前回のその11に続いて解説します。第3章:問題解決のアイデアを出してみようの2.TRIZの思考プロセスで「ユニットバス」を改善してみようの、ステップ2:TRIZ によるアイデア発想を解説します。
【 ステップ2. TRIZによるアイデア発想 】
TRIZの基本構成をもう一度確認します。
1.矛盾の克服
2.技術システムの進化の流れ(トレンド)の活用
3.異分野の知識の活用
ここではこの3つのツールを使ってアイデアを考えてみましょう。
1.矛盾の克服
根本原因(=アイデアを出すべきポイント)が明確になれば、次はそこに存在する「矛盾」を定義します。たとえば、「根本原因①:鏡の温度が低いから」について、そこに存在する「矛盾」を考えてみましょう。 現象として鏡の温度が低いから鏡に水滴が付くことは明らかです。では、鏡を暖めてみたらどうでしょう。たとえば、電熱シートを鏡の裏に仕組んだ鏡が一般的に存在しますね。曇りを取るために電熱シートで鏡を暖めると、電熱シートへの消費電力が発生します。特に鏡に付いた曇りをできるだけ早く取り去りたい場合は大電流が必要になりますから、さらに消費電力が大きくなりそうです。逆に、消費電力を抑えるために通電量を小さくして鏡を暖めないと鏡の水滴は取れませんね。これで「矛盾」が定義できました。
矛盾1:鏡についた水滴を取るために鏡を電気で暖めると、消費電力が大きくなる。
矛盾2:消費電力を抑えるために鏡への通電を減らす(冷やす)と、水滴が取れない。
「矛盾」が定義できれば、そこから解決へつながるアイデアを効率よく出すことができます。矛盾1において改善する特性は、「鏡を電気で暖めて、鏡についた水滴を取る」です。これが「39の特性パラメータ」の中のどれにマッチするかを考えなければなりません。この場合は、「暖める=温度」と「水滴を取る=物質の量」の2つが当てはまりそうです。それに伴って悪化する特性は、「消費電力が大きくなる」ですから、「静止物体のエネルギー消費」、もしくは「エネルギー損失」があてはまりそうです。 これらのパラメータを「矛盾解決マトリックス」に当てはめると、その交点からは、高速実行原理、パラメータ変更原理、「災い転じて福となす」の原理などが得られます。
図18.鏡の曇り止め対策の発明原理
これらの説明を見ながら、アナロジーを働かせてひらめいたこと(着想)を出していきます。たとえば、高速実行原理では、「速やかに鏡を暖めて水滴を除去した後にスイッチを切る」といったアイデアが出そうです。災い転じて福となすの原理からは、「鏡に付着した水滴をうまく有効活用できないかと考えると、親水性の皮膜をつけておくことで自分を映すことができそうだ」と思い至ります。 皆さんはこの発明原理に従って、どのようなアイデアを生み出しますか。正解はありません。自由奔放にアイデアを出してください。
2.技術システムの進化の流れ(トレンド)の活用
技術システムの進化のトレンドを活用してアイデアを出してみましょう。 具体的には76の発明標準解を使うことになります。このアイデア出しはとてもシンプルです。ここでは、「湯気が鏡に触れない」ような対策を76の発明標準解の提案に沿って一通り考えてみました。
上表のように、順番に考えていきます。各ステップに沿って考えると主機能の強化と有害作用の除去の2つの効果を徐々に高めていくことになります。
3.異分野の知識の活用
最後は、異分野の知識を活用して、問題解決策を考えてみます。ここでは、これまでの自分達が経験してきた知識以外で問題解決が出来ないかを考えるわけです。 つまり、「電熱線以外で鏡を暖める方法は無いか?」という思考です。化学反応を利用する、磁気を利用する方法などを具体的に考えていきます。
以上のようにして、TRIZトゥリーズの様々なツールを活用し、心理的惰性を排除しながら、あらゆる可能性を考えていくことが大切なのです。技術者が解決策を考えるときにはどうしても、現実的な制...
約(たとえばコストがその代表)を自分でかけてしまいます。
しかし、アイデアを生み出すときにはその制約は極力外すべきなのです。なぜなら、制約の先にあるかもしれない可能性の芽を摘むことになるからです。我々は、この段階で300件以上のアイデアを出すことを要求しています。要は、「もう、考えるネタがないまで考えた」という事実が必要なのです。考えるネタがなくなった先に、本当のひらめきがあるのです。アイデアに関していえば量こそが質を生む源泉という事をもう一度肝に銘じてください。
図19.TRIZのアイデア出しツールの関係
次回は、ステップ3 アイデアの有効化から解説します。