作業姿勢を見直そう 作業環境:5S、ムダ(その6)

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生産マネジメント

 

 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「作業環境:5S、ムダ」をテーマに連載で解説します。固定観念を打ち崩しながら現場改善に留(とど)まらず、経営革新まで範囲を広げて、改善とは何か、革新とは何かを、目からウロコ的に連載しておりますが、今回はその第6回目となります。

 

◆ 適正な作業姿勢で生産性は大きく変わる

1. 姿勢は作業安全や品質にも影響

 作業改善をする時に、作業時間や移動時間の観察には時計という素晴らしい測定器具があり、誰でも簡単に正確に測定できます。そして作業時間や移動時間を短くする改善に取り組むことができます。この時によく見落とされるのが、人間工学とかエルゴノミー[1]とも呼ばれる作業姿勢の問題ですが、残念ながらこの問題に対する測定器はありません。

 これに気づいたのは、U字ラインで電子部品の組立作業の改善を行っていた時です。16点の部品組み立て作業に40秒掛かっていたのですが、5点の小さな部品がわずか6センチ低い場所でそれらの部品が配列してあったため、オペレーターに尋ねところ「少し低いと思っていたが気にはしていなかった」という答えが返ってきました。

 そこで「では、6センチほどかさ上げしてみてどうなるか試してみましょう」と、すぐにかさ上げに取り掛かりました。するとサイクルタイムが37秒に短縮され、さらにばらつきもなくなったのです。オペレーターに結果を説明したところ「作業が非常にやりやすくなり、リズムも楽に取れるようになった」というのです。わずかのことですが、3秒(8%)も短縮できたのです。

 

 最初はなぜこれだけのことで時間短縮ができたか理解できなかったのですが、低い場所になると少しですが前かがみになることで姿勢が悪くなり、辛(つら)い作業になっていたのです。オペレーターは潜在的にこの作業はいやだと感じていましたので、それまでの作業スピードがこの工程でガクンと落ちたことが分かりました。わずか6センチの段差の障害がなくなったことで、次の作業への移動が楽になり、時間短縮ができたのです。また、工程から工程の移動は並行にすればよいことが分かりました。立ち作業で部品を落下させた時にそれを拾おうと、しゃがんでそれを取って再び次の作業に移ろうとした時の時間は、なんと3秒以上も掛かるのです。そのしゃがむ行為がいかに辛いかが分かります。

 また、180度の振り向き作業は約0.8秒ですが、再度振り向きますので合計では1.6秒もかかります。頭を振ることで疲れるのはなんと目なのです。振り向きざまに視線を作業する部品に焦点を合わせなければならないので、目の筋肉が疲れるのです。そのために作業ミスが連発していた事例を何度も経験しました。これが分かってからは振り向き作業をなくし、部品は前から、できない時には横から取るようにレイアウトや梱包方法を変更することで、オペレーターへの負担を軽減していきました。

 

 また、毎回重いものを持ち上げる重筋作業も避けるべきことです。12キロ程度までしか持たないような作業方法を考えていくことが必要になります。疲れるから安全や品質への注意力がなくなるのです。毎日やっている作業はどうしてもマンネリ化して気づかなくなります。今一度、作業姿勢に注力して見直しましょう。

 

2. 姿勢を数値化して評価してみよう

 作業姿勢の改善に用いたのは作業を数値化する方法です。大雑把(おおざっぱ)に作業を4つに区分して、3点満点は手首の動く範囲で作業ができる、2点はひじの動く範囲、1点は肩の動く範囲、0点は頭が移動してしまう範囲としました。振り向きは0点です。3点は満点で、いわばあるべき姿です。2点以下は改善の余地があることを示します。

 各工程で部品ごとに評価をして、3点満点×部品点数もしくは工程数を分母とします。評価した点を合計し、分子にして割るのです。例えば8工程(3×8=24)のうち、手首の3点が1ヶ所、ひじの2点が1カ所、肩の1点が4カ所、頭の0点が2カ所であれば、合計3×1+2×1+1×4+0×2=9になります。9÷24=37.5(%)となります。

 同様に次の工程に部品を移動する時「その段差が小さい:3点」、「やや小さい:2点」、「やや大きい:1点」、「大きい:0点」の4段階に区分して評価をします。4段階に区分することが重要です。5段階だと、どちらともしない3点にしてしまい、考えようとしなくなるのです。また当たり前ですが、人間の手を動かして一番楽なのは、ひじの高さで左右に並行に振ることです。それが肩の高さを超えたり、腰より低くなったりすると辛くなりますので、部品や治工具はその範囲に持っていくよう心掛けましょう。

 

 一応の目安ですが、何も配慮していなければ20%以下の数値になります。改善をしていけば、50%から80%にもなり、時間短縮の結果も出てきます。しかも楽な作業になってきます。また歩行距離が測定しにくい場合は、歩いた歩数で簡単に評価できます。1歩は約80センチで0.8秒程度になります。面倒なら1秒にしても構いません。このように数値化することで、今まで気にしていなかった動作の部分が見えるようになり、改善が簡単にできるようになります。その時の合言葉は、“ベストポイント化”です。一方的にならないように、オペレーターと双方向で合意を取りながら改善を行うようにしましょう。

 

3. 作業が楽になると大きな効果が出せる

 体のトレーニングで、ひざを曲げてしゃがみ込むスクワット体操があります。これを毎日やっている有名女優は、90歳でも舞台に立っておられましたが、トレーニングの力は絶大です。でもこのような姿勢で作業したら、とても辛くてまるで拷問です。これらの作業を見つけて改善し、安全で楽な姿勢で、毎日の作業ができる環境にしていけばよいのです。これができると自然に品質と生産性が向上してきます。 

 

 まずは、よく使う部品や治工具からベストポイントに持ってきます。部品が多ければ小分けにして配置します。イメージとして扇子(せんす)の...

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 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「作業環境:5S、ムダ」をテーマに連載で解説します。固定観念を打ち崩しながら現場改善に留(とど)まらず、経営革新まで範囲を広げて、改善とは何か、革新とは何かを、目からウロコ的に連載しておりますが、今回はその第6回目となります。

 

◆ 適正な作業姿勢で生産性は大きく変わる

1. 姿勢は作業安全や品質にも影響

 作業改善をする時に、作業時間や移動時間の観察には時計という素晴らしい測定器具があり、誰でも簡単に正確に測定できます。そして作業時間や移動時間を短くする改善に取り組むことができます。この時によく見落とされるのが、人間工学とかエルゴノミー[1]とも呼ばれる作業姿勢の問題ですが、残念ながらこの問題に対する測定器はありません。

 これに気づいたのは、U字ラインで電子部品の組立作業の改善を行っていた時です。16点の部品組み立て作業に40秒掛かっていたのですが、5点の小さな部品がわずか6センチ低い場所でそれらの部品が配列してあったため、オペレーターに尋ねところ「少し低いと思っていたが気にはしていなかった」という答えが返ってきました。

 そこで「では、6センチほどかさ上げしてみてどうなるか試してみましょう」と、すぐにかさ上げに取り掛かりました。するとサイクルタイムが37秒に短縮され、さらにばらつきもなくなったのです。オペレーターに結果を説明したところ「作業が非常にやりやすくなり、リズムも楽に取れるようになった」というのです。わずかのことですが、3秒(8%)も短縮できたのです。

 

 最初はなぜこれだけのことで時間短縮ができたか理解できなかったのですが、低い場所になると少しですが前かがみになることで姿勢が悪くなり、辛(つら)い作業になっていたのです。オペレーターは潜在的にこの作業はいやだと感じていましたので、それまでの作業スピードがこの工程でガクンと落ちたことが分かりました。わずか6センチの段差の障害がなくなったことで、次の作業への移動が楽になり、時間短縮ができたのです。また、工程から工程の移動は並行にすればよいことが分かりました。立ち作業で部品を落下させた時にそれを拾おうと、しゃがんでそれを取って再び次の作業に移ろうとした時の時間は、なんと3秒以上も掛かるのです。そのしゃがむ行為がいかに辛いかが分かります。

 また、180度の振り向き作業は約0.8秒ですが、再度振り向きますので合計では1.6秒もかかります。頭を振ることで疲れるのはなんと目なのです。振り向きざまに視線を作業する部品に焦点を合わせなければならないので、目の筋肉が疲れるのです。そのために作業ミスが連発していた事例を何度も経験しました。これが分かってからは振り向き作業をなくし、部品は前から、できない時には横から取るようにレイアウトや梱包方法を変更することで、オペレーターへの負担を軽減していきました。

 

 また、毎回重いものを持ち上げる重筋作業も避けるべきことです。12キロ程度までしか持たないような作業方法を考えていくことが必要になります。疲れるから安全や品質への注意力がなくなるのです。毎日やっている作業はどうしてもマンネリ化して気づかなくなります。今一度、作業姿勢に注力して見直しましょう。

 

2. 姿勢を数値化して評価してみよう

 作業姿勢の改善に用いたのは作業を数値化する方法です。大雑把(おおざっぱ)に作業を4つに区分して、3点満点は手首の動く範囲で作業ができる、2点はひじの動く範囲、1点は肩の動く範囲、0点は頭が移動してしまう範囲としました。振り向きは0点です。3点は満点で、いわばあるべき姿です。2点以下は改善の余地があることを示します。

 各工程で部品ごとに評価をして、3点満点×部品点数もしくは工程数を分母とします。評価した点を合計し、分子にして割るのです。例えば8工程(3×8=24)のうち、手首の3点が1ヶ所、ひじの2点が1カ所、肩の1点が4カ所、頭の0点が2カ所であれば、合計3×1+2×1+1×4+0×2=9になります。9÷24=37.5(%)となります。

 同様に次の工程に部品を移動する時「その段差が小さい:3点」、「やや小さい:2点」、「やや大きい:1点」、「大きい:0点」の4段階に区分して評価をします。4段階に区分することが重要です。5段階だと、どちらともしない3点にしてしまい、考えようとしなくなるのです。また当たり前ですが、人間の手を動かして一番楽なのは、ひじの高さで左右に並行に振ることです。それが肩の高さを超えたり、腰より低くなったりすると辛くなりますので、部品や治工具はその範囲に持っていくよう心掛けましょう。

 

 一応の目安ですが、何も配慮していなければ20%以下の数値になります。改善をしていけば、50%から80%にもなり、時間短縮の結果も出てきます。しかも楽な作業になってきます。また歩行距離が測定しにくい場合は、歩いた歩数で簡単に評価できます。1歩は約80センチで0.8秒程度になります。面倒なら1秒にしても構いません。このように数値化することで、今まで気にしていなかった動作の部分が見えるようになり、改善が簡単にできるようになります。その時の合言葉は、“ベストポイント化”です。一方的にならないように、オペレーターと双方向で合意を取りながら改善を行うようにしましょう。

 

3. 作業が楽になると大きな効果が出せる

 体のトレーニングで、ひざを曲げてしゃがみ込むスクワット体操があります。これを毎日やっている有名女優は、90歳でも舞台に立っておられましたが、トレーニングの力は絶大です。でもこのような姿勢で作業したら、とても辛くてまるで拷問です。これらの作業を見つけて改善し、安全で楽な姿勢で、毎日の作業ができる環境にしていけばよいのです。これができると自然に品質と生産性が向上してきます。 

 

 まずは、よく使う部品や治工具からベストポイントに持ってきます。部品が多ければ小分けにして配置します。イメージとして扇子(せんす)のように取り出すところだけを狭くして、投入は後ろから行うなど工夫することはいくらでもあります。座れば80センチしか届きませんが、立つと120センチまで手が楽な姿勢でも届きます。工程間の移動も高低の差がないように、作業台や設備の高さを調整していきます。

 作業の順番も流れるように順序立てることは、リズミカルな作業につながります。重いものはコロコンや台車を改造して、積み下ろしを簡単にしたり、落下防止柵などをつけたりすることで安全に移動できるようにします。また移動距離を短くするには、設備が簡単に移動できるようにキャスターを取り付けておくと、レイアウト変更時に便利です。1トン未満の設備や機械は、キャスターをつけてみましょう。考えたことをすぐに実行するとストレスは発生しません。これで心すっきり、体も楽となり、おのずと効果もドンドン出てきます。

 次回は、現場改善:「作業環境:5S、ムダ (その7) スーパーやコンビニのように整備」から解説を続けます。

 [1]エルゴノミーErgonomie:アーゴノミクスergonomics、人間の労働に関する科学的な研究。

 

 【出典】株式会社 SMC HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

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この記事の著者

松田 龍太郎

見えないコトを見えるようにする現場改善コンサルタント。ユーモアと笑顔をセットにして、元氣一杯に現地現物での指導を心がける。難しいことはわかりやすく、例え話や事例を用いながら解説し、納得してもらえるように楽しく動機付けを行います。

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