IoTの課題と将来展望

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 前回の「 IoTの現状と動向 」に続いて解説します。
 

1. IoTの課題

 IoTが抱える課題の一つに、便利なものほどリスクが高いというものがあります。多くのモノの情報がインターネット上で流通することで、それを盗み見られたり、取られたり、破壊されたり、また乗っ取られてモノを勝手に操作されるリスクも発生します。それを防ごうとセキュリティを上げると使い勝手が阻害されまする。ここには一般のITサービスと同じジレンマがあります。
 
 また状況が激動しているだけに、例えばインターフェイス標準化の動向が読み切れないのも不安材料の一つかもしれません。消費材のIoTは製品システムの中でサービスが完結するので、必ずしも企業間で標準化しなくても構わないのですが、産業用途のIoTでは、異なる装置をインターネットで接続する時に、データのフォーマットが統一されていないと使いにくいことになります。
 
 そしてIoT起業の分野では、製品開発から量産化、販売にいたるプロジェクトマネージャー人材が不足しています。大企業であれば業務の細分化が進んでいるため、上流から下流まで大局観を持って指示できる技術者は少ないでしょう。一方の中小企業では、消費財の自社製品を企画から扱う機会が少ないと考えられます。少人数で全工程をカバーせざるをえないベンチャーで、それができる人材を確保するのは至難の業です。試作品の評判が良くて気が大きくなった起業家は、その後の作業に注意すべきです。
 

2. IoTの将来展望

 カーツワイルが著書[2]で提示したように、コンピューティングの処理能力が加速度を伴って増大しており、インターネットにつながるモノの数も同様に急激な増加が予想されています。するとネットワークの外部性が働き、つながることの価値がさらに大きな加速度を持って増大するでしょう。逆に言うならば、今はインターネットに接続しなくてもさほど問題がなくとも、ある時点から大きな不利益が生じてくる可能性があるのです。
 
 従来はモノの機能や特性自体が価値でしたが、次第に「どうつながるか」の価値が高まっていくと予想します。その変化がどのような速度で進むのかは誰も断言できないものの、カーツワイルの予想では、そんなに先の話ではないように思われます。
 
 情勢が大きく変化している時はリスクが気になる一方、新興勢力あるいは既存企業の中で積極的に仕掛ける組織にチャンスが生まれます。これからの数年間は、新しい産業や製品群の勃興や標準化の分野で主導権を取るために、激しい競争が起こり、めまぐるしく情勢が変化するでしょう。
 

3. ものづくり設計者はIoTにどう対処すべきか

 設計業務が無くなることは決してありませんが、前記の状況を考えると設計者は次のような意識を持って業務にあたる必要があるでしょう。 

(1) つながる前提で設計する

 広義のIoT化は確実に進みます。自分が担当するものづくりについて、可動部分のセンシング出力や、外部からの情報や操作用データの受け取り機能を検討しておく必要性があるでしょう。今はつながらなくとも、製品寿命の期間内にそれが標準化する可能性があります。

(2) つながって生み出す価値を考える

 前項を考える時に、単にネットへつながるだけでなく、それによって実現する価値をイメージしておくことが大事です。場合によっては企画担当者に提案する必要もあるでしょう。

(3) ロバスト性を上げる

 単独で動作していた時でも、周囲環境や操作状態の影響を受けず...
IoT
 前回の「 IoTの現状と動向 」に続いて解説します。
 

1. IoTの課題

 IoTが抱える課題の一つに、便利なものほどリスクが高いというものがあります。多くのモノの情報がインターネット上で流通することで、それを盗み見られたり、取られたり、破壊されたり、また乗っ取られてモノを勝手に操作されるリスクも発生します。それを防ごうとセキュリティを上げると使い勝手が阻害されまする。ここには一般のITサービスと同じジレンマがあります。
 
 また状況が激動しているだけに、例えばインターフェイス標準化の動向が読み切れないのも不安材料の一つかもしれません。消費材のIoTは製品システムの中でサービスが完結するので、必ずしも企業間で標準化しなくても構わないのですが、産業用途のIoTでは、異なる装置をインターネットで接続する時に、データのフォーマットが統一されていないと使いにくいことになります。
 
 そしてIoT起業の分野では、製品開発から量産化、販売にいたるプロジェクトマネージャー人材が不足しています。大企業であれば業務の細分化が進んでいるため、上流から下流まで大局観を持って指示できる技術者は少ないでしょう。一方の中小企業では、消費財の自社製品を企画から扱う機会が少ないと考えられます。少人数で全工程をカバーせざるをえないベンチャーで、それができる人材を確保するのは至難の業です。試作品の評判が良くて気が大きくなった起業家は、その後の作業に注意すべきです。
 

2. IoTの将来展望

 カーツワイルが著書[2]で提示したように、コンピューティングの処理能力が加速度を伴って増大しており、インターネットにつながるモノの数も同様に急激な増加が予想されています。するとネットワークの外部性が働き、つながることの価値がさらに大きな加速度を持って増大するでしょう。逆に言うならば、今はインターネットに接続しなくてもさほど問題がなくとも、ある時点から大きな不利益が生じてくる可能性があるのです。
 
 従来はモノの機能や特性自体が価値でしたが、次第に「どうつながるか」の価値が高まっていくと予想します。その変化がどのような速度で進むのかは誰も断言できないものの、カーツワイルの予想では、そんなに先の話ではないように思われます。
 
 情勢が大きく変化している時はリスクが気になる一方、新興勢力あるいは既存企業の中で積極的に仕掛ける組織にチャンスが生まれます。これからの数年間は、新しい産業や製品群の勃興や標準化の分野で主導権を取るために、激しい競争が起こり、めまぐるしく情勢が変化するでしょう。
 

3. ものづくり設計者はIoTにどう対処すべきか

 設計業務が無くなることは決してありませんが、前記の状況を考えると設計者は次のような意識を持って業務にあたる必要があるでしょう。 

(1) つながる前提で設計する

 広義のIoT化は確実に進みます。自分が担当するものづくりについて、可動部分のセンシング出力や、外部からの情報や操作用データの受け取り機能を検討しておく必要性があるでしょう。今はつながらなくとも、製品寿命の期間内にそれが標準化する可能性があります。

(2) つながって生み出す価値を考える

 前項を考える時に、単にネットへつながるだけでなく、それによって実現する価値をイメージしておくことが大事です。場合によっては企画担当者に提案する必要もあるでしょう。

(3) ロバスト性を上げる

 単独で動作していた時でも、周囲環境や操作状態の影響を受けずに安定して動作するよう設計することは大事でしたが、これからはユーザーがインターネットを介して想定外の条件で接続したり、操作したりする可能性があります。どのように接続されてもロバストに動作する設計を考えておく必要があります。
 
 以上リスクや課題は山ほどありますが、モノのIoT化は間違いなく進みます。適切な恐れを抱きながら、着実に監視と準備を進めていくことがものづくり設計者に望まれています。
 
出典
[2] R.カーツワイル、「シンギュラリティは近い」、NHK出版、2015
 
[この文章は「機械設計」2017年1月号に寄稿したものを、一部修正して再編集したものです] 

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この記事の著者

熊坂 治

ものづくり革新のナレッジを広く共有、活用する場を提供することで、製造業の課題を解決し、生産性を向上します。

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