人的資源マネジメント:技術者育成のパフォーマンス(その4)

 前回のその3に続いて解説します。 
 

3. 大切なことは育てること

 
 Googleの副社長が伝えたいのは、採用の段階でその人の入社後のパフォーマンスを評価することは本質的に難しく、大切なのは育てることだということでしょう。そして、技術者を育てるのに大きな役割を果たすのが、リーダーやマネジャーだといえるでしょう。
 
 このインタビュー記事を読んで私は、日本企業では当たり前だったことがGoogleによってデータで検証されたという印象を持ちました。と同時に、採用基準を複雑化、詳細化し、雇用の流動化を加速させ、育成することなく即戦力を重視している(ように見える)今の日本企業に、強い危機感を持ちました。
 
 とくに問題だと思うのが、開発の現場から「成長」の要素が失われていると感じることです。
 
 以前に紹介しましたが、リクルートワークス研究所が行った「ワーキングパーソン調査2012」の中の年代別に成長実感を持っているかどうかの調査結果では、年代に関係なく約20%の社員が成長している実感がないと答えています。また、成長実感を持つ割合も年齢とともに下がっています。
 
 
 このデータは全産業が対象ですが、いくつかのメーカーや IT企業で話をすると、成長実感がなくて仕事に対する意欲ややる気を失っている技術者が無視できない割合いるという課題が出てきました。現場の技術力が低下している原因のひとつだということでした。
 
 また、次のグラフは、約50人の技術者のレベルアップを支援したときに、事前に技術者としての満足度を確認したデータです。10が満足、1が不満、5がどちらでもないとして点数をつけてもらいました。
 
 
 成長実感ではなく満足度を聞いたものですが、4点以下を合計すると約20%です。個別にヒアリングも実施したのですが、多くは、成長していない、あるいは、成長できると思えないことが不満につながっているということでした。
 
 技術者の「成長」や「育成」は、開発作業に較べると緊急度が高くないために後回しになりがちかもしれません。しかし、その重要度は何よりも高く、社員100% が成長し、常に仕事にやりがいを持つことができる組織にすることをあきらめてはいけないはずです。
 

4. 技術者を育てない、今の開発の仕組み

 
 ハードウェアにしてもソフトウェアにしても品質の高さは日本の強みであり、品質最優先という価値観のもと、開発現場では、製品やサービスそのものの品質やコスト、納期などの目標を達成するために、開発規定や開発プロセスなど様々な仕組みが整備し、運用してきました。
 
 しかし、今やその仕組みが、開発現場に問題を引き起こしている原因となっています。以前にも、次のような図を紹介しました。
 
 
 開発のプロセスやルールの強化は、いつの間にかそれらを遵守することが目的化してしまい、目的意識や創意工夫の意識を失わせています。常に開発期間短縮を求めて効率重視を要求するゴール設定は、失敗を許さないことが暗黙ルールとなり、10年以上も同じ仕事を繰り返している技術者を増やしています。そして、成果主義や役割定義の詳細化を進める人事制度は、助け合うことを損と考える個人主義や、やる気のない事なかれ主義を広めています。
 
 よい製品、よいサービスを作るための開発の仕組みは、技術者を育てる仕組みにはなっていないのです。制度疲労を起こしているといえるのかもしれませんが、いつの間にか、人を育てることをもっとも重視していた日本メーカーは、技術者の成長や育成という...
視点をなくしてしまったということではないでしょうか。
 

5. 「ひとづくり」指向の開発プロセス

 
 この問題に気づき、仕組みを見直している組織もあるのですが、その多くは、製品やサービスに焦点をおいたままでの改善にとどまっているように思います。仕組みの焦点を、技術者という「人」におくことが今の開発の仕組みに必要なことだと考えます。
 
 そのための考え方として提唱しているのが、「チーム」と「エンゲージメント」と「経験学習」を開発プロセスに組み込むことなのです。
 
  
◆関連解説『人的資源マネジメントとは』

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