高品質スクリーン印刷の実践を目的とする皆様の標となるように、論理的で整合性のある解説を心掛けたいと思います。前回のその3に続いて解説します。
【関連解説:印刷技術】
1. スクリーン印刷:寸法精度
スクリーン印刷は、寸法精度が高い印刷工法です。次の写真は、2005年頃、使用されていた42インチPDP(プラズマディスプレイ)ガラス基板4面取りの蛍光体ペースト印刷用のスクリーン版です。版枠の外寸は、3.3m×3.5mで、線径25μmφの超高強度ステンレス線材230メッシュスクリーンを使用しています。
写真奥の少し小さく見えるスクリーン版は、60インチPDP用の2.5mm□のスクリーン版です。蛍光体ペースト印刷用のスクリーン版パターンは、PDPの約70万個の画素毎に幅70μm長さ300μmくらいのパターンが全面にあるもので、設計値に対する位置精度は、±30μm以下でした。このようなスクリーン版を適正な印刷条件で印刷した際のガラス基板への位置合わせ精度は、±50μm以下です。PDP製造の最盛期には、スクリーン版の寿命も5万回以上に達していました。
多くの方が、スクリーン印刷はスクリーン版を伸ばして印刷するため、寸法精度が悪い印刷工法であると思われていますが、それは間違いです。スクリーン印刷が、寸法精度が悪い印刷工法であると、未だに思われているのは、強度が低いスクリーンメッシュで適正化されていない印...
刷プロセスでの経験者の方が業界の多数を占めているからです。
2. スクリーン印刷と印刷寸法精度
スクリーン印刷での印刷寸法精度を決定する要因ですが、「スクリーン印刷は、寸法精度が悪い」と思っている多くの方は、具体的には、スクリーン印刷の何が悪いと感じているのでしょうか。単に二つのパターンの位置が合わないことを寸法精度が悪いと言っているのではないでしょうか。
パターン位置合わせの寸法精度を決定する次の要因を全て管理する必要があります。
① パターンの設計値
② フォトマスク(原版)の寸法精度
③ スクリーン版の寸法精度
④ 基材の寸法安定性
⑤ 印刷パターンの寸法精度
スクリーン印刷は、版と基材との間にクリアランスを採って、その大きさだけスクリーン版を伸ばしながら印刷する工法であり、印刷パターン寸法は、スクリーン版寸法よりスキージ幅方向とストローク方向で一定量大きくなります。この値が、常に均一であれば、設計段階で補正することが出来ます。次の図1は、強度が高いスクリーン枠を使用したポリエステルメッシュ版での典型的な変形です。ストローク方向の変形は、スキージ方向にずり応力を受けるため、印圧に影響を受けます。当然のことながら、これらの変形量は、スクリーンメッシュの強度の違いにより異なります。
3. スクリーン版の弾性変形と印刷パターン変形量
「スクリーン版と同じ寸法で印刷」する事が、寸法精度向上の目的と考えている方が多いようですが、これも、間違いです。スクリーン印刷は、スキージの押圧でインキを基材に転移し、スクリーン版の反発力で瞬時に「版離れ」する原理のため、にじみのない連続印刷が可能になるのです。「スクリーン版と同じ寸法で印刷」したいため、クリアランスを採らないコンタクト印刷をすることは、印刷安定性を損なうため、最も避けるべき事です。
ステンレスメッシュ版での適正なクリアランス設定時の、スキージ幅方向での印刷パターンの伸びは、450㎜(枠サイズ950mm▢)に対して約90μmで、ストローク方向の伸びは、100~120μm程度です。これは、スクリーン版の弾性変形領域内での伸びであり、塑性変形不良である「版のび」とは違います。なお、ポリエステルメッシュ版では、スキージ幅方向の伸び量は、同程度ですが、ストローク方向の伸びは、この2~3倍であり、スキージ印圧に大きく影響を受け、湾曲状の変形も大きくなります。つまり、クリアランス量を「0」とした、コンタクト状態での印刷をしても、スキージストローク方向の伸びは軽減できないことになります。なお、スクリーン枠の強度が不十分であると、刷り始めの印刷パターンのスキージストローク方向への湾曲状の変形が大きくなります。
現実的な、寸法精度向上方法は、設計で適切なマイナス補正を施した寸法精度の高いスクリーン版で適正なクリアランスとスキージ印圧で印刷することです。次の写真は、超高強度スクリーン版を使用して、青パターンの上に緑の▮160mm▢サイズで、±20μmの精度で位置合わせして印刷したものです。