多品種少ロット生産現場の人材育成と納期管理

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1. 多能工化

 
 多能工化、進めないといけないのはわかているけど、なかなかうまく進まないな、という企業は多いと思います。私自身、金型設計から機械加工、組み立て、トライ、外注手配や原価集計などもやっておりましたので、私の実体験を元に、どうやれば進めやすいのか解説します。結論から申しますと、指示書や手配書が不要になるところから進めるのが良いと思っています。なぜなら、多能工化のメリットの一つが間接コストの削減だからです。例えば、次のような進め方があります。
 
・打ち合わせたついでに自分でレイアウト図を作成する。
・順送レイアウトを作図したついでに金型設計まで行う。
・部品バラシ図を作図したついでに加工データまで作る。
・加工データを作ったついでに機械の操作までやる。
・機械加工をやったついでに手仕上げ加工までやる。
・機械加工のついでに型の組み立てまでやる。
・型組み立てをやったついでにトライまでやる。
 
 多能工化には、この「ついでに」がポイントだと思っています。「ついでに」そのまま自分がやることで、相手に情報を伝える手間が省けます。例えば、ちょっとしたカム機構の自作はよくやりましたが、カム本体やカムドライバーの部品図、それぞれの寸法公差、焼き入れ部位の指示など、図面を書いていると結構大変です。
 
 自分の頭の中にある情報を、他人に伝えるとき、その必要な情報量は3倍以上になると思っています。なぜなら、自分の中ではすでに処理されている「背景」と「目的」まで伝えないと本当の意味で伝わらないからです。逆にここを省くと、相手には機械的な指示をすることになります。多くの人材育成のミスマッチは、この「背景・目的」が省略されることによって起こっていると私は考えています。
 
 例えば、ある部品に対し、「ここにフレームハード(火炎焼き入れ)処理をしておいてね」と指示する場合、単に上記の言葉だけで指示をするのか、または次のように、「この部位はカムの摺動面であり、強い偏心荷重もかかりやすい、そもそも4ミリの厚板を部分トリムするステージなので、熱処理をかけた後、平研でガタつきのないクリアランスで仕上げておいてね。次もこういった部品があったら同じように考えて」と伝えることで、教えられた人はその知識を次に活かしていくことができます。
 
 話しが少しそれましたが、図面を書いた自分がそのままデータ作成、機械加工まで行えば、細かなところも全部自分の頭に入っているので、他の人に指示するよりもスムーズに作業に入れるわけです。このスタートダッシュこそが間接コスト削減の決め手の一つとも言えます。特に金型は、継続して使う図面ならば履歴管理のため、手をかけて図面を描きますが、通常一点モノが多いので、型が出来てしまえば、その図面を仕上げるのはトライしながら並行してやるぐらいでも良い、というものが多かったようです。
 
 このように多能工化を進める時には、まず一つの作業が自分一人でできるようになってから、その「ついでに」作業でき、なおかつ指示書、手配書が要らない作業から意識して進めるとコストメリットが得られやすくなります。逆の発想ですが、行程間で手配ミス、指示ミスが起こっている場合、書面の体裁がいくら整っていても、伝わるべき情報が伝わっていない場合があります。
 

2. 個別受注品の納期遅れ対策

 納期管理
 一品料理品の生産管理を行う方法をお伝えします。一品料理品で前倒し生産を行う際のポイントは、「納期で管理をしない」ことです。その理由は、生産する順番を「納期優先」にすると、もっとも稼働率を上げられる生産計画ができなくなってしまうためです。例えば、よく掲示板の日付カレンダーに図面を差し込む生産管理をしている企業は、図面を早めにもらっていても、納期がまだ先であれば、着手するのが後回しになります。この場合、その納期直前に着手しようと思った頃には、すでに別の引き合いがドサッと入ってきて、受注できない、納期が遅れる、といった問題が発生していると思います。では、この納期がまだ先の仕事、いつやるのがよいのでしょうか。
 
 これはやみくもに早くやれば良いわけではありません。「精度の高い工数見積もり」によって作った隙間時間にぴったり当てはめるのです。例えば、ある部品を7.5時間で加工すると見積ったとします。これを朝から着手する計画を立てた場合は、その後に、どんなに先の納期の物であっても、1.5時間や2時間と見積もった仕事があったならば、そこにそれを加工する計画を入れてください。1個3.5時間と見積もった部品が3個あったら、それは1日の中に入れてしまい、厳しめの計画でいくならば、その後に1時間くらいの仕事を入れてしまうのもアリかもしれません。私の経験上、3.5時間で見積もった仕事は、3時間など、もっと早く終わります。やはり後に次の仕事が控えているからです。
 
 「じゃ、時間の読めない仕事はどうするのか」これは、私も経験があります。初めてやる仕事、薄肉の切削加工で送り速度を上げられない、段取り回数が多い、といったような正確な見積もり時間を算定できない場合もあります。こんな時は、「引き算」で見積もりをします。例えば、私の経験上、5軸でしか加工できない切削部品が過去何度もありました。これを初めて加工する場合、正確に工数見積もりをするのは困難です。
 
 この時、私は自問自答しました。「これはまる3日かかるのか」、いや、どう考えてもそこまではかからないな。「では、2日半か、2日やっても次の日の午前中くらいまでかかってしまうのか」、いや、1日とあと半日では辛いと思うが、丸2日まではかからないと思う。初日は朝から着手し、その日、2、3時間残業して、翌日午後1...

1. 多能工化

 
 多能工化、進めないといけないのはわかているけど、なかなかうまく進まないな、という企業は多いと思います。私自身、金型設計から機械加工、組み立て、トライ、外注手配や原価集計などもやっておりましたので、私の実体験を元に、どうやれば進めやすいのか解説します。結論から申しますと、指示書や手配書が不要になるところから進めるのが良いと思っています。なぜなら、多能工化のメリットの一つが間接コストの削減だからです。例えば、次のような進め方があります。
 
・打ち合わせたついでに自分でレイアウト図を作成する。
・順送レイアウトを作図したついでに金型設計まで行う。
・部品バラシ図を作図したついでに加工データまで作る。
・加工データを作ったついでに機械の操作までやる。
・機械加工をやったついでに手仕上げ加工までやる。
・機械加工のついでに型の組み立てまでやる。
・型組み立てをやったついでにトライまでやる。
 
 多能工化には、この「ついでに」がポイントだと思っています。「ついでに」そのまま自分がやることで、相手に情報を伝える手間が省けます。例えば、ちょっとしたカム機構の自作はよくやりましたが、カム本体やカムドライバーの部品図、それぞれの寸法公差、焼き入れ部位の指示など、図面を書いていると結構大変です。
 
 自分の頭の中にある情報を、他人に伝えるとき、その必要な情報量は3倍以上になると思っています。なぜなら、自分の中ではすでに処理されている「背景」と「目的」まで伝えないと本当の意味で伝わらないからです。逆にここを省くと、相手には機械的な指示をすることになります。多くの人材育成のミスマッチは、この「背景・目的」が省略されることによって起こっていると私は考えています。
 
 例えば、ある部品に対し、「ここにフレームハード(火炎焼き入れ)処理をしておいてね」と指示する場合、単に上記の言葉だけで指示をするのか、または次のように、「この部位はカムの摺動面であり、強い偏心荷重もかかりやすい、そもそも4ミリの厚板を部分トリムするステージなので、熱処理をかけた後、平研でガタつきのないクリアランスで仕上げておいてね。次もこういった部品があったら同じように考えて」と伝えることで、教えられた人はその知識を次に活かしていくことができます。
 
 話しが少しそれましたが、図面を書いた自分がそのままデータ作成、機械加工まで行えば、細かなところも全部自分の頭に入っているので、他の人に指示するよりもスムーズに作業に入れるわけです。このスタートダッシュこそが間接コスト削減の決め手の一つとも言えます。特に金型は、継続して使う図面ならば履歴管理のため、手をかけて図面を描きますが、通常一点モノが多いので、型が出来てしまえば、その図面を仕上げるのはトライしながら並行してやるぐらいでも良い、というものが多かったようです。
 
 このように多能工化を進める時には、まず一つの作業が自分一人でできるようになってから、その「ついでに」作業でき、なおかつ指示書、手配書が要らない作業から意識して進めるとコストメリットが得られやすくなります。逆の発想ですが、行程間で手配ミス、指示ミスが起こっている場合、書面の体裁がいくら整っていても、伝わるべき情報が伝わっていない場合があります。
 

2. 個別受注品の納期遅れ対策

 納期管理
 一品料理品の生産管理を行う方法をお伝えします。一品料理品で前倒し生産を行う際のポイントは、「納期で管理をしない」ことです。その理由は、生産する順番を「納期優先」にすると、もっとも稼働率を上げられる生産計画ができなくなってしまうためです。例えば、よく掲示板の日付カレンダーに図面を差し込む生産管理をしている企業は、図面を早めにもらっていても、納期がまだ先であれば、着手するのが後回しになります。この場合、その納期直前に着手しようと思った頃には、すでに別の引き合いがドサッと入ってきて、受注できない、納期が遅れる、といった問題が発生していると思います。では、この納期がまだ先の仕事、いつやるのがよいのでしょうか。
 
 これはやみくもに早くやれば良いわけではありません。「精度の高い工数見積もり」によって作った隙間時間にぴったり当てはめるのです。例えば、ある部品を7.5時間で加工すると見積ったとします。これを朝から着手する計画を立てた場合は、その後に、どんなに先の納期の物であっても、1.5時間や2時間と見積もった仕事があったならば、そこにそれを加工する計画を入れてください。1個3.5時間と見積もった部品が3個あったら、それは1日の中に入れてしまい、厳しめの計画でいくならば、その後に1時間くらいの仕事を入れてしまうのもアリかもしれません。私の経験上、3.5時間で見積もった仕事は、3時間など、もっと早く終わります。やはり後に次の仕事が控えているからです。
 
 「じゃ、時間の読めない仕事はどうするのか」これは、私も経験があります。初めてやる仕事、薄肉の切削加工で送り速度を上げられない、段取り回数が多い、といったような正確な見積もり時間を算定できない場合もあります。こんな時は、「引き算」で見積もりをします。例えば、私の経験上、5軸でしか加工できない切削部品が過去何度もありました。これを初めて加工する場合、正確に工数見積もりをするのは困難です。
 
 この時、私は自問自答しました。「これはまる3日かかるのか」、いや、どう考えてもそこまではかからないな。「では、2日半か、2日やっても次の日の午前中くらいまでかかってしまうのか」、いや、1日とあと半日では辛いと思うが、丸2日まではかからないと思う。初日は朝から着手し、その日、2、3時間残業して、翌日午後15時くらいまでなら終わっているはず。夜間自動もかけられる箇所もあるし。このように、時間が読めない仕事は、「引き算」で大まかな工数見積もりを行い、計画に当てはめます。この時、無理に厳しく時間を詰める必要はありません。時間が読めなければ、いくらなんでもここまでなら終わるという時間で見積もれば良いのです。そのうえで日々の生産計画に入れ込んで下さい。
 
 もし、早くできてしまえばラッキーです。空いた時間ができれば、そこにまた前倒し生産を行うだけです。もっとも良くないのは、時間が読めないからと言って、計画を立てること自体、工数見積もりをすることをやらなくなることです。ある程度、安全をみた計画を立ててみて、もし納期遅延になりそうな部品がありましたら、交渉をするなど早めに手を打つことです。これも計画を立てる、前倒し生産を行うことで、見えてくることです。
 
 このように、精度の高い工数見積もりをする。その工数で計画を立てる。どんなに先の納期のものであっても隙間の時間に前倒し生産を行う。受注を平準化する・受注を増やす、これらの手順によって、個別受注品の納期遅れ対策となり、売上と利益を増やすことができます。
   

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この記事の著者

村上 英樹

金型・部品加工業専門コンサルティングです!販路開拓・生産改善・外注費削減の3つを支援するトライアングル支援パッケージ、技術を起点とする新しい経営コンサルタント

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