落として簡素化し、その結果として最後に残る価値を表現したいと考えたのです。極めて清楚な、(セゾングループの創業者である)堤清二さんの言を借りれば『ピューリタン』なイメージでした」と語っています(「『獺祭』の開発コンセプトで参考にした無印良品というブランド構築の舞台裏」http://diamond.jp/articles/-/50294)
 

(3)ビジュアル

 「無印」は、商品における表示にえんじ色の使用を徹底しており、基本的には再生紙を採用しています。この「再生紙」が「無印」のイメージアップにつながりました。現在でも再生紙のショッピングバッグを使っている店はあまりないでしょう。「無印」は差異化を意図することなく、再生紙のノートやメモ帳など、自然に「再生紙」を多用しており、その流れでショッピングバッグにも使用したのですが、その結果、「エコ」に関心のある企業というイメージまで獲得した次第です。
 

(4)商品のチェック

 「無印」の商品の多くは社内で企画され、商品化すべきと判断されたものは社内または社外のデザイナーがデザインを起こします。商品化すべきかどうかの判断では、「無印」の商品として世に出す価値があるかどうかという観点が重視されます。あまたあるナショナル...
ブランドの商品との関係において、「これでいい」という特性を訴求できるかどうか、ということです。
 
 もう一つはモジュール化です。これは収納家具で顕著なことですが、棚と収納箱はすべてモジュール化されており、一つの棚に種々の収納箱がきれいに収まります。このモジュールは「家」にもつながっています。そして、生活空間での意味づけが検討されます。「家」につながるステップです。これらのチェックを通過して初めて、「無印」の商品として世に出ることになります。
 
 飾り気がない状態にまでとことん削ぎ落として簡素化し、最後に残る価値を表現した商品を受け入れる人たちに絞った商品づくりといえます。「ターゲットの絞り込み」です。デザイナーの田中氏は「無印」の商品を「嫌いな人は嫌いな商品」と言い切っています(「無印良品白書」1986年 スミス p.10)
 
 次回、その4では、ブランドが縛りにを解説します。
 

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