【SDGs取組み事例】事業性質にとらわれず、“SDGsに貢献可能なものは何か”を皆で考える エスティーティー株式会社(神奈川県秦野市)

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【目次】

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    1. 従業員の意識改革や職場環境の整備などに取り組む

    エスティーティー株式会社(菅澤 敬文 代表取締役社長)の創業は1989(平成元)年。特殊潤滑剤の「SOLVEST(ゾルベスト)」(塗料タイプの潤滑剤、グリースなど)の開発、製造販売をしている企業です。主に自動車産業向けに特殊潤滑剤の販売や部品表面への潤滑剤塗装加工(表面処理)を行い、社名の由来でもある「Surface Treatment Technology(表面処理加工技術)」のプロフェッショナルとして国内はじめ、米国や中国など海外6カ国(7拠点)で製造業界の課題解決に取り組んでいます。
    同社のSDGs(持続可能な開発目標)開始時期は2022(令和4)年4月と日は浅いですが、2003(平成15)年12月にはISO14001を取得。従業員の意識改革や職場環境の整備、生産性向上に向けた取り組みを進めます。

    エスティーティー株式会社本社

    写真説明】エスティーティー株式会社本社(同社提供)

     

    2.リサイクル装置設け、有機溶剤のリサイクルを開始

    昨今、世界各国の自動車でCO2排出量削減に向けた取り組みが進む中、同社では潤滑剤などを充填したペール缶(鋼製缶)やドラム缶の反復利用(通い容器)について、顧客と廃棄容器削減に向けた企画・検討を進める一方、廃棄用ペール缶を“ペール缶椅子”として有効活用するためのリサイクルフローを設けています。
    また、事業の性質上、加工に使われる治具の洗浄や潤滑剤の製造に有機溶剤を使用するため、仕入れ先と反復容器の利用を進めるほか、一昨年まで廃棄物処理業者に依頼していた使用済み有機溶剤について、工場にリサイクル装置を導入、利用を開始しています。さらに、廃棄溶液はローリー車に回収を依頼するといった取組みも進められ、年間約50本のケミドラム[1]の削減にも成功。これにより、有機溶剤の購入量や廃棄量の減少に加え、昨年度はCO2換算で3,214キログラム(自社数値)の有機溶剤が削減されています。
    このほか、同社の主要取引先は自動車部品メーカーが大半を占めることから、低VOC[2](揮発性有機化合物)化や部品の長寿命化ほか、燃費向上、CO2削減などに繋がる自社製品(潤滑剤)の開発、販売促進にも努めています。
    例えばブレーキでは、摩耗の低減を目的に固体潤滑剤を塗装することで、部品の長寿命化と生産数削減が図れるため、長期的視点で捉えるとCO2削減に繋(つな)がります。一方、モーター用部品では滑りを良くする塗装を施すことで摩擦抵抗を抑え、電気やハイブリッド車の燃費(電気消費)向上にも貢献。「目まぐるしく変化する自動車業界において、製品の用途により使い分け可能な潤滑剤の果たす役割と需要は大きくなってきている」とみています。

    同社の検査部門のようす

    写真説明】同社検査部門(同社提供)

     

    3.塗装前処理工程を全自動化

    製品開発面では、自動車の低燃費化を目的とした車両軽量化に伴い、樹脂製品の扱いが増えていることから、低温もしくは熱を加えずに塗装可能な潤滑剤の開発に力を入れています。また、環境負荷物質の低減や海外製原材料の高騰対策として、小さい面積でも塗装可能な高機能スプレーガンを導入。今年度から工程開発部門で使用が始まり、これにより潤滑剤使用量と廃棄量の削減に繋げています。
    このほか、EU(欧州連合)のRoHS指令[3]やREACH規制[4]遵守をはじめ、近年は有機フッ素化合物群に対する規制も厳しくなっていることから、代替材料を使った潤滑剤の開発や提案を進めています。
    一方、製造現場では作業の標準化や生産性向上を目的に塗装の前処理工程の全自動化を実施。これまでは、前処理に特化した技術・知識を持っていないと工程管理できないといった課題がありましたが、薬剤投与のタイミングや使用量、温度管理などを自動化することで、ベテラン従業員以外でも高水準の品質を保持することに成功しています。結果、時間のロスや薬剤削減のほか、不良品・怪我(けが)の低減、残業時間の大幅な削減(作業時間の効率化)など大きな改善につながり、さらに従業員の健康保持や定着率の向上にも寄与することが期待されています。

    作業の標準化や生産性向上を目的に下処理(表面処理)工程の全自動化を実施

    写真説明】作業の標準化や生産性向上を目的に下処理(表面処理)工程の全自動化を実施(同社提供)

     

    4.キャリアアップを制度化、非正規雇用者の処遇も改善

    企業が持続的な活動を行うためにも必要とされる職場環境整備や人材育成面では、体に負担のかかる製造現場もあることから、定年退職年齢は60歳としつつ、健康上問題なく意欲のある従業員については定年後再雇用の契約を結んでいます。現在も60歳以上の従業員3人が従事しており、同社も「元気のある人はどんどん働いてほしいという風潮になってきている」と話します。
    キャリアアップについては従来から、アルバイトや契約社員に対し雇用形態をステップアップさせる取り組みを進めていましたが、所属上長(責任者)の裁量に頼る部分も大きかったため、2020(令和2)年にこの仕組みを制度化しています。出勤率や技術・知識の取得状況、改善提案数など全社間で共通の目標を立ててもらい、半年間ほどの勤務状況などからキャリアアップの可否を客観的に判断するもので、実力のある従業員からの申し出も増えてきたといいます。同制度の実績は2020年度が正社員1人、契約社員2人を、2021年度は正社員1人のほか、3人の契約社員を登用しています。

     


    一方、外国人雇用では2019(同元)年にマレーシア工科大学からインターン1人を受け入れ、卒業後に雇用。同大からはさらに4人が就職し、製品開発職や生産技術職で男女5人が日本人と同条件で就業しています。また、パートタイマーやアルバイト従業員に対しても、雇用形態に関わらず、同一労働・同一賃金化導入による平等化を実施し、資格・食事手当の支給をはじめ、就業開始3ケ月からの年次有給休暇の付与など、同従業員らからの声を拾いあげ、正社員との相違をなくす取り組みが進められています。

     

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    5.海外法人から従業員を受け入れ、人材育成を実施

    社内教育面では、業務に必要な知識や就業の意欲向上を目指し、今年度からメーカーと連携した技術研修会を実施。設備・原料メーカーから講師を招き講習会を開いています。既に2回行われていますが、規則の洗い直しや専門知識など学ぶことで意欲向上が図れる上、モチベーションアップも期待され、その効果も徐々に見え始めているそうです。また、ことし4月からは海外拠点の従業員に対しても本社教育研修を行うことが決まっています。これまで、国内対象で開かれていた改善提案発表会における対象地域を海外拠点にまで拡大。奨励賞を受賞した従業員を本社に招き、高い技術力や知識を取得してもらうことを目的に始められた取組みですが、海外拠点の底上げを図るといった狙いもあります。今年は中国とフィリピンから2人の来日が予定されています。
    このほか、社会貢献面では2018(平成30)年から神奈川県立秦野養護学校の生徒を対象に職場体験を実施しています。体験を通して事業への理解や職場の雰囲気に慣れてもらい、継続的な雇用に繋げることを目的としたもので、総務部門が中心となりサポートが進められています。これまで3人の受け入れが行われ、4月から1人が就業する予定です。

    技術研修会㊧と技術開発に取り組むマレーシア工科大からの従業員

    写真説明】技術研修会㊧と技術開発に取り組むマレーシア工科大からの従業員ら(同社提供)

    人事評価制度においては、日本人以外に外国人向け制度を設け、公平な環境下で働くことができる風土づくりを進めています。また、女性従業員の採用も積極的に行われ、2019年12人だった就業人数も2023年(3月現在)には22人にまで増えています。例えば、管理部門では9人中、7人の女性が現在勤務しているほか、女性の登用が進まなかった製品開発職や生産技術職でもここ5年で延べ5人が従事してきました。さらに、管理職(部長職)の下に当たる「室長」に2人を登用するなど、同社事業の推進役に女性が活躍する機会が増えてきています。

     

    6.寄付から考える持続可能な取り組み

    「有機化合物を取り扱うといった事業の性質上、環境保護など、どうしても貢献が難しい分野が出てくる」と話す同社ですが昨年度、SDGs目標を掲げるにあたり、植林や貧困、医療活動団体などに寄付金で貢献することを決めています。内容は「改善提案件数に応じて、1件当たり500円を寄付する」という、“従業員のSDGsに対する意識向上策と社内改善”を結び付けたものです。このアイデアが功を奏し、提案数も昨年度の1,683件に対し、今年度は1,853件と10%以上向上。業務上の様々なロスやCO2の削減といった改善案以外に、時間短縮に繋がる業務効率化の提案なども寄せられるようになり、同社も「改善提案の視野が広がるとともに、自分たちが貢献できない分野にも繋がっているといった意識の変化が、提案件数に表れてきている」とみています。2021年度、これら寄付金は森林保護活動に力を入れる秦野市に50万円、国境なき医師団に30万円がそれぞれ寄付され、同社も「時勢をみながら、継続的に進めていきたい」としています。
    また、2030年に向け「モノを作り、企業として発展を続ける以上、ハードルも高いが、地球の中の一員として、無視できない課題。自社製品で“SDGsに貢献可能なものは何か”を従業員が皆で考え、学び、顧客への理解も深めながら活動を進めていきたい」と話してくれました。


    記事:産業革新研究所 編集部 深澤茂

    記事中解説
    [1]ケミドラム:耐薬品性の高いポリエチレン製容器が内装され、同容器の外側を鋼製ドラムで保護した容器。
    [2]低VOC: 従来の塗装仕様と比較して、塗装の際に発生し、大気中の光化学反応から大気汚染の発生原因とみられるVOC(揮発性有機化合物)量が低い製品。
    [3]RoHS指令:「Restriction of Hazardous Substances」の頭文字を取ったもの。人や環境に影響を与えないように、EU(欧州連合)で販売する電気・電子機器における特定有害化学物質の使用制限に関する指令。
    [4]REACH規制:EUが定めた化学物質規制。「Registration(登録)」、「Evaluation(評価)」、「Authorization and Restriction(許可と制限)」、 「Chemicals」(化学物質)の略。「人の健康と環境の保護」、「化学物質のEU域内の自由な流通」、「EU化学産業の競争力の維持向上と革新の強化」などが目的。


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