ムダをみるには、モノサシが必要 作業環境:5S、ムダ(その1)

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作業環境

 

 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「作業環境:5S、ムダ」をテーマに連載で解説します。固定観念を打ち崩しながら現場改善に留(とど)まらず、経営革新まで範囲を広げて、改善とは何か、革新とは何かを、目からウロコ的に連載しておりますが、今回はその第1回目となります。

◆ ムダをみるには、モノサシが必要

1、基準がないからムダが見えない

 毎日見ている腕時計の文字盤や紙幣、コインの模様などがどのようなデザインだったのかを思い出すことはできませんが、いずれも意識をして物を見ていないことによるものです。

 これと同様、毎日見ている工場内にある付加価値を生まないムダな作業の多さを、すぐに自分で指摘したり思い出したりすることもなかなかできないことです。コンサルティングで工場を訪問していると「どこにムダがあるのでしょうか?」と逆質問を受けることもありますが、裏を返せばまだ私たちコンサルタントの出番が待っているということでもあり、少し嬉(うれ)しくもなります。

 なぜ、誰でもすぐにムダが見えないかと言いますと、ムダを見る目が養われていないからだと思います。

 

 毎日見ているものは徐々に脳の意識が薄れてしまうようですが『慣れる』ということは、生産現場にとっては恐ろしいことで、問題意識が薄れていくと「エントロピーの法則」に従って全てのものは、でき上がった時点から崩壊への道を辿(たど)っていくのです。ここで何とか踏ん張っていくことが必要になりますが、ここが生き残りを懸けた活動ができる会社とできない会社の分かれ道になります。

 その対策として、多くの会社で行われているのが、5S活動+表示・標識や目で見る管理などによる改善活動です。これらはいずれもムダを顕在化させるための手段で、何らかの基準を作り、その基準に入っているかとか、はみ出ているかなどを見極め、素早く元の状態にアクションを起こすものです。現場が汚れていたり、物が溢(あふ)れて乱雑になっていたりしますと、どこが異常(異常な事態で、いつもと異なる)なのか、何が異常(異常な状態であり、定めたことと異なる)なのかチンプンカンプンになって、どうしたらよいか分からなくなり、何もアクションを取ることができなくなってしまいます。

 しかし白線や枠組みが施してあるだけでも、台車や仕掛品さらに治工具などがはみ出ていますと、すぐに問題が顕在化してきます。つまり、何らかの基準があればそれに照らし合わせることで、誰が見てもすぐにどうすればよいかまで分かります。言葉でいちいち説明しなくても、パッと!見れば、ピン!と来て、サッと!元に戻すような機敏な一連の動作がサラリとできるようにしたいものです。ムダも同様に何か基準があれば、簡単に誰でもすぐに発見することができます。

 

2、人の動きのモノサシは標準作業

 物を加工するためには加工図面が必要なのは当り前のことで、これがないことには加工、生産はおろか発注もできませんので、必ず必要項目を描いて製図します。同様に組み立てに関しても、組立図を作成します。ところが人・機械(設備)・物のなかで、自由自在に動くのは人だけですが、その人の作業のやり方については、加工図や組立図に沿って組み立てればよいという考えから、正しい作業順番や作業時間などについて細かく指示した物がないことがあります。

 その人の自由裁量にお任せして、何とかやりくりをすることをフレキシブル性があると勘違いしている会社もありました。結果として図面と同じものができればよし!といったものでは到底安定した高品質のものを作ることは難しいものです。逆に人の動きを見えるようにすることで改善ができ、より効率的に生産できることになります。それには標準作業というモノサシがあって初めて改善が着実にできるようになります。現場で好き勝手に作業をやっているところに継続的な改善はできません。

 

 標準作業には、次の3つの前提があります。

 1つ目は人の動作が中心で、ムダ・ムラ・ムリをなくして付加価値のある働きに変えていくもの。2つ目はあくまでも繰り返し作業に対して行うもので、タクトタイムでの繰り返しを基準にします。そして3つ目が、作成するのは現場自身であるというもので、監督者がやってみせて指導して守らせることになります。他部門で作ったもので「やれ!」といわれても、やる気が出ないのは当然です。

 

 現場の標準化を進めるにあたって、一般的にはまず標準書の作成から始めます。効率的な方法を見つけて、標準書は書面を使い、比較的容易に短時間で作成することが可能です。しかし、それを実際に維持し続けることは非常に難しいものです。標準化で最も大切なことは、その作業方法を継続的に維持できる仕組みを、現場で作ることができるかに懸かっています。そして、標準化と文書化は曖昧(あいまい)にしないためにも、必ずセットにして行います。「やらせ」ではなく、実施部門が自ら標準書を作成して、その改善も繰り返して自ら行う仕組みづくりにしていくことです。そのためにも、定期的にメンテを行う必要があります。そのメンテの期間は、最低3ケ月以内とします。

 また、間接部門や他の製造部門からの第三者の目で見るというオージットも定期的に行い、お互いに緊張感を持って観察することも大切です。その時には、問題点や改善案も必ず提示できるように、観察する方もお客様の視点で見るという観察の目を養っておくべきです。危機感を持って意識しながら観察しますと、今まで見えなかったムダが問題として感じられるようになり、相当数が発見できるようになってきます。

 

3、さらに進んでくる多品種小ロット化に対応するには

 今後はもっと多品種小ロット化が進んできますが、そうなると繰り返...

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 工場の経営者から現場の従業員の方を対象として「作業環境:5S、ムダ」をテーマに連載で解説します。固定観念を打ち崩しながら現場改善に留(とど)まらず、経営革新まで範囲を広げて、改善とは何か、革新とは何かを、目からウロコ的に連載しておりますが、今回はその第1回目となります。

◆ ムダをみるには、モノサシが必要

1、基準がないからムダが見えない

 毎日見ている腕時計の文字盤や紙幣、コインの模様などがどのようなデザインだったのかを思い出すことはできませんが、いずれも意識をして物を見ていないことによるものです。

 これと同様、毎日見ている工場内にある付加価値を生まないムダな作業の多さを、すぐに自分で指摘したり思い出したりすることもなかなかできないことです。コンサルティングで工場を訪問していると「どこにムダがあるのでしょうか?」と逆質問を受けることもありますが、裏を返せばまだ私たちコンサルタントの出番が待っているということでもあり、少し嬉(うれ)しくもなります。

 なぜ、誰でもすぐにムダが見えないかと言いますと、ムダを見る目が養われていないからだと思います。

 

 毎日見ているものは徐々に脳の意識が薄れてしまうようですが『慣れる』ということは、生産現場にとっては恐ろしいことで、問題意識が薄れていくと「エントロピーの法則」に従って全てのものは、でき上がった時点から崩壊への道を辿(たど)っていくのです。ここで何とか踏ん張っていくことが必要になりますが、ここが生き残りを懸けた活動ができる会社とできない会社の分かれ道になります。

 その対策として、多くの会社で行われているのが、5S活動+表示・標識や目で見る管理などによる改善活動です。これらはいずれもムダを顕在化させるための手段で、何らかの基準を作り、その基準に入っているかとか、はみ出ているかなどを見極め、素早く元の状態にアクションを起こすものです。現場が汚れていたり、物が溢(あふ)れて乱雑になっていたりしますと、どこが異常(異常な事態で、いつもと異なる)なのか、何が異常(異常な状態であり、定めたことと異なる)なのかチンプンカンプンになって、どうしたらよいか分からなくなり、何もアクションを取ることができなくなってしまいます。

 しかし白線や枠組みが施してあるだけでも、台車や仕掛品さらに治工具などがはみ出ていますと、すぐに問題が顕在化してきます。つまり、何らかの基準があればそれに照らし合わせることで、誰が見てもすぐにどうすればよいかまで分かります。言葉でいちいち説明しなくても、パッと!見れば、ピン!と来て、サッと!元に戻すような機敏な一連の動作がサラリとできるようにしたいものです。ムダも同様に何か基準があれば、簡単に誰でもすぐに発見することができます。

 

2、人の動きのモノサシは標準作業

 物を加工するためには加工図面が必要なのは当り前のことで、これがないことには加工、生産はおろか発注もできませんので、必ず必要項目を描いて製図します。同様に組み立てに関しても、組立図を作成します。ところが人・機械(設備)・物のなかで、自由自在に動くのは人だけですが、その人の作業のやり方については、加工図や組立図に沿って組み立てればよいという考えから、正しい作業順番や作業時間などについて細かく指示した物がないことがあります。

 その人の自由裁量にお任せして、何とかやりくりをすることをフレキシブル性があると勘違いしている会社もありました。結果として図面と同じものができればよし!といったものでは到底安定した高品質のものを作ることは難しいものです。逆に人の動きを見えるようにすることで改善ができ、より効率的に生産できることになります。それには標準作業というモノサシがあって初めて改善が着実にできるようになります。現場で好き勝手に作業をやっているところに継続的な改善はできません。

 

 標準作業には、次の3つの前提があります。

 1つ目は人の動作が中心で、ムダ・ムラ・ムリをなくして付加価値のある働きに変えていくもの。2つ目はあくまでも繰り返し作業に対して行うもので、タクトタイムでの繰り返しを基準にします。そして3つ目が、作成するのは現場自身であるというもので、監督者がやってみせて指導して守らせることになります。他部門で作ったもので「やれ!」といわれても、やる気が出ないのは当然です。

 

 現場の標準化を進めるにあたって、一般的にはまず標準書の作成から始めます。効率的な方法を見つけて、標準書は書面を使い、比較的容易に短時間で作成することが可能です。しかし、それを実際に維持し続けることは非常に難しいものです。標準化で最も大切なことは、その作業方法を継続的に維持できる仕組みを、現場で作ることができるかに懸かっています。そして、標準化と文書化は曖昧(あいまい)にしないためにも、必ずセットにして行います。「やらせ」ではなく、実施部門が自ら標準書を作成して、その改善も繰り返して自ら行う仕組みづくりにしていくことです。そのためにも、定期的にメンテを行う必要があります。そのメンテの期間は、最低3ケ月以内とします。

 また、間接部門や他の製造部門からの第三者の目で見るというオージットも定期的に行い、お互いに緊張感を持って観察することも大切です。その時には、問題点や改善案も必ず提示できるように、観察する方もお客様の視点で見るという観察の目を養っておくべきです。危機感を持って意識しながら観察しますと、今まで見えなかったムダが問題として感じられるようになり、相当数が発見できるようになってきます。

 

3、さらに進んでくる多品種小ロット化に対応するには

 今後はもっと多品種小ロット化が進んできますが、そうなると繰り返しのある標準となるものが少なくなってくることが考えられます。そのような状況下ですと心配も出てきますが、そこで大切なのは新しく発想を変えることです。見方を変えて全く同じものではなく、似たようなものでのグルーピング(組み分け)のやり方自体を変えていくことです。

 例えば、工数や構造が似たものを、それぞれ一つのグループにまとめるとか、さらに部品点数や加工方法などが似ているものなどを新しくグルーピングする方法を模索していきます。皆が何とかできないかという積極的なものから、どうやればできるのかといった発想で考えていくと、何とかできるようになってきます。成せば成るものです。

 

 「みる」という言葉がありますが「みる」と言う漢字は非常に多くあります。よく使うのは、目に足のついた「見る」ですね。さらに視る、観る、診る、看る、察る、臨る、監る、覧る、もっと探りますと、回るや廻るも「みる」と読みます。意味はそれぞれ違いますが、よくみるとうなずけます。見方を柔軟にしていくことが、変化に対応できるのです。

 次回は、現場改善:「作業環境:5S、ムダ (その2)職場の基本はやはり安全 」から解説を続けます。

 

 【出典】株式会社 SMC HPより、筆者のご承諾により編集して掲載

 

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この記事の著者

松田 龍太郎

見えないコトを見えるようにする現場改善コンサルタント。ユーモアと笑顔をセットにして、元氣一杯に現地現物での指導を心がける。難しいことはわかりやすく、例え話や事例を用いながら解説し、納得してもらえるように楽しく動機付けを行います。

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