1. IoTの定義
最近工業系の新聞を読んでいると、IoTの文字を見ない日はありません。しかしその実態はやや曖昧なところがあります。Internet of Thingsの略称であることは確かですが、一時期良く耳にしたユビキタスネットワーク(Ubiquitous Network:あらゆる場所であらゆるモノがネットワークにつながる)、M2M(Machine to Machine:機械相互がネットでつながる)とはどう違うのでしょうか。これらの呼称は、初めて使った人にとってそれなりの概念を持っていたわけですが、単語が発せられた後で第三者がそれぞれの思惑や誤解のもとに拡張させて使われていきながら、いつしか、いわゆる「バズワード」となっています。
もともとIoTの使われ始めは、1999年、MITがRFIDをモノに埋め込んだ物流系の実験でしたが、今では何かしらのモノとインターネットが接続されて、何かしらの機能を発揮すればIoTと呼ばれる現状があります。そこに含まれる技術要素を最大級に拡張するならば、「センサネットワーク+移動体通信+ビッグデータ+クラウドコンピューティング+AI(人工知能)」といったところでしょうか。これら要素の一つ一つに話題性があるだけに、IoTを冠するだけで注目される期待があり、要素の一部でも含めばIoTと呼ばれる背景があります。
なじみ深い「IT」が、EC(電子販売)や金融、管理などといった情報データの高度利用を主な対象としていたのに対抗する概念として扱われることが多く、IoTを議論する場合はその定義を明確にしてからでないと空転する恐れがあります。
図1. IoTの概念例
2. IoTの現状
前記の拡張されたIoTが注目されるようになった理由の一つが、各構成要素技術の発達と普及です。スマホ端末と移動体通信の普及、AIの進歩、センサーの小型化高性能化、ビッグデータ処理技術などが進展し、さらに価格が低下することで、「つなぐ」障壁が取り払われ、その価値(=機能/価格)が高まっています。ガ―トナーによれば、インターネットにつながるIoTデバイスの数は、図2のように現在の50億個から2020年に250億個に達すると推定されています[1]。
図2. インターネットにつながるモノの数
産業分野では、工場内の設備・生産データを企業の枠を超えてインターネットでつなぐというコンセプトで、ドイツが提案するインダストリー4.0と、米国GEが提唱するインダストリアル・インターネットがほぼ時期を同じくして登場し、IoTの大きな適用分野として扱われています。
一方で消費者向け製品も、あらゆるものがインターネットに接続され、ビッグデータやAI技術を採用しながらセンサーで獲得した情報をクラウドサーバーに蓄積していくことで、機能を拡張しあらたな価値を提案しつつあります。
3.IoT起業の動向
前述のようにモノづくりの環境が整ってきた結果、クリエイターたちがIoT事業に新規参入する障壁が下がっています。機械系なら3D-CADや3Dプリンター、3Dスキャナー、レーザーカッターなどのデジタル設備、電子系ならラズベリーパイやアルディーノなどの汎用基板を活用することで、試作品が容易に作れるようになったためです。そこにクラウドファンディングなどで資金を調達した起業家が、製品化を目指すケースも増えてきています。
図3. ITとIoTの業務比較
しかしながら、原理試作と量産とは全く別の知識とスキルが必要です。図3で示すように、ITであれば比較的少人数で限られた作業を実行すれば事業を遂行できますが、IoTとなるとITの全機能に加えて、機械技術、電子技術、組込みソフト技術、部品技術、梱包/輸送、製造技術、生産管理、品質管理、購買などの業務が必要となり、3倍くらいの業務が発生し、業務間の調整は10倍くらいに激増します。現に米国起業家が発案したIoTプロジェクトの8割が中途で頓挫しているという話も聞きます。
それではということで、このような状況を打開するためのサービスも...