デザインによる知的資産経営:知的資産の活用事例と進め方(その1)
2016-08-19
イノベーションの基礎は「知的資産」であり、「知的財産権」ではありません。なぜ、知的財産権ではないのか。それは、技術由来の優位性は既になくなっているからです。
例えば、液晶テレビの技術で優位を築いていた会社が、低価格のテレビによって淘汰されようとしているのが現実です。コモディティの世界で戦うことは、消耗戦にすぎません。消耗戦を戦えるのは大企業であり、中小企業が消耗戦に巻き込まれてはなりません。経営は「未来」を追うものです。
しかし、会社が保有する知的財産権は、「過去」の課題を解決したものであって、未来を見据えたものがどれほどあるでしょうか。商品開発の基盤は、「知的財産権」から「仮説」に対応する基礎情報としての「知的資産」に移行しています。
話はずれますが、技術開発を重視している企業は、未来を見据えた技術開発をしています。ある大手企業の元役員は、特許の実施率が100%だったら、その企業はつぶれる、という趣旨の発言をしています。将来のための技術を開発し、特許にしているということです。
しかし、中小企業をみる限り、特許の実施率は80%程度あります。これはつまり、開発体制や予算の違いなのです。とはいえ、開発費を予算に計上していない企業(メーカー)がいまだに存在していることは、筆者には理解できません。いずれにせよ、将来をにらんだ技術を開発している大企業であっても、売れる商品を生み出すことは困難であるというのが現実です。技術優位の時代は終わったのです。言い換えれば、情報(知的資産)をうまく活用することによって、技術開発力に劣る中小企業であっても、大企業と互角に戦える時代になったということができると思います。
「知的資産」とは何なのか。確認しましょう。企業が保有する無形の資産は、図1のように表すことができます。
図1.知的財産権、知的財産、知的資産、無形資産の分類イメージ図
無形資産の中には、知的資産以外のものもありますが、情報を対象とするものが、広義の知的資産です。広義の知的資産の中核は、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権というように「**権」という名の権利が成立して、物権的な権利(独占できる権利、他人を排除できる権利)として法律上認められているものです。
その外側に、ブランド、営業秘密、ノウハウなど、不正競争防止法で知的財産として保護される利益がありますが、これらは「**権」という権利ではありません。民法709条で「**権」以外の「利益」も保護されますが、それは損害賠償だけです。不正競争防止法では差止請求を含む強い保護が認められています。さらにその外側に、狭い意味での「知的資産」があり、人材、技術、組織力、顧客とのネットワーク等の企業活動に寄与する無形の資産をいいます...
。「知的」という文字が付いていますが、これは特に「賢さ」が要求されるものではありません。「広範な情報」を対象とするものです。
次回、その2では、知的資産の活用事例を解説します。