「おもてなしの神髄」 CS経営(その52)

  
 
 

◆なぜ、あの企業の「顧客満足」はすごいのか

14. 魅力価値創造のすごさ:積水化学工業株式会社

 前回の(1)に続いて、解説します。
 

(2)「商品の品質」と「人の品質」

 商品だけでは、お客様の心を満たすことはできません。そもそも、人の品質が伴わなければ、商品の品質は保てないのです。そのため、「人の品質に磨きをかけろ!」「自らの気づきを大きく伸ばそう」と、積水化学では「人の品質」にこだわっています。とくに顧客との接点を担う電話対応にはこだわりがあるのです。 
 
 一般ユーザーに対する調査結果にしたがった顧客の性別、年代別、職業別の課題取り組み、電話によるお問い合わせ、苦情の内容別対応。たとえば、「聞きたいことに対する回答がわかりにくかった」「誠意が感じられなかった」「言葉づかいは丁寧だが、見下された気分になった」「自分たちの落ち度に対して反省、謝罪の意が感じられず、言い訳やうわべだけの謝罪に思えた」などに対する具体的な対応を行なうのです。
 

(3) カンパニー制の弊害を超える

 先に記したカンパニー制度の狙いは、企業内の事業部門を独立採算制により、あたかも一企業のように位置づけ、経営・運営することにあります。
 
 売上、利益、社員数など、企業規模が大きくなると、意思決定に時間がかかるのは世の常です。そして、トップ層、本社と現場との距離が広がり、上層部から現場を理解する能力が失われていくことになります。それを阻止するのが、カンパニー制です。カンパニー制によって権限移譲が行なわれれば、意思決定のスピードは格段に上がるからです。
 
 もちろん、カンパニー制の弊害もあります。それは、他のカンパニーとの連携がとりにくくなる点です。カンパニー同士をつなぐ糊代がなくなり、「自社グループの企業から購入すると高くつく」という理由で「もっと安い外部の別会社から購入する」ということが頻繁に発生することになるのです。
 
 「安いところから購入するのは当たり前だ」と考える方もいると思いますが、安くなるのが悪いのではないでしょう。連携がとれなくなるのが危険なのです。繰り返しになりますが、統一感のない分業体制は顧客にとってデメリット以外の何物でもないのです。「安いところに発注する」という考えは、やがて「安かろう、悪かろう」に行き着きます。結果、製品・サービスの品質レベルが低下し、製品トラブル、クレーム多発、信用を失うという悪循環を生むことになります。これは実際に積水化学でも過去に発生したことです。
 
 また、あるカンパニーに何かの質問をすると、「◯◯部署に電話してほしい」と言われ、そこに電話すると「◯◯部署に電話してほしい」と同じことを言われ、たらい回しにされることも横行し始めます。
 
 組織内の部門・部署ですらこの調子ですから、これがグループ企業になるともっと厄介になります。顧客は知りたいことがわからないまま、不満、怒りだけ抱えたまま受話器を置くことになるのです。
 
 一方、現在の積水化学のカンパニー制は成功しています。大成功といってもいいでしょう。「魅力品質」という核があるため、カンパニー間のコミュニケーションは円滑で、カンパニー制の弊害は微塵も感じられません。
 
 理由は個々の事業体や活動を「積水化学グループ」として捉え、委員会も各事業体が横断的に参加するものになっており、理念、目標、活動などが同次元で認識され理解されています。ここでいう「積水化学グループ」とは、住宅カンパニー、高機能プラスチッ...
クスカンパニー、環境・ライフラインカンパニー、その他の事業を指します。
 
 住宅カンパニーは、地球環境にやさしく、60年以上安心して快適に住み続けることができる住まいを提供していますが、他のカンパニーの部材・部品やノウハウの活用などが融合した商品となっています。また高機能プラスチックスカンパニーはエレクトロニクス、車両、輸送、住インフラ材、ライフサイエンスなどの幅広い分野に向けて高機能材を開発することで住宅カンパニー、環境・ライフラインカンパニーならびにその他事業との関係性を深めています。
 
 次回は、15.革新的6次産業の発展みかん離れを食い止めろ!「三ヶ日みかん」三ヶ日町農業協同組合から解説を続けます。
 
【出典】 武田哲男 著 なぜ、あの企業の「顧客満足」は、すごいのか PHP研究所発行
     筆者のご承諾により、抜粋を連載
 

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