トヨタに関して在庫持たない経営でいつも批判されるケースですね。
トヨタの経営原理を見ている立場から説明します。
在庫をもってリスクを避けると事故が起こった時の緊急対応能力がつかないと思います。
今回は最小の時間で復旧するまでの時間工場の稼働停止することでしょう。
ジャストインタイムでは在庫水準は工程の安定性に依存します。連鎖する工程が故障や不慣れで不具合を直す時間が不安定であればあるほど在庫水準を上げます。逆に言うと在庫水準を下げれば下げるほど工程の安定性を上げる必要があります。
故障していない工程の稼働を持続すると故障工程の前に在庫がたまるだけで出荷は止まります。
稼働停止で稼働率が下がってコストが上がるけれども、経営で重要なのはコストより出荷です。
TOC(制約理論)でいうならばエックスペンスよりスループットが重要なのです。
在庫と工程安定性の関係は車間距離と運転技術の関係と同じです。
運転技術が低いと車間距離を長く取る必要があるが運転技術が高いと車間距離は短くていい。
つまり工程の安定性を上げる能力(工場の普及時間を短縮できる設備管理能力)が低いのが真のリスクと言えます。
拙著「トヨタ式経営18の法則」の1つが「在庫は麻薬である(時間である?)」というのがあります。在庫(麻薬)があると短期の痛み(リスク)は消えるが長期の痛みは治らない(改善できない)というメタファーです。
今回の事故でもしトヨタが反省して在庫を持つようになればトヨタの経営能力が下がるでしょう。
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製造業の経営管理支援をしています本間です。
今岡先生の回答は大野耐一さんの著書にもでてくる「在庫のムダ」の説明で、現場改善の原点ともいえる考え方です。これはこれで正論なのですが、日本の経営者が現場改善の成果に慣れてしまっていることが問題なのではないかと思います。
現場の対応力が高まれば高まるほどリスクを考えるのは後回しにするというのは、日常にもあふれるよくある話です。現場活動の在庫削減とリスク対策としての経営的な在庫保持がこんがらがっていると何か起きた時にこういった問題が起きる可能性があります。
最近では中国での部品調達や下請け先の廃業で懲りた経営者が増えていますので、在庫に対する考え方も少しずつかわってきていますが、日本の部品会社を過度に信じる傾向はかなり残っています。これも一種の麻薬といえます。
実際のトヨタやトヨタの部品会社がリスクに対してどう考えているのかはわかりませんが、ただ、今までトヨタの工場を見学してきた感想では、トヨタは巷で信じられているようないわゆる在庫レスではなく適切な安全在庫を用いた工場運営をしていましたので、他の会社よりはリスク対策はしっかりしているようです。今回の事態はよほど想定外の問題なのかもしれません。
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前回の回答に関する補足です
今回の事故に対する記事を観てみました。愛知製鋼の生産の7割が事故の圧延ラインを経由しているとのことです。圧延工程は簡単に修復することは難しいので短期間で元に戻すのは厳しいようです。工場の生産量が減るという意味では問題ですが、トヨタのリスク管理としてはなるほどと思わせるところがあります。
先の回答でトヨタは在庫レスで動いているわけではないというお話をしました。国内向けは受注組立生産というある程度在庫レスの仕組みで動いていますが、そればかりだと平準化生産を実現できないので、同じ工場(製造ライン)に海外向けの自動車を流すことで平準化生産を達成させています。海外とくに米国での自動車販売は在庫店頭販売が基本ですのでこの在庫を用いて生産量を調整します。トヨタの日本工場の約50%の生産が海外向けです。
今回の減産はこの部分の生産量調整が主目的のようです。実際に生産を止める前に海外生産を止めて国内分の作りだめをしていたようです。過去の地震の時には減産によって米国の店頭在庫が減ったことで減収になったことがありましたが、さすがにそこは過去の反省からSCMリスク対策(米国での製品在庫調整)はかなり綿密にとられているのではないかと思います。
ジャストインタイムという言葉が誤解を生むことがありますが、トヨタの生産の基本は計画生産です。材料や部品在庫で調整するのではなく、海外の製品在庫や国内での予約販売で平準化生産を実現しているのがトヨタの儲けの秘密です。
ただ、そうはいっても部品会社や従業員には影響が出ますので、そこはトヨタがこれから考えていくのではないかと思います。
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