技術企業の高収益化: 高収益をもたらす経営者の決断

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経営者

 

◆ 高収益経営者はそのジレンマを克服する

1、社内の抵抗にどう対処するか

 「会社として、本当にそうすべきなのですか」と抵抗する営業役員に対して「そうだ」と言い切ったのは、A社長でした。というのは数年前のこと。A社で進めていたプロジェクトでこのような場面があったのです。

 A社でのプロジェクトの内容は一言で言えば、儲かる仕組みを作ることだったのですが、もう少し言えば、部門改革的な要素がありました。というのもこのA社の業務は抜本的に見直しが必要だったのです。A社は伝統的に営業が強く、技術部門ではその対応をするのが普通になっていました。顧客が「こうしてくれ」、「ああしてくれ」というのを、営業は技術部門に伝えるというわけです。

 そのため、技術者が技術サポートのような仕事にも使い尽くされるという状態が続いていました。営業部門は売るために改善をしてほしい。技術部門はその対応で忙しい。ただ、忙しいのにA社は全体として低収益で儲かっていませんでした。しかし、忙しいのに儲からないというのは珍しいことではありません。

 と、ここまではよくある構図だったのです。A社が違っていたのはここからです。すでにA社では、忙しいのに儲からない状態を脱しようとしていたのです。

 

2、A社が違っていたところ

 つまり、技術部門が技術戦略の策定を行うことによって、投資対効果の高そうな技術開発を推進していました。そのため、優先したい案件があり「営業部門が要望するような小改善案件には対応が困難」になりつつありました(技術担当役員)。

 しかしそれで困るのは営業部門でした。特に件の営業担当役員です。「それでは当面の売り上げが立たないではないか」などと言われていました。営業担当役員は、細面(ほそおもて)でありながら、部下の面倒見は良く、部下からの信頼は厚くてとても信用できる方でした。

 しかし「顧客を代表する営業の意見」が通らないことにはストレスを感じていたようです。また、仕事の責任感も強い方ですから、成果が上がりそうにない状況を消化できなかったのだろうと思います。

 ところで私のコンサルティングでは、まず技術部門で技術戦略を策定・推進します。こうすると、どのクライアントでもジレンマに直面します。ジレンマとは、従来通りの業務を優先するか新業務を優先するか、です。

 A社でも同じでした。目先の売り上げは上がるが低収益を招いた従来業務か、高収益になる可能性があるがリスクがある新業務か、のジレンマがありました。どちらかを選ばなければならなかったのです。言うまでもないことですが、目先の売上追求の先に長期成果はありません。一方、長期成果を目指してコツコツ続けるというのは、誰にでもできることではありません。

 

3、ジレンマの克服に必要なこと

 A社では、そのジレンマが技術部門と営業部門がせめぎ合うことによって出たというわけです。その舞台は、会社横断的な会議の場でした。会議の場で、営業部門からの要望が発表されたのに対して、技術系の役員がこう言いました。

 「こういう案件を持ってくるのは良いんだけどさ、技術部としては技術戦略を立ててやろうとしているので、今まで通りには出来ないですよ」。

 技術部門の反応はやや辛辣(しんらつ)でした。営業担当役員はそれまでの経緯を知っていますから、面食らった表情こそしませんでしたが、なお腹落ちはしてはいなかったようです。若い社員の前でもありましたから、頑張っているところを見せたかったのかもしれません。苦い表情をしていました。

 技術部門としては「何を今更言うのだ?」という反応でした。コンサルタントの私でもそうでした。そして営業担当役員が抵抗します。「会社として、本当にそうすべきなのですか」と。

 おそらく営業役員がこれを言った時、本気で言っていただろうと思います。本気というのは、会社の現行制度を変えたくないという気持ちだったろうと思います。

 悪い意味ではありません、どんな人にも「営業はこうするもの」、「仕事とはこういうもの」という思いはあるからです。営業役員には、今のままの仕事が「続けられるのでは」という期待もあったのだろうと思います。

 

4、社長の対応は

 一方で、A社長がどんな気持ちだったかを説明しましょう。A社長は60代の男性経営者です。オーナー経営者として「鶴の一声」が出せれば良いのですが、そうではありませんでした。A社長はサラリーマン経営者だったのです。

 しかも、A社長は営業役員の前任者。つまり、前営業役員だったのです。そのため、現・営業役員の言ったことを否定するのは、自己否定にも繋がる状況だったのです。そういう意味ではA社長にも苦渋の決断だったと思います。

 A社長の「そうだ」という発言は短いものでしたが、その表情には迫力がにじみ出ていました。サラリーマン経営者であったとしても、過去の自分を否定してでも、言わなければならないという自覚があったように思います。

 そしてその発言は技術部門には間違いなく安堵(あんど)を与えるものでした。一方で、営業役員には理不尽に映ったでしょう。理不尽を後任者に押し付ける、そういう意味に取られたとしても、A社長は自らの意思を明確にしなければならない場だと判断されたのだと思います。A社長は、腹を括ったようにもみえました。

 A社長は、言いはしませんでしたが「理不尽だと思うのならば思うが良い。それでも、やる時はやらなければならないのだ」そう言っているように、私には感じられました。

 

5、その後のA社

 営業役員とA社長はその後、会議室で議論をしましたが、結局、営業役員は会議の終わりまでA社長と目を合わせることがなかったと記憶しています。

 A社長が事なかれ主義の先送り主義なら、こうした決定はしていないでしょう。サラリーマンの任期を全うすればよく、自己否定しなくてもいいし、後任者に嫌われなくても済むからです。

 しかし敢えてA社長は嫌われる決断をしました。このコラムでは、ジレンマという表現をしました。ジレンマとは、あちらを立てればこちらが立たないという意味です。A社長はまさにそうした選択をしました。

 A社がその後どうなったかといえば、私が関わった一連の改革で「これまでにない情報が入っている」、「社員の検討レベルが上っ...

経営者

 

◆ 高収益経営者はそのジレンマを克服する

1、社内の抵抗にどう対処するか

 「会社として、本当にそうすべきなのですか」と抵抗する営業役員に対して「そうだ」と言い切ったのは、A社長でした。というのは数年前のこと。A社で進めていたプロジェクトでこのような場面があったのです。

 A社でのプロジェクトの内容は一言で言えば、儲かる仕組みを作ることだったのですが、もう少し言えば、部門改革的な要素がありました。というのもこのA社の業務は抜本的に見直しが必要だったのです。A社は伝統的に営業が強く、技術部門ではその対応をするのが普通になっていました。顧客が「こうしてくれ」、「ああしてくれ」というのを、営業は技術部門に伝えるというわけです。

 そのため、技術者が技術サポートのような仕事にも使い尽くされるという状態が続いていました。営業部門は売るために改善をしてほしい。技術部門はその対応で忙しい。ただ、忙しいのにA社は全体として低収益で儲かっていませんでした。しかし、忙しいのに儲からないというのは珍しいことではありません。

 と、ここまではよくある構図だったのです。A社が違っていたのはここからです。すでにA社では、忙しいのに儲からない状態を脱しようとしていたのです。

 

2、A社が違っていたところ

 つまり、技術部門が技術戦略の策定を行うことによって、投資対効果の高そうな技術開発を推進していました。そのため、優先したい案件があり「営業部門が要望するような小改善案件には対応が困難」になりつつありました(技術担当役員)。

 しかしそれで困るのは営業部門でした。特に件の営業担当役員です。「それでは当面の売り上げが立たないではないか」などと言われていました。営業担当役員は、細面(ほそおもて)でありながら、部下の面倒見は良く、部下からの信頼は厚くてとても信用できる方でした。

 しかし「顧客を代表する営業の意見」が通らないことにはストレスを感じていたようです。また、仕事の責任感も強い方ですから、成果が上がりそうにない状況を消化できなかったのだろうと思います。

 ところで私のコンサルティングでは、まず技術部門で技術戦略を策定・推進します。こうすると、どのクライアントでもジレンマに直面します。ジレンマとは、従来通りの業務を優先するか新業務を優先するか、です。

 A社でも同じでした。目先の売り上げは上がるが低収益を招いた従来業務か、高収益になる可能性があるがリスクがある新業務か、のジレンマがありました。どちらかを選ばなければならなかったのです。言うまでもないことですが、目先の売上追求の先に長期成果はありません。一方、長期成果を目指してコツコツ続けるというのは、誰にでもできることではありません。

 

3、ジレンマの克服に必要なこと

 A社では、そのジレンマが技術部門と営業部門がせめぎ合うことによって出たというわけです。その舞台は、会社横断的な会議の場でした。会議の場で、営業部門からの要望が発表されたのに対して、技術系の役員がこう言いました。

 「こういう案件を持ってくるのは良いんだけどさ、技術部としては技術戦略を立ててやろうとしているので、今まで通りには出来ないですよ」。

 技術部門の反応はやや辛辣(しんらつ)でした。営業担当役員はそれまでの経緯を知っていますから、面食らった表情こそしませんでしたが、なお腹落ちはしてはいなかったようです。若い社員の前でもありましたから、頑張っているところを見せたかったのかもしれません。苦い表情をしていました。

 技術部門としては「何を今更言うのだ?」という反応でした。コンサルタントの私でもそうでした。そして営業担当役員が抵抗します。「会社として、本当にそうすべきなのですか」と。

 おそらく営業役員がこれを言った時、本気で言っていただろうと思います。本気というのは、会社の現行制度を変えたくないという気持ちだったろうと思います。

 悪い意味ではありません、どんな人にも「営業はこうするもの」、「仕事とはこういうもの」という思いはあるからです。営業役員には、今のままの仕事が「続けられるのでは」という期待もあったのだろうと思います。

 

4、社長の対応は

 一方で、A社長がどんな気持ちだったかを説明しましょう。A社長は60代の男性経営者です。オーナー経営者として「鶴の一声」が出せれば良いのですが、そうではありませんでした。A社長はサラリーマン経営者だったのです。

 しかも、A社長は営業役員の前任者。つまり、前営業役員だったのです。そのため、現・営業役員の言ったことを否定するのは、自己否定にも繋がる状況だったのです。そういう意味ではA社長にも苦渋の決断だったと思います。

 A社長の「そうだ」という発言は短いものでしたが、その表情には迫力がにじみ出ていました。サラリーマン経営者であったとしても、過去の自分を否定してでも、言わなければならないという自覚があったように思います。

 そしてその発言は技術部門には間違いなく安堵(あんど)を与えるものでした。一方で、営業役員には理不尽に映ったでしょう。理不尽を後任者に押し付ける、そういう意味に取られたとしても、A社長は自らの意思を明確にしなければならない場だと判断されたのだと思います。A社長は、腹を括ったようにもみえました。

 A社長は、言いはしませんでしたが「理不尽だと思うのならば思うが良い。それでも、やる時はやらなければならないのだ」そう言っているように、私には感じられました。

 

5、その後のA社

 営業役員とA社長はその後、会議室で議論をしましたが、結局、営業役員は会議の終わりまでA社長と目を合わせることがなかったと記憶しています。

 A社長が事なかれ主義の先送り主義なら、こうした決定はしていないでしょう。サラリーマンの任期を全うすればよく、自己否定しなくてもいいし、後任者に嫌われなくても済むからです。

 しかし敢えてA社長は嫌われる決断をしました。このコラムでは、ジレンマという表現をしました。ジレンマとは、あちらを立てればこちらが立たないという意味です。A社長はまさにそうした選択をしました。

 A社がその後どうなったかといえば、私が関わった一連の改革で「これまでにない情報が入っている」、「社員の検討レベルが上ってきた」とA社長は言われていました。営業には有用情報(非公知の潜在課題)が入るようになったそうです。そしてその情報を利用した技術開発の仕組みにより高収益を実現しています。

 A社長の決断の結果、営業役員が感じたような痛みを感じた時期があっただろうと思います。しかしその結果として「会社のレベルは格段に上がった」ということでした。成果を重視するコンサルタントとしては安堵しましたが、一方でA社長の決断や営業担当役員の心情には思いを致さざるを得ませんでした。

 「営業担当役員に悪意があったわけではないことは分かっている。それでも、決めるべき時に決めなければならない。悪意がない相手に嫌われることを嫌がっていては、経営者は務まらない。ここで決めないで誰が決めるのだ」。

 A社長の胸の内はそうした葛藤があったかも知れません。そうした場面に直面した時に、経営者としての特質が出るなと私は思いました。

 さてあなたが高収益を実現する経営者になるのであれば、道のりはこうしたジレンマの連続だと言っていいでしょう。そして決断には葛藤があるでしょう。高収益という目標を前に、決断をするかはあなた次第です。

 こういう状況になった時、A社長のような決断ができるように、あなたは自分を磨いていますか?高収益にする経営者になるのは、次はあなたの番です。

 

 【出典】株式会社 如水 HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

 

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この記事の著者

中村 大介

若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。

若手研究者の「教育」、研究開発テーマ創出の「実践」、「開発マネジメント法の導入」の3本立てを同時に実践する社内研修で、ものづくり企業を支援しています。


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