今回は、影で企業の社会的信用を支え、社員がいきいきと働く環境作りを担当する総務部門が、新入社員に仕事の基本を身につけさせる事例をお話しいたします。
1. 新入社員の心構えは、迎え方で決まる。はじめが肝心・理念を伝えていますか
N社は、情報サービス業で職務は客先対応のマルチタスク型が主流で、一人一人の仕事への取り組み方が成果に大きく結びつく業態の会社です。このN社で、今年も新卒を2名採用しました。今はビジネスマナーや社会人のための基礎講座などの新入社員研修を進めています。半年が経過して仮配属ですが、実務研修が順調に進んでいるにも関わらず、社長には 心配事があるようです。それは、「新入社員が定着して、未来を支える幹部候補生として育ってくれるだろうか」ということです。実はここ数年、新入社員が1年もたたずに退職してしまうのです。
昨年も目をかけていた新入社員が秋に退職してしまいました。正式配属してまだ3ヵ月でした。気になった総務部A子さんが理由を聞くと「研修で聞いた会社の方針や社長の経営姿勢と現実が違いすぎる」と、答えました。
しかし、一番の理由は「上司も先輩も影で会社の不平不満を言っているし、将来への展望も持っていない」ことでした。 驚いたA子さんは、部長にそれを話し、今後の対策を相談しましたが「学生気分から抜け出せないようだ」と、取り合ってもらえません。
そして、若手が定着しない事もあり、会社の業績低迷に社長は頭を抱えています。研修の内容より先輩社員や上司の一言が、新入社員にとっては何倍も気になり影響を与えるのが現実なのです。会社外でも、先輩社員が「どうしたら会社が良くなるのか」「自分は何をこの仕事を通して実現しようとしているのか」「今後の展望」などを率先して語り合える会社が、「進化・発展・持続」できる企業となり、更に良い社員、後輩を育てる事になります。 社員の成長が財産であるはずのN社でさえも、こんなちょっとしたことでも、対策が未だ見すごされたままになっています。 総務が組織運営の礎(いしづえ)と気がつくまで、変態脱皮はできないのでしょう。
新入社員に取っては、初めての上司は、大きな影響を与えるのです。 それには、上司の個性もありますが、社風も大きく関係しているのです。 迎い入れる側の教育も大事であり、聴いてあげる環境を整えましょう。
2. 新入社員と先輩社員の交換日誌 ・・共育の“しくみ”づくり
H社は、新入社員全員に1年間、日記方式で「実習ノート」を書かせています。これは、文章により、自分の考えを相手に伝える訓練がねらいです。同様に「報・連・相+確認」や5W3Hで、端的に表現するコミュニケーションの訓練も兼ねています。 今時では、PCを活用してビジネス文書の書き方と情報の共有化の訓練を兼ねることもありますので、手書きが良いかは目的に合わせて選択しましょう。
「新入社員が新鮮な目で観察して発する質問や提案」には、企業にとっての多くの宝が隠されています。この実習ノートには、「どんどん何でも書き込んでほしい」とH社の社長は、日頃から語っています。
(1) 実習ノートは、その日の終業時に実習先の上長(配属後は上司)に提出されます。上長は次の朝までに添削し、コメントを添えて本人に実習ノートを戻します。
(2) 実習ノートを読むと新入社員の個性や考え方が、実によく伝わってきます。馴れて気がつかなくなったムダやロスミスが“見える化”しますし、彼らにどんな点に注意して教えなければいけないかも明確になります。忙しい時に4人も5人もの実習ノートをチェックするのは労力を要することですが、新入社員を通して若者を知るチャンスにもなっているのです。新入社員は自分が書いたことに対して、必ず添削され、上司からの返答や解説、コメントが書かれてくるので、上司の気質や好みが、人間味をもって伝わってくるのを感じます。
こうして、一年を通して書きつづけられた実習ノートは、...