人的資源マネジメント:予測精度を高めるメトリクス基準モデル(その1)
2017-12-22
メトリクスによる実践的進捗管理の仕組みは3つの仕組みで構成されているのですが、今回は「基準モデル」について解説します。基準モデルは見積もり作成のための数値モデルで、精度の高い見積もり、予測を実現するための手法です。
図118「基準モデル以前と以後の工数予実差」は、事例として紹介している民生機器メーカーにおいて、工数の計画と実績がプロジェクトごとにどのくらい乖離していたのか、それが、基準モデルの仕組みによりどうなったのかを示したグラフです。工数の実績値と計画値の差を実績値で割った値を示しています。
同程度の開発規模(100人月程度)のプロジェクトを、基準モデル導入以前、以後で5つ取り上げています。導入後の方が全体的に予実差が小さくなっていることがわかりますし、加えて重要なのは、バラツキが小さくなっていることです。導入以前には、大幅に計画遅延を起こしたプロジェクトが2つあることが特徴的です。
計画に対する実績のバラツキが大きいと、計画を信用することができなくなります。結果的に見積もり精度が高いプロジェクトがあったとしても、見積もり精度が高いのか低いのかはプロジェクトが終わってみないとわからないので、バラツキが大きい場合は、メンバーの確保や他のプロジェクトのスケジュール調整などに突然振り回されることになってしまいます。実際、マネジャーたちの苦労は絶えませんでした。それでは、基準モデルの仕組みについて解説します。
多くのプロジェクトで正確に見積もりたいもののひとつは工数ですが、その工数も含めてもっとも普及している見積もり方法は KKD ではないかと思います。経験、勘、度胸で「エイヤッ」と見積もる方法です。
KKD による見積もりは、十分なプロジェクト経験を持つ人がやると高い精度のとなる場合もありますが、先に示した例のように精度のバラツキが大きくなりがちですし、プロジェクト関係者(ステークホルダー)が多くなったり、協業やアウトソーシングが必要になったりすると、見積もり根拠を説明できない KKD では合意をとることができず、プロジェクト上の大きな問題となってしまうことがよくあります。
KKD ではない見積もり方法を導入している場合でも、見積もり式や見積もりモデルの作成に分析的に取り組むことが多いようです。分析的とは、プロジェクトに関係する要因を細かく分析、抽出して、その要因を考慮した見積もり方法を作成するという意味です。プロジェクト規模や期間、複雑度、困難度、さらには、メンバーの経験年数やスキルなど、関係があると考えられる様々な要因を数値化して、その影響を考慮した見積もり式(モデル)を作成する方...
法です。
見積もり式(モデル)を作成すると、見積もり精度を上げる必要があるわけですが、分析的方法で作成した場合、見積もりに使う要因をより増やしたり、詳細化したりすることになります。その結果、見積もりのためのデータ集めや計算が大変になり、手間がかかる割には見積もり精度が高くならないとなりがちです。そうやって見積もりモデルが使われなくなった現場を数多く見てきました。
次回も、予測精度を高めるメトリクス基準モデルの解説を続けます。