【商品力の強化と商品開発の方向性 連載目次】
前回のライフサイクルと次期商品の開発に続いて、今回は、新商品開発の手順とポイントを解説します。
1. 新商品を開発することの目的
新商品の開発は、持続する健全な企業の商品開発としての創造活動であり、 その結果、利益を含めた投資を回収して次の新商品開発に取り組む循環サイクルを回すことを前回述べました。 また、永遠のテーマである「顧客の創造」を絶え間なく続ける企業活動であります。新商品開発の流れ新商品開発の流れは、前回の「商品ライフサイクルと次期商品の開発」で解説しました。
2. 開発手順
これは、上述のとおり、「ライフサイクルと次期商品の開発」で解説していますが、ここでは以下に流れに従った手順とそのポイントを解説します。
2.1 商品企画
(1) 概要
マーケティングに基づく市場要求(ニーズ)と自社技術(シーズ)から、製品開発から商品化までを企画し、設計します。ニーズとは、「必要性」のことで、市場や消費者が現在求めているもので、具体的に顕在化しているものです。シーズは、「種」のことで、企業が内部に持っている新しい技術・材料・サービスなどのことです。まだ世の中に出ていないビジネスの種です。人々に新しい価値を提供し、 ビジネス構造すら変える可能性があります。アップル社のシーズを商品化したのが アイフォンです。消費者の潜在的なニーズに火をつけて、またたくまに全世界に広がりました。
(2) 手順
・ニーズとシーズの棚卸を行い、顧客の視点で有用性を評価します。
・アイデアを創出し、製品骨子(概要)をまとめます。
・製品開発計画を立て、商品としての事業化の手順を設計します。
・商品計画としてまとめ、事業責任者の承認を得ます。
これらの作業に使用可能なファイルが、ものづくりドットコム会員としてログインすることで、下記からダウンロードできます。
(3) 重要ポイントと注意事項
・マーケティングに基づくニーズは、可能な限り具体的な「仕様」に落とし込むことが重要です。
・ニーズとシーズを照合した結果の乖離を仕様変更で妥協するのか、要求仕様に設備投資を含め開発をその水準まで引き上げるのかが、技術力、販売開始時期との兼ね合いで決める重要事項です。
・事業化の検討とは、該当する新商品を開発し、販売するか否かの決断です。製品の優位差、投資対効果、社会的責任など総合的に検討し、商品化の可否を決定することが必要です。
2.2 製品・商品開発
(1) 概要
商品企画に基づき製品を開発し実生産のための設備・方法・品質保証等の情報をアウトプットします。
(2) 手順
・商品企画に基づく製品仕様を決定します。
・開発体制、スケジュール、開発費用など投資計画を立てます。
・製品開発計画としてまとめ、事業責任者の承認を得ます。
・製品開発は、開発の初期段階から開発部門だけではなく、製造や購買など生産に携わる部門と協業し、製品コスト、生産コスト、商品納期などの低減を図ります。
・製品開発においては、自社技術である固有技術を駆使することは言うまでもありませんが、商品企画の実現のために更に必要な技術や設備が必要になることが多いので、流通ルートを含むコラボ先とのネットワークを活用することが、成功率を高めます。また、補足技術、補足設備の計画も綿密に立てることが必要になります。
・製品開発の手法として、品質面では
品質機能展開、
QC7つ道具、また、コスト面では
VE、ティアダウンなどの科学的手法を用い推進することをお薦めします。
(3) 重要ポイントと注意事項
・製品開発計画が商品企画に合致していれば言うことはありませんが、両者に乖離がある場合はそれぞれが歩みよる必要があります。ただし、歩み寄った結果が商品化に値しなくなるようなことになれば、事業化をも再検討 することも必要となります。
・限られた経営資源を有効活用するためにも、コンカレントエンジニアリングが推奨されます。しかし、それには各部門の建設的な参画と強力なプロジェクトリーダーの存在が不可欠です。
2.3 市場テスト(テストマーケティング)
(1) 概要
開発した製品と商品企画を照合するため、市場の一部や特定顧客での使用を試験的に実施 すること。また、量産生産への準備、評価も行うことです。 商品開発成功のポイントは、販売体制が構築できるかにあります。 つまり、売れなければ、企業の持続は実現できないからです。
(2) 手順
・市場テストの実施ステージ(顧客や市場)を決めます。
・テストサンプルを生産します。
・サンプル生産時に、購買、本生産工程などの生産準備を確認したり、不足事項の有無を 見極めます。ライバル商品との比較分析を厳格に行い、改善すべき点を対策します。
・実施ステージで、商品企画との差異を品質、コスト、納期などの点から評価します。
・商品企画との乖離がある場合は、それを埋めるのか否かを含め、時には販売 中止を含めて検討、対応します。
(3) 重要なポイントと注意事項
・商品化前の製品チェックになるので、厳しい評価と判定が求められます。
・商品規模や特性などによりますが、どのレベルのテストサンプルで行うのかも重要な ポイントです。 例えば、性能機能のチェック目的で技術ラボの手作りに近い状態のものなのか、量産品質を チェックするため最終設備で生産したものかなどです。 また、複数回実施することも確実性を実証することができ、有効です。
2.4 生産
(1) 概要
製品開発の生産設計仕様にもとづいて、商品企画の実現のための製品を生産します。
(2) 手順
・製品開発の生産設計仕様をもとに生産工程を設計します。
・現有工程や設備で生産できない場合、新設、増設または工程設計を見直します。
・生産規模にもよりますが、試作ライン、量産ラインなど、生産ラインの構築し、市場に投入する道のりをあらかじめ設計して安定供給に備えます。
・全材料、部品の購買ルートと購入価格を設定し、必要に応じ個別契約をして入手ルートを確保します。
・工程ライン及び製品の品質、コスト、生産期間などが商品企画に合致していることを検証して、品質保証体制を構築します。
・以上を経て、販売の開始、即ち商品化へ移行します。
(3) 重要ポイントと注意事項
・コンカレントエンジニアリングで製品開発が進められておくと、予測しなかった生産上の壁に突き当たることを防ぐことができます。
・あらかじめ工程能力(品質、負荷)の基準を設定して、商品評価を行い、絶え間なく改善することが重要です。ただし、顧客が求める以上の過度な品質要求はコストアップにつながるので、適正目標の設定が、経営的には重要な判断要素であります。
3. 初期流動管理(販売を開始した後)
これも、製品開発と同様に重要な過程です。次の新商品への基礎データになり、 さらには顧客の囲込みへの有効な手段になるからです。 主な事項を以下に列記します。
3.1 QCDチェック
商品企画の通りに製品の品質、コスト、納期は生産できているかをチェックすることで、特に 販売開始後から一定期間(半年、1年)が重要です。初期流動管理とは、一般的にこのことを 呼んでいます。 上述の生産のポイントの項で述べたとおり、工程能力の基準、目標を設け、それに向けた改善 を実施することが必要です。 また、コストについては狙った習熟曲線に...
従い低減ができているのかなどもチェックの対象 です。もちろん、目標コストを超えるようなことがあれば、早急に対策すべきで、そのまま放置すると事業計画を逸脱し、戦略変更をすることもあります。
3.2 顧客満足の確認
商品企画の通りに顧客は購入し、満足してくれているのでしょうか、 購入者は狙ったとおりの感想を抱いているのでしょうか、 想定した購入量(受注)や購入者が異なっていないでしょうかなど、アンケートやコールセンター、又は直接の聞取り等で確認しておく必要があります。 例え、商品企画の販売量を超えている場合でも、何故、顧客は予想以上に購入したのかを見極めておかなければなりません。 これらの調査、分析をもとに改善していくことが顧客満足の向上につながり、顧客の囲込み策にもなるのです。
3.3 商品企画の検証が成功する商品開発のポイント
上述した QCD、顧客満足はその商品化にとって重要なことですが、次の新商品の開発には 商品企画の検証こそが重要なのです。なぜなら、商品化は商品企画が原点・起点で全てが商品企画から出発しているからです。製品仕様の市場への有効性、商品の優位性、販売開始時期の妥当性などですが、さらに、商品企画や製品開発の開始時期が適切であったかも検証対象である。遅くても早くても良くなく、最適な時期の見極め検証が必要です。これを検証してこそ、真の商品力強化になるのです。
次回は、商品開発の方向性・着眼点、地球環境にやさしい商品開発をテーマに解説します。