ものづくり分野における「モンテカルロ法」の活用(その1)

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1.モンテカルロ法~基本的アイデアは単純

 モンテカルロ法(Monte Carlo・以下MC法)とは、乱数を活用した数値シミュレーションの手法です。インターネットで「モンテカルロ法」と検索すると多くの文献やHPがヒットしますが、そのほとんどは難解な専門用語と数式が数多く登場して、一般技術者がその内容を理解することは困難と思われます。

 なぜそのようにMC法の説明は、難しくて分かりにくいのでしょうか。その理由の一つは、MC法がもともと原子物理の分野で提案され、主に理論物理や数学などの理学分野で研究されてきたため、工学分野出身の技術者には馴染みの薄い専門用語や数式が多いからだと筆者は考えます。しかしながらMC法の基本的なアイデアはとても単純で、その本質を理解することは決して難しくありません。特に近年、MC法は数値シミュレーションのツールの一つとしてその有用性が認められ理学、工学だけでなく経済学の幅広い分野にまで適用されるようになってきています。さらに最近はAI(人工知能)の機械学習手法にもMC法が活用されており、今後もますます重要になっていくと考えます。

 そこで本稿では2回にわたり、ものづくり技術者向けにMC法の概要、適用事例から今後の展開までを具体的で分かりやすく解説していきます。まず第1回でMC法の歴史やこれまでの適用範囲等の概要について述べます。そして第2回ではMC法の具体的な適用事例と今後の展開及びまとめについて説明します。特に適用事例はものづくり技術者に関連の深い話題を選んで取り上げますので、ぜひ実際に手を動かして簡単なプログラムを組んでみて、MC法に親しんでもらいたいと思います。

2.MC法の概要  [1], [2], [3]

 MC法は先に述べたように、もともと原子物理学の分野で核物質内における中性子の挙動を計算するために考案された手法で、物理学ではこれ以外にも液体や気体中の粒子の運動(いわゆるブラウン運動)、粉体の混合などにも適用され「統計物理学」、「統計力学」の主要ツールの一つになっています。余談になりますが、MC法のアイデアは1946年頃にロスアラモス(現ロスアラモス国立研究所)で水爆の開発に従事していた数学者スタニスラウ・M・ウラムが思いつき、同僚の数学者や物理学者、計算機科学者のジョン・フォン・ノイマンに提案したところ、MC法がギャンブルの確率の数学的定式化に役立つことから、モナコ公国のカジノがあるモンテカルロ地区にちなんでノイマンが命名したといわれています。

 MC法は物理以外にも数学分野では、多重定積分の計算、常微分・偏微分方程式の解法、複雑形状図形の面積の計算等に適用されます。またOR(オペレーションリサーチ)や経営工学分野では待ち行列、ランダムウォーク(酔歩)、在庫量問題に応用されます。さらに金融工学(フィンテック)の分野ではデリバティブ価格評価、リスク評価、保険数理の...


1.モンテカルロ法~基本的アイデアは単純

 モンテカルロ法(Monte Carlo・以下MC法)とは、乱数を活用した数値シミュレーションの手法です。インターネットで「モンテカルロ法」と検索すると多くの文献やHPがヒットしますが、そのほとんどは難解な専門用語と数式が数多く登場して、一般技術者がその内容を理解することは困難と思われます。

 なぜそのようにMC法の説明は、難しくて分かりにくいのでしょうか。その理由の一つは、MC法がもともと原子物理の分野で提案され、主に理論物理や数学などの理学分野で研究されてきたため、工学分野出身の技術者には馴染みの薄い専門用語や数式が多いからだと筆者は考えます。しかしながらMC法の基本的なアイデアはとても単純で、その本質を理解することは決して難しくありません。特に近年、MC法は数値シミュレーションのツールの一つとしてその有用性が認められ理学、工学だけでなく経済学の幅広い分野にまで適用されるようになってきています。さらに最近はAI(人工知能)の機械学習手法にもMC法が活用されており、今後もますます重要になっていくと考えます。

 そこで本稿では2回にわたり、ものづくり技術者向けにMC法の概要、適用事例から今後の展開までを具体的で分かりやすく解説していきます。まず第1回でMC法の歴史やこれまでの適用範囲等の概要について述べます。そして第2回ではMC法の具体的な適用事例と今後の展開及びまとめについて説明します。特に適用事例はものづくり技術者に関連の深い話題を選んで取り上げますので、ぜひ実際に手を動かして簡単なプログラムを組んでみて、MC法に親しんでもらいたいと思います。

2.MC法の概要  [1], [2], [3]

 MC法は先に述べたように、もともと原子物理学の分野で核物質内における中性子の挙動を計算するために考案された手法で、物理学ではこれ以外にも液体や気体中の粒子の運動(いわゆるブラウン運動)、粉体の混合などにも適用され「統計物理学」、「統計力学」の主要ツールの一つになっています。余談になりますが、MC法のアイデアは1946年頃にロスアラモス(現ロスアラモス国立研究所)で水爆の開発に従事していた数学者スタニスラウ・M・ウラムが思いつき、同僚の数学者や物理学者、計算機科学者のジョン・フォン・ノイマンに提案したところ、MC法がギャンブルの確率の数学的定式化に役立つことから、モナコ公国のカジノがあるモンテカルロ地区にちなんでノイマンが命名したといわれています。

 MC法は物理以外にも数学分野では、多重定積分の計算、常微分・偏微分方程式の解法、複雑形状図形の面積の計算等に適用されます。またOR(オペレーションリサーチ)や経営工学分野では待ち行列、ランダムウォーク(酔歩)、在庫量問題に応用されます。さらに金融工学(フィンテック)の分野ではデリバティブ価格評価、リスク評価、保険数理の分野に活用されています。そのほか交通工学、半導体工学、通信工学、信頼性工学、計算機科学、生物学、生態学、社会心理学など幅広い分野で用いられる重要なシミュレーション・ツールといえます。

 ※第2回に続きます

参考文献

[1] ITメディアエンタープライズHP:情報マネジメント用語辞典「モンテカルロ法」
  https://www.itmedia.co.jp/im/articles/0901/26/news107.html
[2] 赤池:「モンテカルロ法」,科学基礎論研究 Vol.4 No.2 (1959).
[3] 福島:「モンテカルロ法の基礎と応用」,物性研究 電子版 Vol.7, No.2 (2018).

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この記事の著者

安武 健司

(CAE+実験)×原理原則=ソリューション提案

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