経済性工学は、費用対効果、損得計算、意思決定のための経済性分析などとも表現されており、不確実性の時代には、技術者が成果を確かなものにするための差別化スキルとなることでしょう。今回はその手始めとして、前段階のR&D評価法を、次回以降で技術者が押さえておくべき経済性工学のエッセンスとして、下記の番号順にまとめました。最初にお断りしておきますと、一本釣りした研究開発テーマだけを計算してもあまり意味がありません。いくつかの代替案を示し、どの案の利益が大きいかで判断するところに価値があります。さらに、不確実性が高い場合には、感度分析で条件を変えてみることで最適な意思決定に繋がります。
1. R&Dを定量評価する
1.1 企業の目標とは
研究及び技術開発を定量的に評価することは、将来にわたって恒久的な課題です。いくつかの企業やシンクタンクなどで知識生産性測定を模索する試行錯誤が行われており、問題意識は非常に高くなっています。目標の高い技術者にとって、ここが勝負どころとなります。
企業活動を、図1.1に示すように顧客の視点、業務プロセスの視点、財...
図1.1 BSCで俯瞰する企業の目標とは
1.2 R&Dの定量的評価
いくつかの企業、コンサルティング・ファームおよび筆者の失敗と成功の体験などから、基本的評価軸を3つに絞れば、次の要素となります。
- 市場性
- 創造性
- 採算性
①市場性は、新しいビジネス領域を確立できて新規ビジネスとして成り立つかを判断するものです。対象市場がコンシューマーなのかニッチなのかも重要なファクターとなります。
②創造性は、最も評価が難しいかも知れません。また、これは知的財産権で保護される指標で評価が可能です。多くの技術成果は、特許権や意匠権などで評価が可能となります。
③
採算性は、まさしくいくら投資していくら利益を得たかでありROI(Return On Investment)の考え方で評価できます。例えば、次式のようになります。
R&D生産性 (ROI) = R&D貢献利益/投入R&D費
この中で、R&D貢献利益=商品貢献利益×R&Dの貢献(%)と考えればよいでしょう。
以上の基本的評価軸をもう少し細分化して6つの切り口でそれらの段階を区分して、優先順位を付けて評価するのが現実的です。表1.1に評価基準のマトリクス案の例を示します。これらの評価要素の中で、ドッグイヤーの現代に生き残るには、技術的魅力度と開発期間が特に重要といえます。ここでいう技術的魅力度とは、お客様がすぐにでも欲しがっている商品であり儲かる技術でもあります。開発期間は、お客様が欲しがっている時期に一番早く提供できるかどうかです。ここでのお客様とは、コンシューマー・ユーザーおよび後工程の両者を指します。
これらを実現させるのは非常に難しいのですが、求められるテーマの全体像を俯瞰しながら、全体最適化を念頭にシステム思考や創造性開発技法を駆使して、最適案を選択していただきたいものです。
表1.1 R&Dの定量的評価法の例
参考文献:
粕谷茂:プロエンジニア(コンピテンシー構築の極意)、株式会社テクノ、2002