◆水素エネルギー社会 連載目次
- 1. 燃料電池自動車開発
- 2. 船舶の次世代エネルギー源
- 3. 燃料電池自動車開発競争
- 4. 東レ ~ FCV用CF増産、航空機からシフト
- 5. 炭素繊維の地域ごとにおける消費用途の差
- 6. 水素協議会
- 7. JR東日本、水素燃料車両の開発・試験
- 8. ドイツの燃料電池鉄道車両とは
- 9. 低炭素社会とは
- 10. 水素の安全性 1
- 11. 水素の安全性 2
- 12. 水素社会への潮流
日本のこれからの低炭素社会を考えますと、次のように優位性を生かす分野と先人の知恵に学ぶ分野がみえてきます。
- 水素エネルギーの実生活への展開(スマートシティでの試行や実験)
- 欧州並みの風力発電
- 比較的高位置のFCVの推進
- 自動車以外の移動体(船、鉄道、そして空飛ぶクルマ)の水素化
- 火力から水素発電への転換
- これらの要素材料となる炭素繊維やCFRPの活用拡大
1. 低炭素発電
太陽光発電は専門外なため、風力発電に絞り低炭素(脱炭素かもしれません)発電のお話をします。
洋上発電に関しては、秋田沖などで具体的な動きがあります。欧州での炭素繊維の最大の応用先は、このプロペラにあります。この羽根の大きさは50m以上はあると思われる大型なものなので、自重変形抑止も含めて、軽量で強いCFRP(炭素繊維強化プラスチック)に分があるようです。
炭素繊維に求められる特性も、航空機用途とは異なるものなのでしょう。いずれにしろ、日本での活用拡大を期待するところです。日本の商社は既に欧州で10年以上、洋上発電ビジネスに取り組んでおり、秋田沖など日本の動きに呼応したアクションも始めています。
しかし2019年日立製作所が撤退したことで、日本企業としての洋上発電機器メーカーはなくなりました(三菱重工は業界トップのデンマークのヴェスタス社との合弁会社を運営しています)。
洋上発電機器は、サイズ感と市場規模(数量)を考えると、新規での参入や復活は難しいようです。先行しているヴェスタス、シーメンス・ガメサ、GE、ゴールドウインドなど、欧米中の製品を日本の商社が輸入するというビジネスとなりそうです。もっとも、発電機だけがビジネスではなく、洋上建設から配電設備等々、かなりのすそ野が期待できるところです。
風力発電は発電安定性に難点があるところですが、余剰発電をバッファ的に貯蔵するという視点で、水の電気分解により水素エネルギーを製造することはあり得るのでしょうか?ここも電気自動車か水素燃料自動車かのバトルと同様に、トータルのコストメリットでの判断となります。
2. 水素バリューチェーン協議会
低炭素発電に続いて、水素の利用促進に関する動きをレポートします。
2020年10月14日、トヨタ自動車などの参画各社と三井住友ファイナンシャルグループ、岩谷産業などから、水素の利用促進を目的とした「水素バリューチェーン協議会」を設立するための準備委員会を立ち上げるとニュースリリースがされました。リリース下部には、トヨタ自動車におけるSDGsへの取り組みが説明され、トヨタのSDGs活動の一貫ともなっていることを印象付けています。
水素バリューチェーン協議会参画9社は、岩谷産業、ENEOS、川崎重工業、関西電力、神戸製鋼所、東芝、トヨタ自動車、三井住友フィナンシャルグループ、三井物産で、まさにこれから利用を促進したい、設備・機器メーカー、重電・重工業、エネルギー関連企業、電力会社で各業界から最も熱心な企業代表が参加しているような含蓄のあるメンバー構成です。
また、企業間の関係も透けてみえます。イワタニとトヨタは、FCVミライの車両開発から、将来のインフラ整備普及も想定して、かなり深い関係にあります。トヨタのFCV・燃料電池開発拠点建屋ビルの目の前には、巨大な水素貯蔵タンクがあり、しばしばイワタニの水素タンクローリーが来ています。この水素ステーションは、豊田中央研究所の幹線道路に面している一角で、運営はイワタニです。トヨタは三井グループを構成する一社でもあります。そんな関係で、三井系の参画も当然のところです。
さて、そんな関係もあるのでしょうか、少し異色なメンバーは三井住友フィナンシャルグループです。今後のESG投資[1]、あるいは有望な融資先市場と考え...
水素利用促進としては、それこそ新エネルギーの研究推進機関のNEDO(国立研究開発法人 新エネルギー・産業技術総合開発機構)が水素利用等先導研究開発事業として長期に取り組んでいます。
事業期間は2014年から2022年までの9年間に及びます。水素の製造からその貯蔵や輸送、実際の活用までのありとあらゆることがテーマとなっています。高圧水素容器関連を継続的にウォッチングしている立場からは、超高圧水素インフラ本格普及技術研究開発事業に着目しています。水素ステーションの普及推進や国際標準適合などが検討内容となっています。
次回は、水素エネルギー社会(その10) 水素の安全性を解説します。
【出典】技術オフィスTech-T HPより、筆者のご承諾により編集して掲載
[1]:ESG投資、Environment(環境)、Social(社会)、Governance(ガバナンス=企業統治)の3つの観点から企業を分析・評価し、投資すること。