新規機械を導入することに至った経緯は、本社の企画部が提案した新製品の開発がきっかけです。
これまでは自動車や産業機械の部品の製造に特化してきたのですが、年々受注件数が減少してきているので、スマートフォンやタブレットのアクセサリーの製造企画がなされました。私は、新規企画については異論ないのですが、機械の導入に当たって多額の設備投資費を必要とすることに疑念を抱いています。多額の資金を投入して新規事業を実施するぐらいなら、既存の機械を使用してもっと部品の種類を増やしたり、価格に幅を持たせて受注件数を増加させればよいと思っています。
最終的にどのようにして会社全体で結論を出していけば良いか、最良の策を教えてください。
工場ですぐ使える品質改善技法の開発と普及活動を行っている高崎ものづくり技術研究所の濱田と申します。
右肩上がりの成長が望める時代と異なり、高価な設備の導入は慎重に考える必要があります。かといって、事業拡大のチャンスを逸してしまうデメリットもあります。
そこで、中小企業振興策として国や地方自治体の各種融資や補助金・助成金の活用があげられます。
特に、高額の設備導入が必要な新規事業分野進出を対象とする補助事業の場合は、技術開発計画・事業計画を作成し、お金をどんな事業に使うのか、社会に役立つ事業なのかをアピールし、勝ち取る必要があります。
事業計画書の作り方を身に付けておけば、設備を導入することはリスクが伴うことが定量的に把握することが可能となるため、その後もいろいろな場面で役に立つと思います。
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新製品開発、生産システム開発、補助金の審査経験などから、簡潔に述べます。多くのシステムが進化するとき、システムの「良さ」の尺度を時間の関数としてプロットすると、S字型カーブを描くと言われています。製品ライフサイクル的には、導入期、成長期、成熟期、衰退期に分けられます。おそらく、御社の主力製品は、この衰退期にあたるため、「コストの最小化」が最大の課題ではないでしょうか。もしかすると、企業規模から推察して、開発資金の捻出が厳しくなってしまう企業も多いようです。そこで、資金的余裕がどれくらいあるのか、人的リソースのどれくらいが該当するのか、現段階では不明ですが、新規設備投資の視点にフォーカスしてアドバイスします。
具体例を交えた個別の留意点は次のようになります。
(1) 新規設備投資にかける費用の目安
設備投資費用は、業種やテーマによって変動するため、金額ベースでは一概にいくらとは言えるものではありません。例えば、数百件程度の補助金審査経験から、御社の規模の投資費用を推測すると、1000万円~1億円位の幅が考えられます。ただ、経営指標の比率で考えれば妥当な線は出ます。財務的には、経営を圧迫させないことが重要です。一般的には、キャッシュフローの許す範囲がベストとされています。つまり、純利益+減価償却費の範囲内となります。もし、自社技術が不足するときには、地域公設機関や大学の技術を活用すること、資金不足の場合には、公的補助金を活用することがベターな選択肢となります。
(2)補助金採択のポイント
例えば、平成25年度から創設された「ものづくり補助金(1000万円・補助率2/3)」は約40%弱が採択されるハードルの低いものです。その採択のポイントはズバリ「革新性」の視点です。それは2つの視点でアピールすればよいと考えます。1つ目は、これまでの事業の中でどのような改善課題を見つけ出したか。課題を解決するための技術やサービスは何か。開発計画の具体的、定量的な目標は何か。2つ目は、「マーケティング」の視点です。 どのようなマーケットを対象とするビジネスに乗り出すのか。そこでのライバル企業に対してどうやって市場競争を勝ち抜くのか。市場調査等をもとに精査してください。
(3)設備投資効果の視点
設備投資を判断する手法として、経済性工学(損得計算)があります。それを活用するためには3つの原理原則があります。これを押えておきたい。
①これから発生する費用、収益だけを計算する。
②意思決定の優先順位を、利益の絶対額、効率(比率)の順とする。
③変化点に着目する。
企業会計に使われる財務の計算では事後的な成果の計算であるため、後始末という人もいます。いっぽう,利益の拡大を主眼とした経済性工学(損得計算)では、将来に目を向けた計算が要求されます。いままで発生した費用は「埋没原価(sunk cost)」となるため、投資効果計算では除外できるのです。1番目の原則で非常に重要な考え方になります。2番目の投資の優先順位は、投資額が同じ場合には当然ROIなどの比率の大小でよいが、利益の絶対額でおさえて比率は補完的に活用することなのです。なお、利益よりも回収が早いほうが有利と判断すると、ほとんどの案は投資しないほうがよいとなってしまいます。したがって、特にリスクの高い案件の場合に投資回収期間法を用いるのです。3番目の変化点に注目するということは、損得を判断するのに比較する案に相違点がなければ優劣の評価はできないからです。どこが代替案の違いなのかを数字で判断することになり、差別化のポイントが鮮明になってくるはずです。
もっと踏み込んだアドバイスをすれば、御社のケースでは、従来の部品製造の継続性と比較して、スマートフォンやタブレットのアクセサリー等の商品は流行に左右されるため、商品寿命が短くなることも懸念材料となります。したがって、DCF(Discount Cash Flow)法で投資効果を計算した場合、補助金を活用しない場合の汎用性の少ない設備の投資回収期間の目安としては5年程度、ある程度汎用性のある設備投資の場合7年程度と考えるのが不確実性時代の設備投資の判断基準ではないでしょうか。
回答者:ぷろえんじにあ代表 粕谷茂
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