COP21 パリ協定: 新環境経営 (その45)

 新環境経営への取組みについての話題を提供するに当たり、経済成長に邁進してきた中で発生した公害の歴史、CSRの取組の変遷、環境マネジメントシステム、有害物質管理の現状、エネルギーマネジメント、エコを経営に活かす、その後、省エネ、創エネ、畜エネについて紹介しました。前回から、COP21パリ協定ついて解説しています。今回は、その2です。
 

1. 炭素予算

 気温上昇の目標が決定されたことで、これから排出できる温室効果ガスの量が計算できます。残された排出量をお金に換算して捉え「炭素予算」という考え方で表します。国際環境NGO「気候行動ネットワーク」によると、今のペースで二酸化炭素の排出が続けば、今後30年未満で予算を使い切ってしまいます。そうなると、企業が所有する炭鉱や油田などの化石燃料はほぼ使えなくなるため、事業はやがて立ちゆかなくなります。世界では化石燃料の関連企業から投資を撤退する「ダイベストメント:ディス・インベストメント」という動きが始まっています。
 

2. 炭素の価格化

 パリ協定とともに採択された決定文書に、「炭素の価格化など排出削減へのインセンティブの重要性を認識する」があります。「2度目標」を達成するには、排出できる温室効果ガスは限られます。「炭素予算」を石炭や石油など化石燃料の取引に反映させる有効策とされているのが「炭素の価格化」です。
 
 これは、二酸化炭素を出せば出すほど損をする仕組みです。「経済効率的に排出を減らす方法」として、世界銀行や経済協力開発機構も推奨しています。手法としては、炭素税と排出量取引制度があります。炭素税は排出する炭素量に応じて課税するのです。排出量取引は企業などが排出できる炭素量に上限を定め、企業間で不足分や余剰分を取引します。いずれも排出する炭素1トン当たりに価格がつきます。化石燃料の取引価格に上乗せになれば、割安になる再生可能エネルギーを選ぶ企業や消費者が増え、全体として「実質排出ゼロ」の社会の実現へ向かいます。これは、企業には、新たなビジネスチャンスにもなります。炭素価格がいくらなら炭素量の排出削減が進むのか、OECDのグリア事務総長は1トン当たり30ユーロ(約3800円)以上への引き上げを加盟国に促しています。日本は2012年に事実上の炭素税を導入しましたが、国際的にはほぼ最安レベルで、排出量が多い石炭火力発電の新設計画が相次いでいることからも、低炭素社会への転換には役に立っていないようです。
 

3. 価格化への対応

 COP21では、独仏など21の国や州政府、及び英石油大手BP、電機大手フィリップス、食品大手ネスレなど70社以上が「炭素価格化リーダーシップ連合」...
を結成しました。世界の企業が前向きなのは、パリ協定を受けて各国が厳しい排出規制を導入するのを避ける狙いもあります。炭素の価格化の方が「低炭素社会へ向かう道筋で、市場の活用を含め、企業の裁量の余地が大きいと考えている」のです。一方、日本の経団連は、炭素税や排出量取引について「規制的な手法は、民が主導の活力ある経済社会の実現を阻害する」として廃止や反対の姿勢を崩していません。規制が行き過ぎれば経済が動かず、民間に任せればうまくいくわけでもありません。「温室ガス実質排出ゼロ」「2度目標」の達成に向けて、官民が知恵を出し合って、道具をうまく使っていく必要があるでしょう。
   

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