【目次】
第3章 連関図法の使い方 ←今回
第4章 親和図法の使い方
第5章 マトリックス・データ(MD)解析法の使い方
第6章 マトリックス図法の使い方
第7章 系統図法の使い方
第8章 アロー・ダイヤグラム法の使い方
第9章 PDPC法の使い方
第10章 PDCA-TC法の使い方
新QC七つ道具:第3章 連関図法の使い方
前回に続いて、3.3 事例に見る連関図法による混沌解明のノウハウ、から続けます。
(4) Step13のリポートの作成について
リポートは、前節で説明した趣旨が生かされておれば、形式や表現は自由ですが、この事例についての模擬リポートを下記に準備したので参考にご覧下さい。模擬リポート作成に当たっては、連関図の作図と熟成・解析を重ねる過程で、筆者が脳裏に描いた架空の企業をベースとし、混沌解明チームのリーダーを作成者と仮定しました。リポートにある「準管理メーカー」「管理メーカー」というのは、次のように仮定します。双方とも顧客独自の品質評価点数が目標に未達のため品質改善計画書の提出を義務づけ、そのフォローに顧客が関わる仕入れ先のことで、未達の程度により両者に分かれます。前者の場合は品質改善計画書の進捗状況を仕入れ先が出向いて報告すればよいのですが、後者の場合は顧客が出向いて監査の形での進捗状況チェックになる違いがあります。
【模擬リポート】連関図「なぜクレームが減らないのか?」から引き出された結論と事態打開策の立案方針(案)
【連関図「なぜクレームが減らないのか?」(図3-6)から引き出された結論】
1.はじめに
当工場第一製造部は、A顧客より、軽特性ではあるがクレーム件数が多いことを理由に今期“準管理メーカー”の指定を受け、クレーム件数低減活動を続けてきたが、いまのところ効果なく、このまま推移すると、来期の“管理メーカー”指定は確実で、営業活動への悪影響が懸念される。この事態打開のため、技術部の参画を要請され、新QC七つ道具の1つである「連関図法」により現状分析を行ったところ、背景に全社的緊急課題の存在が認められたので、現状分析結果を、事態打開策の立案方針(案)を付して報告する。
2.現状分析結果
1)結論
「顧客の新しい品質要求への会社としての対応の拙さからくる混乱が、安定していた既契約品質項目の管理に悪影響を及ぼし、軽品質特性のクレーム多発につながっている。従前の、“クレーム発生原因現場による対応”だけでは混沌状態は解決し得ず、顧客の要求品質の的確な把握を起点とした、全社的取り組みが、緊急課題である。この対応いかんによっては、事態が他工場、他部門へ波及し深刻な事態も懸念されるが、当社の総合力をもってすれば早期の事態改善と信頼回復は可能である」
2)事態打開策の立案方針(案)
今回把握した問題点の核心は、QA(品質保証)の起点である顧客ニーズの把握におけるミスマッチであった。すなわち、今回問題となっているのは、顧客の最前線部隊が関わる、既契約品質周辺の新たなニーズであるが、当社の既契約品質に対する方針は、「品質維持の効率化」であり、そのような顧客ニーズを把握する体制にはなっていないことが問題である。
したがって、総力を挙げて、この点に関する顧客ニーズを的確に把握することが、本件を解決する上での緊急課題である。そしてそのことは、当社が注力し把握体制が圧倒的優位にある、「最先端技術の適用も視野に入れた次世代ニーズの発掘」にとっても示唆に富むものと思われる。
上記を念頭に、本社品証部長直轄の全社的プロジェクトチームが中心となり下記を遂行する。
【事態打開策策定の基本方針】(案)
連関図の熟成・解析結果から入手した事態打開策の具備すべきポイントは下記の通りであり、策定方針とすべきである。
ⅰ)現顧客ニーズの的確な把握
営業と技術がチームを組み、今後の把握体制設計を念頭に活動する。
ⅱ)顧客向け改善計画の立案と提示
顧客最前線部隊への「クイックレスポンス」と、顧客トップ向け「QA体系の再設計を含む抜本的改善計画」の2本立て。
ⅲ)下記を主眼としたQA体系の見直し
- 顧客ニーズのレベル別把握体制の確立
- 品管・品証業務の手段の目的化是正
- 新ニーズに対する検査技術の最新鋭化
- 工程内検査の見直しと再設計
- 権限委譲による中央集権体制の是正
ⅳ)QA体系の再設計
上記見直し結果を反映して、顧客ニーズの変化に敏感で、柔軟な対応が可能な体制を企図する。
ⅴ)経営資源の再分配計画の立案
上記結論の確実な具現のための、人材、資金の配分計画を短期・中期の2本立てで策定。
ⅵ)的確な意識教育カード対応の実施
データとしては貴重だが、背景に誤解が心配されるものがある。データの真意に対する対応策提示の際留意する。
【模擬リポート】以上
(5) 連関図からの結論引き出し経過のまとめ
最終連関図(図3-6)における主要データカードから読み取った核心、関連データから引き出した打開策策定のポイントと、上記策定方針との関連を下記の表3-7に示します。この事例の場合は、これ以外にも主要カードに匹敵する内容のものが存在しますが、結論に直結するものに限定しました。主要カードとしてあげた4種類の中には、最終カードや起点カードのように定義が明確なものもありまするが、他は、大まかなガイドラインはあるものの、選択は主観によるところが大きいのです。そして、それらが、結論を大きく左右するケースもあるので、選択に当たっては、メンバー間の十分な議論とコンセンサスが必要です。
3.3.4 結論抽出経過まとめ
今回の事例は、その求めるところはあくまでシステム運用上に関わるものであるとはいえ、結論の最後で「品質管理体制の再構築」に言及しており、連関図法の「混沌B」解明への適用の可能性さえ感じさせるものでした。このことは、事態が「混沌B(システムレベルが低いために起こる混沌)」であるにもかかわらず「混沌A(システム効率が低いため...
に起こる混沌)」と判断して連関図法を適用した場合であっても、熟成が適正であれば、連関図法のこの側面により、リポート作成段階で事態の本質が「混沌B」であることに気づくことができる可能性を示唆しています。
一方、第1章で、混沌Bの場合も補助手段としての連関図法の活用を提唱しています。ということは、本質的な基本機能としては混沌Aは連関図法、混沌Bは親和図法に変わりはないのですが、AかBの見極めが大切として見極め法も紹介した点については「よく分からないときは迷わず連関図法から」でもよさそうで、思わぬ発見をみた事例解析でした。
次回から、第4章 親和図法の解説に移ります。
表3-7 最終連関図(図3-6)からの結論抽出経過まとめ(含策定方針との関連)