1. 聞き手の立場になってわかりやすく説明しよう
先日、技術者の方を対象とした研修会で講師を務めてきました。
研修会のテーマは“コミュニケーション”です。弊社では、
「聞き手の立場になってわかりやすく説明しよう」をテーマとして、主に、
“会話によるコミュニケーションの質”について解説しました。
コミュニケーションの意味(定義)はいろいろあります。岩波国語辞典(第5版)では以下のように説明しています。
“気持ち・意見などを、言葉などを通じて相手に伝えること。通じ合い。”
先日、NHKのテレビでシニアの再就職をテーマにした番組がありましたが、その番組の中で、年下の上司とのコミュニケーション術なども解説していました。年下の上司も年上の部下も会社内でのコミュニケーションには気を遣うと思います。
すなわち、コミュニケーションの相手に対する気遣いや思いやりなどもコミュニケーションに含まれると思います。
コミュニケーションの意味(定義)はその幅が広いですが、今回の研修会では、“伝えること”に限定して解説しました。
会話によるコミュニケーションの質とは、「コミュニケーションをする相手に伝えるべきことをわかりやすく説明できるかどうか」ということです。
すなわち、会話によるコミュニケーションの質が高いとは、“伝えるべきことを説明する”ではなく“伝えるべきことをわかりやすく説明する”です。また、“伝えるべきことをわかりやすく説明する”とは、“伝えるべきことを明確に説明する”です。
“伝えるべきことを明確に説明する”で会話によるコミュニケーションが成立します。
2. 会話によるコミュニケーションの例
例えば、以下のような上司と部下との会話を考えてください。
◆ 会話によるコミュニケーションⅠ
部下B:現地調査の結果、◯◯地域で局地的な豪雨が発生すると、この地域で重大な自然災害が発生する可能性があることがわかりました。
上司A:重大な自然災害とは何だ? 君の説明はよくわからない。
これは、上司Aと部下Bとの会話によるコミュニケーションの場面です。しかし、部下Bのこのような説明では、上司Aと部下Bとのコミュニケーションが成立しません。部下Bの説明は上司Aに“伝えるべき内容を説明”しているだけだからです。この説明は、コミュニケーションの質が悪いです。
◆ 会話によるコミュニケーションⅡ
部下B:現地調査の結果、◯◯地域で局地的な豪雨が発生すると、この地域で、河川の氾濫やそれに伴う家屋の浸水などの重大な自然災害が発生する可能性があることがわかりました。
上司A:◯◯地域に住む住民の方々の生命に係わる重大な自然災害が発生する可能性があるのか。わかった。
部下Bのこのような説明で、上司Aと部下Bとのコミュニケーションが成立します。部下Bの説明は上司Aに“伝えるべき内容を明確に説明”しているからです。
このように説明することで会話によるコミュニケーションの質が向上します。
3. 文字によるコミュニケーションの例
自分の考えや意志などを文字にして読み手に伝えることもコミュニケーションです。したがって、“伝えるべきことを明確に説明すること”、すなわち、“内容を明確に伝えること”の重要性は文字によるコミュニケーションの場合も同じです。
文字によるコミュニケーションの質とは、「読み手に内容を明確に伝えることができるかどうか」ということです。文字によるコミュニケーションの質が高いとは、“読み手に内容が明確に伝わるように書く”です。
“読み手に内容が明確に伝わるように書く”で文字によるコミュニケーションが成立します。
◆ 文字によるコミュニケーションⅠ
文Ⅰ:この交差点での歩行者を巻き込んだ交通事故を減らすためには、歩行者に対する安全性の高い対策が必要である。
この文では、文字によるコミュニケーションが成立しません。この文では「安全性の高い対策」の具体的な内容がわからないからです。この文は、コミュニケーションの質が悪いです。
◆ 文字によるコミュニケーションⅡ
文Ⅱ:この交差点での歩行者を巻き込んだ交通事故を減らすためには、歩車分離式信号機(スクランブル式信号機)の設置などの歩行者に対する安全性の高い対策が必要である。
このような内容の文を書くことで、文字によるコミュニケーションが成立します。読み手に内容が明確に伝わるように文を書いているからです。
このような文を書くことで文字によるコミュニケーションの質が向上します。
4. コミュニケーションの質を考える
会話によるコミュニケーシ...
ョンの場合も文字によるコミュニケーションの場合も、
“コミュニケーションの質”を考えてください。質の高いコミュニケーションをすることでコミュニケーションが成立します。
【参考文献】
森谷仁著、「技術者のためのわかりやすい文書の書き方」、オーム社、平成27年3月20日