QFD-TRIZ導入 ~ 市場ニーズ捉え課題を解決

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♦ 他社との差別化図り、魅力的な商品を

 OAフロアや住宅関連商品(シャッター、断熱物置用パネル)、福祉関連商品(トイレ用システム手すり、介護用水回り車いす)など金属加工製品を中心とした新商品の開発・製造から販売まで行っているオーエム機器社(岡山県)ですが、今回は福祉関連機器の新商品開発の取り組みにQFD-TRIZ手法を活用した事例を紹介します。同社従業員は120人と決して大きな会社ではありませんが「お客さまの思いを形に」をモットーに2018年から付加価値を高め競合商品との差別化を図り、魅力的な商品を開発したいという考えから同手法の活用を始めました。

 介護保険制度が改正され、介護の重点が介護予防と自立支援に置かれるようになり「福祉機器も介護が必要になるのを防ぐために使う」、「必要になった場合はそれ以上の悪化を防ぐために使う」といった介護予防と本人の能力を引き出し本人らしく生きるための自立支援、また介護者の負担軽減にどう貢献できるかが重要になっていることから、福祉関連機器は近年引き合いが多く商品ラインアップも増えています。

1. QFD-TRIZ導入の背景  ~ 予想と反した顧客からの声

 福祉機器事業では、販売メーカーからの要望や情報に基づき、同社で設計を進めるのが新商品開発の典型的な流れで、OAフロアや住宅関連など他の分野で培った技術を展開して、自分たちの知識や経験を組み合わせ、販売メーカーと何度もやり取りしながら開発を進めています。このような方法で開発した商品の一つが、住宅での工事が不要でレンタルできる「据置き型の玄関手すり」でしたが開発後、販売メーカーに市場評価を聞いたところ「ベースが重くて持ち運びがしにくい」「ベースと床の段差が気になる」といった予想とは違った回答が返ってきたのです。

図1 据置き型玄関手すりの問題解決

 要望を十分に取り入れて開発をスタートさせたはずなのに、なぜ後からこうした声が出てくるのだろうか?今までの開発のやり方では従来商品の改善はできても、発想が狭くて目新しいものにならない…。顧客のニーズをしっかり捉え付加価値の高い魅力的な新商品を出したい、競合とも差別化を図りたい、そのためには従来の開発のやり方を打破しなければならない、そんな理由からQFD-TRIZに取り組むことになったのです。

2.  顧客の立場で洗い出し

 QFD-TRIZについては「お客様の思いを形に」をモットーとする同社にとって、顧客の生の声から顧客がそこで本当に訴えたかった要求を分析、評価できるのでとても魅力的な手法だと感じてくれたようです。

 顧客の声の洗い出しでは、使用者、介護者、レンタル業者、それぞれの立場になり切って行ってもらいました。次いで顧客の声を分析して要求品質に言い換えていき、さらに狩野モデルを使い、要求品質と顧客満足度との関係、そして要求の強さを検討してもらいました。

図2 品質の二元性(狩野らによる使用者の満足感と充足度の対応:狩野紀明教授)

 このプロセスで大切なのは、顕在化された顧客の声に応えるだけでは、狩野モデルでいう魅力的品質は見出しづらいということです。単純に顧客の声からQFDを行って商品開発しても、すぐに価格競争に陥ったり、土俵に乗れても利益が生み出せない商品になりかねません。そこで、顕在化された顧客の声を起点に顧客もまだ気づいていない、あるいは諦めているような潜在ニーズを抽出し、それを満たすことで魅力的な新商品を市場に届けることが必要となることから、今回は使用者とレンタル業者の立場になりきり、使用やレンタル業務シーンを想定しながら、顧客満足に繋がるニーズ抽出、ニーズ重要度分析を行ってもらいました。

 QFDの結果、顧客にとって魅力的で重要度も高いレベルアップ項目として「ベースにつまずきにくい」「手すりが握りやすい」「メンテナンスがし易い」の3項目を選び出した後、レベルアップ項目についてはTRIZ課題解決プロセスを使い、解決に向けた取り組みを行いました。

 まず、問題の真の原因は何かを機能属性分析と根本原因分析で掘り下げてもらいました。例えば「メンテナンスがしにくい」を解決するには「ベースと縁材の間に隙間がある」「ベースと縁材に段差がある」などの根本原因を解決する必要があることが分かってきました。

図3 根本原因分析 ー中核問題抽出ー
【目的】問題を起している原因と結果を分析し根本的な原因(中核問題)を明確化する

3. 「メンテナンスしにくい」要因は?  ~根本原因を分析

 次に、TRIZの発想ツールを使って根本原因を解消するアイデアを出していきました。既存の設計ではベースに縁材をはめ込む構造になっています。しかし「ベースと縁材の間に隙間がある」という問題を解決しようとすると「隙間が大きいとベースに縁材をはめ込みやすくなるが、隙間にゴミが溜まりやすくなる」「逆に隙間を小さくすると今度は、ゴミは溜まりにくくなるが、ベースに縁材をはめ込みにくくなる」といった技術的矛盾、背反特性にぶつかったのです。根本原因から技術的矛盾を問題定義したところ、TRIZの「発明原理」を使って効果的にアイデアを出すことに成功しました。また同じ問題に対して「システム進化パターン」を使うと、例えば「新しい物質の導入」というヒントから、ベースと縁材の隙間に熱で膨張する何かを詰める、というアイデアも出てくるなど、同じ問題でも違うツールを使うことで視点が変わり、自然とアイデアが広がっていったようです。

 アイデアを出す段階では

  1. コストや実現性などを考えない
  2. 他の人が出したアイデアを批判しない
  3. 人が出したアイデアにどんどん便乗する
  4. 質より量が大事

 といったルールを設定。「先入観や思い込みに囚われないためには、とても大切だった」と振り返っています。

 またアイデア出しに制限時間も設定したことで行き詰る前に終了して、日を空けて思考を整理してからまた集まってアイデア出しを行うという取り組みを続けた結果、400件以上のアイデアを出すことができたのです。アイデアの中には「つまずかない靴下を履く」といったような、これまでの開発手法では思いも寄らなかったものもありました。

(写真)自然に広がったアイデア出しは計411件に

 アイデア出しができたらアイデアを結合、有効化するフェーズになります。
 同社ではベースや縁材、手すりに関するものといったよう部位ごとにアイデアを整理し、次に整理したアイデアを組み合わせて15個のサブコンセプトを作成してもらいました。例えば「ベース板に穴を開けて軽くする」と「縁材をなくしてベースを塗装する」というアイデアを結合して一つのサブコンセプトを作ったのです。

図4 アイデアを結合して一つのサブコンセプトを作成

4. QFD-TRIZを活...

♦ 他社との差別化図り、魅力的な商品を

 OAフロアや住宅関連商品(シャッター、断熱物置用パネル)、福祉関連商品(トイレ用システム手すり、介護用水回り車いす)など金属加工製品を中心とした新商品の開発・製造から販売まで行っているオーエム機器社(岡山県)ですが、今回は福祉関連機器の新商品開発の取り組みにQFD-TRIZ手法を活用した事例を紹介します。同社従業員は120人と決して大きな会社ではありませんが「お客さまの思いを形に」をモットーに2018年から付加価値を高め競合商品との差別化を図り、魅力的な商品を開発したいという考えから同手法の活用を始めました。

 介護保険制度が改正され、介護の重点が介護予防と自立支援に置かれるようになり「福祉機器も介護が必要になるのを防ぐために使う」、「必要になった場合はそれ以上の悪化を防ぐために使う」といった介護予防と本人の能力を引き出し本人らしく生きるための自立支援、また介護者の負担軽減にどう貢献できるかが重要になっていることから、福祉関連機器は近年引き合いが多く商品ラインアップも増えています。

1. QFD-TRIZ導入の背景  ~ 予想と反した顧客からの声

 福祉機器事業では、販売メーカーからの要望や情報に基づき、同社で設計を進めるのが新商品開発の典型的な流れで、OAフロアや住宅関連など他の分野で培った技術を展開して、自分たちの知識や経験を組み合わせ、販売メーカーと何度もやり取りしながら開発を進めています。このような方法で開発した商品の一つが、住宅での工事が不要でレンタルできる「据置き型の玄関手すり」でしたが開発後、販売メーカーに市場評価を聞いたところ「ベースが重くて持ち運びがしにくい」「ベースと床の段差が気になる」といった予想とは違った回答が返ってきたのです。

図1 据置き型玄関手すりの問題解決

 要望を十分に取り入れて開発をスタートさせたはずなのに、なぜ後からこうした声が出てくるのだろうか?今までの開発のやり方では従来商品の改善はできても、発想が狭くて目新しいものにならない…。顧客のニーズをしっかり捉え付加価値の高い魅力的な新商品を出したい、競合とも差別化を図りたい、そのためには従来の開発のやり方を打破しなければならない、そんな理由からQFD-TRIZに取り組むことになったのです。

2.  顧客の立場で洗い出し

 QFD-TRIZについては「お客様の思いを形に」をモットーとする同社にとって、顧客の生の声から顧客がそこで本当に訴えたかった要求を分析、評価できるのでとても魅力的な手法だと感じてくれたようです。

 顧客の声の洗い出しでは、使用者、介護者、レンタル業者、それぞれの立場になり切って行ってもらいました。次いで顧客の声を分析して要求品質に言い換えていき、さらに狩野モデルを使い、要求品質と顧客満足度との関係、そして要求の強さを検討してもらいました。

図2 品質の二元性(狩野らによる使用者の満足感と充足度の対応:狩野紀明教授)

 このプロセスで大切なのは、顕在化された顧客の声に応えるだけでは、狩野モデルでいう魅力的品質は見出しづらいということです。単純に顧客の声からQFDを行って商品開発しても、すぐに価格競争に陥ったり、土俵に乗れても利益が生み出せない商品になりかねません。そこで、顕在化された顧客の声を起点に顧客もまだ気づいていない、あるいは諦めているような潜在ニーズを抽出し、それを満たすことで魅力的な新商品を市場に届けることが必要となることから、今回は使用者とレンタル業者の立場になりきり、使用やレンタル業務シーンを想定しながら、顧客満足に繋がるニーズ抽出、ニーズ重要度分析を行ってもらいました。

 QFDの結果、顧客にとって魅力的で重要度も高いレベルアップ項目として「ベースにつまずきにくい」「手すりが握りやすい」「メンテナンスがし易い」の3項目を選び出した後、レベルアップ項目についてはTRIZ課題解決プロセスを使い、解決に向けた取り組みを行いました。

 まず、問題の真の原因は何かを機能属性分析と根本原因分析で掘り下げてもらいました。例えば「メンテナンスがしにくい」を解決するには「ベースと縁材の間に隙間がある」「ベースと縁材に段差がある」などの根本原因を解決する必要があることが分かってきました。

図3 根本原因分析 ー中核問題抽出ー
【目的】問題を起している原因と結果を分析し根本的な原因(中核問題)を明確化する

3. 「メンテナンスしにくい」要因は?  ~根本原因を分析

 次に、TRIZの発想ツールを使って根本原因を解消するアイデアを出していきました。既存の設計ではベースに縁材をはめ込む構造になっています。しかし「ベースと縁材の間に隙間がある」という問題を解決しようとすると「隙間が大きいとベースに縁材をはめ込みやすくなるが、隙間にゴミが溜まりやすくなる」「逆に隙間を小さくすると今度は、ゴミは溜まりにくくなるが、ベースに縁材をはめ込みにくくなる」といった技術的矛盾、背反特性にぶつかったのです。根本原因から技術的矛盾を問題定義したところ、TRIZの「発明原理」を使って効果的にアイデアを出すことに成功しました。また同じ問題に対して「システム進化パターン」を使うと、例えば「新しい物質の導入」というヒントから、ベースと縁材の隙間に熱で膨張する何かを詰める、というアイデアも出てくるなど、同じ問題でも違うツールを使うことで視点が変わり、自然とアイデアが広がっていったようです。

 アイデアを出す段階では

  1. コストや実現性などを考えない
  2. 他の人が出したアイデアを批判しない
  3. 人が出したアイデアにどんどん便乗する
  4. 質より量が大事

 といったルールを設定。「先入観や思い込みに囚われないためには、とても大切だった」と振り返っています。

 またアイデア出しに制限時間も設定したことで行き詰る前に終了して、日を空けて思考を整理してからまた集まってアイデア出しを行うという取り組みを続けた結果、400件以上のアイデアを出すことができたのです。アイデアの中には「つまずかない靴下を履く」といったような、これまでの開発手法では思いも寄らなかったものもありました。

(写真)自然に広がったアイデア出しは計411件に

 アイデア出しができたらアイデアを結合、有効化するフェーズになります。
 同社ではベースや縁材、手すりに関するものといったよう部位ごとにアイデアを整理し、次に整理したアイデアを組み合わせて15個のサブコンセプトを作成してもらいました。例えば「ベース板に穴を開けて軽くする」と「縁材をなくしてベースを塗装する」というアイデアを結合して一つのサブコンセプトを作ったのです。

図4 アイデアを結合して一つのサブコンセプトを作成

4. QFD-TRIZを活用し思い込みや惰性、意見の偏りを打破

 次に、3つのレベルアップ項目について1年、3年、5年後の目標を設定し、目標値に対してサブコンセプトの予想効果を評価してもらいました。その結果に基づいてサブコンセプトを結合して、最終的には8つのメインコンセプト、解決案にまとめ上げました。また各メインコンセプトについては、それを実現する上でのコストや設備投資、必要になる新技術など課題の洗い出しを行ったのです。

 QFD-TRIZを通して実行し、同社では「新商品開発の構想という意味では、使用者、介護者、レンタル業者など商品に関わる各ユーザが本当に求めているものが何かをしっかり考えられるようになったことのほか、そのニーズに応えるための手段を、先入観や思い込みを排してアイデアを広げ、圧倒的な数のアイデアを組み合わせて設計コンセプトとして構想できたことが新鮮だった」と振り返り、また「開発課題が見える化できたことや、開発企画がブレないことで設計の手戻りがなくなる、メンバーの発言しやすい場をつくれた」など、社内コミュニケーションとしても効果があると話しています。

 最後に私から、顧客のニーズをしっかり捉えて付加価値の高い魅力的な新商品を出したい、競合とも差別化を図りたい…。それは商品開発をしていれば当然の思いだと思いますが、そのための具体的なアクションには踏み出せないでいる企業も多いかと思います。

 今回、同社がQFD-TRIZを活用して実践した思い込み、惰性、意見の偏りを打破する取り組みは、新商品開発のやり方を模索している多くの企業にとっても参考になると思います。

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この記事の著者

片桐 朝彦

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