未来志向で見直す自社の強み 『価値づくり』の研究開発マネジメント (その24)
2017-03-30
前回は、オープンイノベーションを成功させるために、自社の強みの設定が必要であることを解説しました。今回は、その自社の強みについては、未来志向で設定することの重要性を解説します。
従来から事業展開においては、自社独自の強みが発揮できることの重要性がうたわれてきました。それでは、そもそもなぜ、自社独自の強みが発揮できることが重要なのでしょうか、そこには2つの理由があります。
企業はその本質において、できるだけ大きな顧客にとっての価値、すなわち顧客価値を提供して、その対価として収益を得て存在しています。その大きな顧客価値を生み出す源泉としての能力が、自社の強みです。顧客から対価を払ってもらえるような製品やサービスを実現するには、自社が保有するその中核の能力において「自社の強み」と言える水準が求められます。したがって、自社は大きな顧客価値を生みだすことのできる自社の強みを持たなければなりません。
仮にその自社の強みにより大きな顧客価値を実現できても、他社が同じような顧客価値を実現する能力を持っていれば、顧客価値実現機会の多くが他社に流れてしまいます。このような状況を回避するためには、他社が実現できないような顧客価値を実現する必要がありますが、そのためには、他社にない自社独自の強みが必要となります。
上述の(1)、(2)を実現する自社独自の強みがあっても、それは必ず陳腐化する運命にあります。そこには、時の経過が確実にもたらす3つの理由があります。
その理由の1つ目は、市場環境は常に変化し、そもそも自社独自の強みが実現する顧客価値を顧客が求めなくなります。市場成熟度という概念がありますが、まさに市場は時の経過とともに成熟し、いずれは「老衰」するものです。もはやその価値が求められないのですから、それを生み出す強みも求められなくなるのです。つまり、上の(1)自体が、時の経過とともに消滅するということです。
企業は、その経営の本質において、より大きな顧客価値をより効率的に生み出すための、新たな強み・能力の開発を世界的規模で競争しているとも言えます。ここで重要なのが「新たな強み・能力」という点です。自社の強みのアナログ技術は、より大きな顧客価値を効率的に実現できるデジタル技術が出現すれば、とって代わられてしまします。つまり、上の(1)に関しては、時の経過とともに、その顧客価値を生み出すのに、自社の独自の強みが最適な能力ではなくなってしまうということです。
3つ目の理由は、上の「理由2」以前に、その強みが重要であればあるほど、その強みは他社に真似されるということがあります。市場について市場成熟度があるように、技術にも技術成熟度があります。技術も時の経過とともに広く多くの企業に普及していき、自社の強みの独自性が実現しにくくなるというという概念です。つまり、時の経過とともに、上の(2)が実現できなくなるのです。
自社の強みは時の経過とともに必然的に陳腐化するものであり、このような状況を避けるには、常に自社も新しい強みを構築していかなければなりません。つまり、企業は従来からの...
強みについて、仮にその強みを強化するという活動を常日頃から行っていても、それだけでは不十分であるということです。
新しい自社の強みを創出するためには、自社がその能力において「強くない時期」から、何を強くすべきかを考えていかなければなりません。もちろん偶然が新しい強みを身に着ける機会を提供してくれるということは現実にはあります。しかし、経営において偶然に期待するほど愚かなことはありません。それが起こらない可能性の方がはるかに大きいからです。従って、自らが主体的に自社独自の強みを未来志向で設定することが、極めて重要です。