ヒューマンエラーを防ぐ組織・体制づくり ヒューマンエラーの考察(その4)


 

【連載の目次】

1.  ヒューマンエラーの考察(その1)ヒューマンエラーとは

2.  ヒューマンエラーの考察(その2)ヒヤリハットとは

3.  ヒューマンエラーの考察(その3)確認の形骸化とは

4.  ヒューマンエラーの考察(その4)ヒューマンエラーを防ぐ組織・体制づくり ←今回の記事

5.  ヒューマンエラーの考察(その5)ヒューマンエラー防止対策

 

 ヒューマンエラーということは「労働災害を防ぐ」といった「安全」についてだけではなく、「ヒューマンエラーによる不良などの品質問題を防ぐ」という観点からも重要です。人間が実際に「行動」するまでのプロセスとして、外部からの「情報」を目や耳といった「感覚」器官から受け取り「認識」し、知識や過去の経験に基づいて「処理」、「判断」し、実際に「行動」するという過程を経ます。

 しかし、外部からの情報の受取り段階において、体調、環境、感情等の状況により、情報を間違って受け取る場合、判断する際の知識自体の間違いや記憶違いによる誤判断、実際に行動する際でも操作を間違えるといったように、ヒューマンエラーは行動までのプロセスの各段階、またはそのプロセス全てでエラーが起こることで発生します。

 従って、行動までの一連の各プロセスにおいて、エラー自体の発生を抑えるようにする「未然防止」と「認識」、「判断」の段階でエラーが発生した場合でも、「行動」する前の段階でエラーに気付くことができるようにすることや、「行動」の段階でエラーが発生した場合でも、エラーに気付きリカバリーすることできる「歯止め」を設ける、ということが「ヒューマンエラーを防ぐ」ポイントとなります。

 ヒューマンエラーによる労働災害を防ぐという観点においては、エラーの発生自体を防ぐことはもちろんですが、万が一エラーが発生した場合は、その時点で気付かなければ、即、事故へ繋がりかねませんので、その場でエラーに気付き、歯止めを掛けることが重要であり、品質面においても表示や識別、ポカヨケなどの「未然防止」によりエラーの発生自体を抑え、また自工程でエラーが発生したとしても、そのエラーに気付き、「歯止め」が掛かり対処することで、エラーによって発生した不良品などを次工程へ流さないようにする、ということが重要です。

 

 今回は、ヒューマンエラーの考察について、5回の連載の第4回を解説しますが、冒頭で、ヒューマンエラーの原因について考えましょう。

 

1.ヒューマンエラーの原因

 日々発生するヒューマンエラーの原因を「うっかり」という理由だけで、人のせいにしていませんか。人のせいにしてしまって、ヒューマンエラーの対策が「しっかり教育する」というだけならまだしも「~に気を付ける」「~によく注意する」といったような精神論に頼った内容になってしまいます。

 こんな対策を繰り返していても、ヒューマンエラーは全く減りません。それどころか、現場の作業で気をつけることが増えてしまい、本来もっと気をつけなければいけない安全面の注意が削がれ、労働災害を起こすなどの事態に発展してしまうことさえあります。

 ヒューマンエラーの原因は人ではなく、隠れている仕組みの不備にあることが多いのです。やり方が悪い、ミスを想定したプロセス設計になっていないなど「真の原因(根本原因)」を掴(つか)む必要があります。言い換えれば、その「根本原因を取り除く対策」をしなければ再発の可能性は相変わらず高いままです。そして組織の風土、雰囲気はヒューマンエラーの発生の間接的な(場合によっては直接的な)要因になり得ます。今回は「ヒューマンエラーを防ぐ組織・体制づくり」について取り上げます。

 ヒューマンエラーが発生した際、担当の作業者の方からヒアリングされていると推察致します。ここで重要なことは、ヒアリングの方法です。

(1) 当事者へのヒアリングのポイント

 ヒアリングは、ヒューマンエラーを起こしてしまった当事者の責任を追究する場ではないことを前提に進める必要があります。こういったヒアリングは、あくまでヒューマンエラーの原因を分析するためのものであり、当事者の責任を追及する場ではありません。

 ヒューマンエラーの原因は「仕組みの不備」や「管理の問題」、「環境」などの当事者の方の問題ではない「外部的要因」があるため、決して「当事者個人の責任」で片付けてはならないのです。(当事者が「故意」で行っていた場合は、別の問題になります。)

 根本的な原因を掴み、再発を防止するための対策を打つために、当事者の方にその時の状況をありのままお話しいただく、とういう事を踏まえ、原因分析を行う担当者の方は、そのような発言を当事者の方に促すよう、その場を進行することが重要となります。

 そのためには、当事者の方に「責任を追及しているのではなく、再発防止のためにご協力いただく。」ということをを如何に理解していただくか、ということがポイントとなります。責めるような発言はNGです。そういった発言は当事者の方をより頑なにし、または萎縮させ、その時の状況を詳しく話していただけず、必要な情報を引き出すことが難しくなります。

 このような状況を防ぐために、直接の上長がヒアリングするのではなく、そのヒューマンエラーの事象を把握している第三者の方がヒアリングを行うといった方法もあります。また、ヒアリングする際は、ヒューマンエラーが発生した現場で実施することもポイントです。

 現場には環境などの隠れたヒューマンエラーの要因がある場合もあり、現場でその時の状況を含め詳細にヒアリングすることで見えてくる情報もあります。

 

2. ヒューマンエラーが発生しやすい組織の風土、雰囲気

 ヒューマンエラーが発生する要因として、組織の風土や雰囲気、また管理監督者の意識の問題という場合があります。
・目先の利益、出来高や効率などが最優先で組織全体のヒューマンエラーに対する意識が低い。
・管理監督者がヒューマンエラーに対する認識が低く、ヒューマンエラーの危害要因があっても「それ位大丈夫」という意識になっている。
 上記のような組織の風土や意識は、効率などを最優先するため「この位なら大丈夫だろう」とルールや手順を無視してしまう環境になりやすくなります。そうなってしまうと、ヒューマンエラー防止の概念が希薄なため、ヒューマンエラーが発生しても、更に気付きにくくなり、その結果、重大な事故やトラブルに繋がってしまう場合があります。
 

3. 経営者や職場の管理監督者の意識付け

 組織の風土や雰囲気を変えるためには経営者をはじめ、管理監督者のヒューマンエラーに対する意識が必要となります。「ヒューマンエラーによる事故やトラブルによる影響」について教育等を行うことで危機意識を認識させ「ヒューマンエラーからの事故やトラブルを防ぐ」という意識付けを行うことが重要です。
 
 
 

4. トップダウンとボトムアップ

 ヒューマンエラーを防ぐ組織づくりのためには例えば「ヒヤリ・ハット活動」では実担当者、作業者から活動などを通じて「ヒヤリ、ハットした事例」など情報を挙げてもらうようなボトムアップの活動が必要です。
 同活動などボトムアップの改善活動は単発ではなく「継続的な活動」である必要があります。一方ヒューマンエラーを防ぐ組織、体制づくりのためにはボトムアップ的な活動だけではなく、経営者からのトップダウンも必要です。
 例えば、経営者及び経営管理層の「ヒューマンエラーによる事故やトラブルを起こさない」という意思に基づいて、ヒューマンエラー防止・対策の組織、体制を構築していくことがポイントです。
 経営者や経営管理層が「ヒューマンエラーによる事故・トラブル撲滅」という意思表示を「行う、行わない」いかんで社員、従業員のヒューマンエラーに対する取り組みの重み付けが変わります。このように上位下達による防止活動に対して経営者の「お墨付き」や「錦の御旗」を掲げることも必要です。即ち、このような活動はトップダウンとボトムアップが双輪として機能することで、より強固な活動へと発展するのです。
 

5. ヒューマンエラー防止活動の継続のポイント

 ヒヤリ・ハット活動などの改善活動は継続してこそ意味があります。こういった活動は打ち上げてはみたものの、やり方を工夫しないと長続きしない場合が多々見受けられます。継続するためのポイントの一つとして、上司や管理監督者が挙がってくる事例について対応しているかどうかなど、何らかのレスポンスをすることが必要です。
 いくらヒヤリ・ハット情報や改善提案を挙げても、誰も何の反応も無く対応もなければ「いくら挙げても結局誰も反応してくれない」と思われてしまい、その人はそういった情報や提案を2度と挙げてはくれなくなります。そうなってしまっては、その活動自体が形骸化し、自然消滅してしまいます。
 やはり、そういった活動では挙がってきた情報、...
提案に対し適切にアクションを行うことで「ちゃんと見てくれているのだな」と活動するメンバーに感じてもらえることが大事です。それが、ひいては活動全体のモチベーションの維持・向上に繋がります。
 

6. 水平展開・横展開

 ヒューマンエラーによる事故・トラブルを防ぐためには自部門、自部署の事故・トラブルの原因や対策を他部門、他事業所へ共有化、展開することで類似トラブルの再発を防ぐといった水平展開・横展開も必要です。しかし、ただ情報を展開、共有化するだけでは不十分です。水平展開を効果的に行うためには、水平展開を受けた側がその水平展開された情報をどう受け止めるか?ということが重要なポイントとなります。
 単に、情報を一方的に展開するだけの水平展開は、単なる情報提供に陥りやすくなる上、その情報をただ持ち帰るだけになってしまいます。それでは有効な水平展開とはなりません。「そのヒヤリ・ハットや、ヒューマンエラーの情報をいかに自部門、自部署などへ生かすか」という事を踏まえることが必要です。
 水平展開を行う側はそのヒヤリ・ハットやヒューマンエラーによるトラブルや事故の対策などの情報(水平展開したい内容)について、他部門、他部署などでも注意・対策しなければならないポイントが明確になっているか?という点がハッキリしているかということが重要です。それは水平展開先(受け取る側)を考慮するということです。
 また、受け取る側も自部門、自部署にその展開された内容が当てはまるか、また、対策が必要かなど、しっかり検討し必要な処置を行い、実施した処置についての情報も共有化します。水平展開は、他へ展開することを意識して活動することがポイントです。組織、体制の「共通テーマ」として課題や目標に取り込むと良いでしょう。
 
 次回は、ヒューマンエラー防止を考える大前提について解説します。
 
 【出典】この内容は、Tech Note掲載記事から筆者が改変して連載にしたものです。  
 

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