技術及び人財開発コンサルティング、大学でのメカトロ講座講師、技術士育成講座講師等に携わってきた経験から、想いを記述します。結論を先に述べると、企業の問題というより個人のキャリアアップの課題と捉えた方がよいのではないでしょうか。質問の趣旨が抽象的であるため、アドバイスとして適切かどうかわかりませんが、その意味と理由を簡潔に整理しました。ご自身のキャリアアップに活用できれば幸いです。
(1)そもそも技術とは何か
技術力とはどういう意味でしょうか。学者たちの間では、「長い時間を掛けて積み上げた老練な技の集積であり、また同時にそれを継承し、巧みに応用し、かつ時代に即して発展し得る類い希なる潜在能力である。」などと定義されているようです。例えば、ノーベル賞受賞者の江崎玲於奈博士は、科学と技術を対比させて次のように定義しています。「科学とは自然界のルールを解明する体系的な知識であり、技術とは科学の新知識を社会や企業の利益のために活用するノウハウである。」どの定義も正しいと思います。もっと簡潔に技術を一言で表現すると、「自然現象をいかにコントロールするかの能力」でもよいと考えます。
もう少し技術力を現実的に、より定量化できるように表現すると、どうなるでしょうか。例えば、次のように記述できるという考え方があります。
技術力 = 課題設定力 + 手段・工夫の明確化
(発明 = 課題設定力 + 手段・工夫 + 技術的効果)
「課題設定力」とは、どういう問題があるとか、何のためにそれをやらなければいけないのかを総合的に判断できる能力を表します。「手段・工夫の明確化」とは、その課題を、創造性を発揮して、どのような方法やプロセスでブレークスルーしたかということです。つまり、発明の定義とほぼ一致しているということになります。それらを、もっとブレークダウンンした言葉で表現すると、研究開発力、商品開発力、設計技術力、生産技術力などになります。
(2)技術者の能力の鍛え方
技術者の成長を後押しできるのが技術論文や技術報告書です。例えば、コンサルタントは、クライアントをいかに納得させ報酬を得るかを考えます。企業の技術者は、自分の仕事がいかに会社の利益につながるか、あるいは上司の評価を得られるかを考えていると思います。
例えば、技術士取得の基礎及び応用能力を鍛える方法として、自分の仕事に関係する技術テーマの概要を論文化することを薦めています。定義または原理、特徴、用途、経済的・波及効果、技術的課題、技術動向等を体系的にまとめることが応用力強化につながります。また、将来展望を見据えた自身の考えを記述する訓練を付加することで、さらに技術力の差別化につながります。
(3)原理、原則を技術開発のアイデア出しに活用する方法
例えば、TRIZの中に、機能や属性から検索してヒントを得る技法があります。知識ベースとか逆引き辞書とか言われているEffectsと呼ばれるツールです。筆者は、TRIZと出会う前、アイデアに困り切羽詰まった時、次のような方法で、ヒントを模索していました。知財部のデータベースをパラパラめくって図や課題解決プロセスを斜め読みしたり、書店や図書館にある書籍のタイトルや見出しに目を通したり、異分野の展示会などでアナロジーのヒントを探ったりしていました。実はこれらが、Effectsのコンセプトだったのです。
Effectsのコンセプトは、機能によって分類されたヒントとなる定理、原理、科学的現象、特性等をアイデアの切り口のヒントと活用しています。このような、知識の機能による分類は、さまざまな産業間や学問分野間に存在している境界を引き剥がすのに、非常に効果的な方法となっています。可能な新しい解決策を見つけるためにそのようなデータベースを使えば、仮にそれらの解決策を理解できなくとも、少なくとも解決策のヒントになります。
回答者:ぷろえんじにあ代表 粕谷茂
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モノづくり工場経営研究所の西水と申します。
科学的経営・科学的マネジメント活動を掲げてのコンサルティング活動から20数年が経ちました。
科学や技術が必要とされるのは、『意思決定』の判断基準として活用するためだと考えています。
ビジネスは「意思決定の連続」ですので、判断の拠り所が欲しいのは誰しも同じですね。意思決定のために、人間には2つの脳が準備されています。脳科学の専門家の解析技術を引用しますと、『右脳は感性・感覚脳』、『左脳は論理脳』という分担のようです。
傾向的に、日本人(アジア人も?)は右脳が優れているらしいです。ベースが農耕民族という生い立ちも影響しているとの情報もありますが、過去からの経験・経験に基づいた勘(カン)、経験や勘に基づいた度胸など、『KKDによる意思決定』のアプローチです。
他方、狩猟民族と言われる欧米人は『論理脳の左脳』を有効活用できるようです。左脳は「原理・原則、PDCA、データ・統計など」による意思決定を得意にしているようです。
再現性や高確度、あるいは、新しいコトに対する意思決定が求められるこれからのビジネスには、左脳の脳力を有効活用することが必然ですが、なかなか難しいようです。その壁は、従来からの右脳による意思決定の習慣(『習慣の関』)ではないでしょうか。
大量生産時代の過去分析の思考が根付いている、昨日と同じ今日が楽などの精神面により、右脳の脳力ばかり?が働き続けている。PDCAマネジメントサイクルによるスパイラルアップと言われながらも、実態は標準化志向のSDCA堂々巡りなど。
各社・各者の置かれた状況により、『科学的意思決定を目指した、〇〇技術の活用』など、科学と技術の位置付けや役割分担を考えて、使い続けた右脳の脳力は一定に、十分に使いきれていない左脳の脳力に注力する、そのような業務の仕組み作りや個々人の意識作りを推進して、両脳のバランス向上を図って行きたいですね。
機会があれば、“科学談義”したいですね。(笑)
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工場ですぐ使える品質改善技法の開発と普及活動を行っている高崎ものづくり技術研究所の濱田と申します。
ご質問の内容を企業の立場で考えてみたいと思います。
一部の大企業を除き、一般に企業はすぐに事業化が可能でお金になることを考えますから、技術を重んじる傾向があるのではないかと考えられます。
ただ、科学を軽視することはできませんから、大学や研究機関など原理原則を追究することを仕事としているところと組んで、共同開発を行います。
いわゆる産学官の連携で、得意分野を持ち寄って商品化を促進させ、地域経済を活性化させようと、国も後押しを行っております。
しかしながら、御指摘の通り、科学を軽視し、あまりにも商品化を急ぐとその事業は失敗します。商品化を断念する事例は枚挙にいとまがありません。多くの失敗事例は、原理原則は理論的に確認されているが、それを安く、簡単な方法で、安定した性能を得ることができないのです。つまり、その製造技術を確立するための人材、技術力、そして成し遂げようとする熱意が備わっていないのです。
かといって、基礎研究を長年にわたって続けるだけの余裕は企業にはありませんから、やはり「この技術とこの技術を組み合わせるとこんなことができる」というように、市場の速い動きに追従する形で商品化を急ぐことになります。
絶対に緩まないナット、痛くない注射針など、特化した製造技術を追究し、他社の追従を許さない企業の例もあります。これらの企業の特徴は「この技術とこの技術を組み合わせるとこんなことができる」から始まっていますが、商品化まで試行錯誤の結果、多くのノウハウが積み重ねられています。
(絶対に緩まないナットは、商品化後、緩まないことが大学で理論的に証明されています)
企業において大事なのは「この技術とこの技術を組み合わせるとこんなことができる」からのアイデアを温め、商品化まで一つ一つ課題をクリヤにしていく地道な努力が求められるのではないでしょうか。
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