儲けるための『5S』とは(その2)
2017-11-13
前回のその1に続いて解説します。
【コストダウンへの取組み】において、『5S』はとても重要な役割を果たします。あらゆる仕事の効率性を向上させる活動(=改善活動)においても基本中の基本であり、すべてを網羅する活動とも言えます。しかし、浸透・定着させることがこれほど難しい活動も少ないかもしれません。その分、徹底・継続させることで、良い組織文化を醸成し、厳しい市場競争を勝ち残るための底力をつけてくれる最良の方法でもあります。
今回は、この『5S』という活動の持つ本来の目的や効果を切り口に、如何に浸透・定着させることで組織文化を変え、コストダウンにつなげていくかを考えていきます。今回は、その2として、『5S』の効果について考えていきます。
整理・整頓・清掃が行き届いている工場を含めた職場は、お客様の信頼を得るための最高の武器となり得ます。お客様に、品物と共にそれが作られている現場を見ていただくことは、100の言葉よりも雄弁にその会社のモノづくりに対する姿勢を伝えます。見学受入れに熱心な企業の業績が良いのは、得心できるところではないでしょうか。また、安全と品質を確保するためには、必要なものが、決められた使いやすい場所に、使いやすいように置かれていることが大切ですし、清掃ができていない設備では、品質面はもちろんのこと、保全の観点からも本当に納期が守られるのかという不安を抱かせてしまいます。
お客様は必ずこのような視点で見ています。『5S』を徹底するということは、お客様の信頼を得て、新たな受注につながる可能性を高める効果があるのです。
日々の業務に追われて、なかなか新しいことに取り組むことができないというお話をよく聞きます。勿論、ひと・モノ・設備等に十分な余裕を持つということは、過剰投資を行うことと同じであり、経営的には当然マイナスです。しかし、仕事に対するキャパシティ(製造でいうところの加工能力)とは決して固定的なものではありません。現有戦力からでも余裕を捻出することは十分に可能なのです。
一説によると、真に価値を生む正味作業は仕事全体の10~15%程度であり、そのほかに価値は生まないが現状では仕方なく行っている作業、そしてムダが大多数を占めていると言われています。実際に作業を動作レベルまで詳細に分析して仕訳を行うと、ムダと共に、価値は生まないが現状ではやらざるを得ない作業(付加価値のない作業)の多さに驚かれることは間違いないでしょう。
『5S』は、作業者の動作全体の85~90%を占める、ムダを含めた価値を生まない部分の削減に間違いなく効果があります。その理由としては、次のような点が挙げられます。
(A) 整理することでいらないものがなくなります。=場所が空き、余分な運搬や管理工数も減ります。
(B) 整頓することで、探す、迷うなどの動作のムダや、仮置きなどによる運搬のムダが減ります。
(C) 清掃は日常的なメンテナンスの意味を内包しており、設備を含めた現場の異常にいち早く気づくことができます。=保全の第一歩
このように、いわゆる7つのムダのうちの「作りすぎ、在庫、不良、運搬、動作、手待ち」などのムダが間違いなく軽減されていきます。
(D) 清潔:整理・整頓・清掃された状態を維持する=維持できる仕組みを構築します。
これは、マネジメントサイクルのうち、『P(計画、基準作り)ー D(実行)』を意味します。
(E) 躾:決めたことを守らせる=管理すると共に、環境の変化に合わせて守れるように仕組みの見直しをかけます。
これは、マネジメントサイクルのうち、『C(変化点の把握)-A(変化に合わせた基準の見直しによる標準化)』を意味します。
これらを進めていくことで、あたかも仕事の顔をして紛れ込んでいたムダが顕在化されます。あとは、少しずつそのレベルを上げていくことで間違いなく会社の基礎体力は向上=品質と生産性の向上につながるわけです。そして、品質と生産性が向上した分、これまでより少ない人員で対応が可能となり、浮いた人員を新たな戦力として振り向けられるわけです。
『5S』のうち、整理・整頓を進めていくだけでも、モノの置き場・置き方・量などの基準が決まってます。「定位・定品・定量」すなわち三定といわれる状態です。これができてくると、必要なモノだけを決められた場所にしか置けなくなります。こうして、日常の風景に溶け込んで見えなくなっていたムダが顕在化されるのです。
次に清掃です。『5S』における日常的な清掃は、保全のために最初に取り組むべき内容と重なります。設備を例にとると、
(A)きれいにすることで、油漏れなどの異常が見えやすくなる=汚れていれば、異常が見えません。
(B)継続的に直接自らが触ることで、いち早く異常を見つけることが可能になる=触れることが(触診)、変化を診ることにつながります。
毎日使う道具や設備だけに、使う人が自ら清掃する=触ることでいち早く変化点に気づくことが可能になると共に、きれいだからこそ他の人でも異常に気が付きやすくなるわけ...
です。モノ(設備や道具)は声に出して訴えかけてはくれません(実は異音や振動などで変化を知らせてくれることもあります)が、触ることでその声なき声を聴き取ることが可能となります。
そして、日々の清掃という訓練が、職場の小さな変化に対する感性を鍛えてくれます。結果、設備が壊れる前に対応することが可能となり、生産性の低下や予期せぬ怪我を防ぐことにつながっていきます。ただし、ひとつ重要なことがあります。単にきれいにするだけでは足らないということです。なぜ清掃するのか?という目的を共有することが絶対条件です。
このような点が、『5S』が【目で見る管理】の道具のひとつといわれる所以です。更に、正常・異常が目で見えるようになると、管理範囲を広げることが可能となります。正常値を外れ、異常が発生した時だけ対処すれば良いわけです。重要なことは、誰が見ても正常・異常が判る環境をいかに作っていくかということです。そのためも、5S活動は最適な手段のひとつというわけです。
整理・整頓・清掃を行うことで、いわゆる7つのムダのうち「造りすぎ、在庫、不良、運搬、動作、手待ち」などのムダが排除され、結果として生産性の向上につながっていきます。一般的に言われている改善策の多くは、基本的に『5S』のレベルアップを意味しているのです。