ものづくりを取り巻く環境

投稿日

  生産マネジメント

1. 新興国とのコスト差

 今となっては昔のことですが、半導体、家電製品、携帯電話などお家芸といわれた製品が新興勢力に駆逐されたのは価格的に勝負にならなかったからと言われてきました。たしかにその通りで、労賃の差は大きかった。一方、製品を作り市場に流通させ最終消費者に売るまでのサイクル全体に視野を広げてみるとさらにいろいろな要素があることもわかります。

 工場労働者の直労費だけでなく、流通業者の労賃の違い、店舗販売員の時給単価の違いなどにも効いてきます。流通経路にかかる費用はその国や民族の習慣によっても異なってきますし、労働慣行の違いもあります。

 また製造機械などに設備投資した場合の減価償却も結構大きいのです。日本ではものによって細かく決まっていますが、アジア各国ではかなりアバウトで、減価償却の概念すらないところもります。法人税などの国の法令によるものも効いてきます。

 こうしたことから近年日本の製造業は東南アジア等に生産拠点を移し、現地調達・現地生産を推し進めています。自動車も精密機器、OA製品のメーカもほとんどが海外でものづくりをしており、100%海外生産している大手メーカもあり、製造に関わる人員の70%は外国人という状況になってきました。

 知財なども相応の比率を占めています。アップルなどはこの知財・技術戦略が徹底されていて、製造は徹底的に安くする代わりに技術特許でしっかり利益を確保し侵害には徹底抗戦するための要員体制も敷いています。部品メーカである日本企業も極めて不利な契約締結を余儀なくされていて、設計・製造・調達・流通・知財のあらゆる面にわたるコスト戦略で臨まなければならないわけですね。

2. すり合わせと組み合わせ

 欧州の自動車業界に詳しい調査会社の講演を聞いた時に「日本のメーカは高品質だとは思うが、摺り合わせをやり過ぎて標準化を台無しにしている」という発言がありました。

 たしかに欧米では自動車業界に限らず モジュラー設計や標準化が進んでいます。日本でも自動車業界はじめ、標準化、セミカスタマイズという取組みが行われていましたがやりやすいところだけに終始して不徹底であると言われてきました。日本はコスト低減に最後の最後まで頑張るため、設計終了後の製造段階や出荷の直前まで摺り合わせをしてしまうので、せっかく苦労して標準化しても、現場の見えないところで亜流を作りこんでいるというのです。 たしかにこれは的を得た指摘だと思いました。日本企業も徐々にこうしたことに取り組み始めています。

 さて海外はというと、現場のものづくりについて言えば日本とは異なる苦しみもあるようです。例えばB787。このプロジェクトは当初予算の何倍に膨れ惨憺たる状況だったらしい。外注化比率を70%位まで引き上げ、コストも削減するという方針もあり、サプライヤー数も格段に増え相手の顔が見えず密にコミュニケーションできなくなり、現場に持ち込んだら接続...

  生産マネジメント

1. 新興国とのコスト差

 今となっては昔のことですが、半導体、家電製品、携帯電話などお家芸といわれた製品が新興勢力に駆逐されたのは価格的に勝負にならなかったからと言われてきました。たしかにその通りで、労賃の差は大きかった。一方、製品を作り市場に流通させ最終消費者に売るまでのサイクル全体に視野を広げてみるとさらにいろいろな要素があることもわかります。

 工場労働者の直労費だけでなく、流通業者の労賃の違い、店舗販売員の時給単価の違いなどにも効いてきます。流通経路にかかる費用はその国や民族の習慣によっても異なってきますし、労働慣行の違いもあります。

 また製造機械などに設備投資した場合の減価償却も結構大きいのです。日本ではものによって細かく決まっていますが、アジア各国ではかなりアバウトで、減価償却の概念すらないところもります。法人税などの国の法令によるものも効いてきます。

 こうしたことから近年日本の製造業は東南アジア等に生産拠点を移し、現地調達・現地生産を推し進めています。自動車も精密機器、OA製品のメーカもほとんどが海外でものづくりをしており、100%海外生産している大手メーカもあり、製造に関わる人員の70%は外国人という状況になってきました。

 知財なども相応の比率を占めています。アップルなどはこの知財・技術戦略が徹底されていて、製造は徹底的に安くする代わりに技術特許でしっかり利益を確保し侵害には徹底抗戦するための要員体制も敷いています。部品メーカである日本企業も極めて不利な契約締結を余儀なくされていて、設計・製造・調達・流通・知財のあらゆる面にわたるコスト戦略で臨まなければならないわけですね。

2. すり合わせと組み合わせ

 欧州の自動車業界に詳しい調査会社の講演を聞いた時に「日本のメーカは高品質だとは思うが、摺り合わせをやり過ぎて標準化を台無しにしている」という発言がありました。

 たしかに欧米では自動車業界に限らず モジュラー設計や標準化が進んでいます。日本でも自動車業界はじめ、標準化、セミカスタマイズという取組みが行われていましたがやりやすいところだけに終始して不徹底であると言われてきました。日本はコスト低減に最後の最後まで頑張るため、設計終了後の製造段階や出荷の直前まで摺り合わせをしてしまうので、せっかく苦労して標準化しても、現場の見えないところで亜流を作りこんでいるというのです。 たしかにこれは的を得た指摘だと思いました。日本企業も徐々にこうしたことに取り組み始めています。

 さて海外はというと、現場のものづくりについて言えば日本とは異なる苦しみもあるようです。例えばB787。このプロジェクトは当初予算の何倍に膨れ惨憺たる状況だったらしい。外注化比率を70%位まで引き上げ、コストも削減するという方針もあり、サプライヤー数も格段に増え相手の顔が見えず密にコミュニケーションできなくなり、現場に持ち込んだら接続できないという状況が多発したとのことです。

 しかし、だからやっぱり摺り合わせ、という単純な話ではありません。これから世界中でものづくりをしてゆく上ではいろいろな面での、”わかりやすさ”が大切になります。日本的な摺り合わせは、そもそもが日本人以外にはできる芸当でもありません。モジュラー設計のようにある標準化のフレームワークとこれによる組み合わせ開発は必要で、そのフレームワークの中で効果のある場面に限定して摺り合わせるという工夫がいるように感じます。そうした背景の中で、モデルベース開発も重要だという声も出てきています。今後の取り組みにも注目しておきたいところです。

 

   続きを読むには・・・


この記事の著者

石田 茂

ものづくりの基本は人づくりをモットーに、技術者の持つ力を会社の組織力につなげるための仕組みづくりの伴奏支援を行います。

ものづくりの基本は人づくりをモットーに、技術者の持つ力を会社の組織力につなげるための仕組みづくりの伴奏支援を行います。


「生産マネジメント総合」の他のキーワード解説記事

もっと見る
新規開拓のどこを見ればよいか 中国工場の品質改善(その72)

 前回のその71に続いて解説します。 【第4章】中国新規取引先選定のポイント ◆ 初回生産への立ち合いと量産後の不良率を確認  量産立ち上げ時は...

 前回のその71に続いて解説します。 【第4章】中国新規取引先選定のポイント ◆ 初回生産への立ち合いと量産後の不良率を確認  量産立ち上げ時は...


モノの積み方 儲かるメーカー改善の急所101項(その17)

2.モノづくり〈現場改善の基本〉 ◆ モノの積み方  モノがやたらに高く積み上っていて向こうが見えない工場と、そのような視線をさえぎるモノがなくて...

2.モノづくり〈現場改善の基本〉 ◆ モノの積み方  モノがやたらに高く積み上っていて向こうが見えない工場と、そのような視線をさえぎるモノがなくて...


生産性とその対応策の可視化、生産管理の切り口で!

1. 生産性とは  生産性(Productivity)とは、一言で言えば、産出量(Output)/投入量(Input)の式で表されます。つまり、投入量に...

1. 生産性とは  生産性(Productivity)とは、一言で言えば、産出量(Output)/投入量(Input)の式で表されます。つまり、投入量に...


「生産マネジメント総合」の活用事例

もっと見る
梱包前の在庫では先入先出は適用不要? 中国企業の壁(その23)

        ある中国企業の工場を訪問した時のことでした。全体的には、きちんと整備されていた工場でしたが、梱包工程の前に仕掛品が非常に多くあること...

        ある中国企業の工場を訪問した時のことでした。全体的には、きちんと整備されていた工場でしたが、梱包工程の前に仕掛品が非常に多くあること...


仕入先から直接顧客に納入した部品でクレーム 中国企業の壁(その40)

        建設用の組立ユニットを生産している中国企業の工場では、自分の工場で部材を調達・加工、そしてサブアッセンブリーをした上で顧客に納入して...

        建設用の組立ユニットを生産している中国企業の工場では、自分の工場で部材を調達・加工、そしてサブアッセンブリーをした上で顧客に納入して...


手作業を機械化するときのポイント 中国企業の壁(その9)

1. 手作業を機械化するときのポイント    現在指導している中国企業の製品はユニットもので、お客様のところで組立をして使用します。この企業のユニット...

1. 手作業を機械化するときのポイント    現在指導している中国企業の製品はユニットもので、お客様のところで組立をして使用します。この企業のユニット...