プロジェクトマネジメントにおけるリスクファイナンスについて解説しておりますが、今回は企業におけるリスクファイナンスの現状や動向をお話いたします。
1.企業におけるリスクファイナンス
内外の経済状況の変化に伴い、企業を取り巻く経営環境は劇的に変化しています。その中で新たなリスクを抱えることになってきているほか、事業規模の拡大によりリスクの多様化、複雑化そして巨大化が進んでいます。このような情勢の下、企業としての全社的なリスクマネジメントの重要性が一層増してきているといわれていますが、そこではリスクの顕在化を未然に防ぐための事前防止策に重点が置かれ、事故や災害等が発生した後への備えは必ずしも十分に手当てされていないのが実情のようです。
企業におけるリスクマネジメントでは「リスクが顕在化し、経済的損失が発生した場合に備え、企業が運転資金、事故対策資金、復旧資金などを事前に手当てしておくこと」がリスクファイナンスですが、その重要性については未(いま)だ十分には認識されていないようです。
わが国は欧米と比較して歴史的・文化的な背景から危険予知、危機管理対応などのほか、プロジェクトマネジメントにおいても、遅れを取っているといわれています。これは大型の国家プロジェクトなどで、その契約形態などから、プロジェクトライフサイクルにわたるリスクマネジメントがそれほど必要とされなかったことから、リスクマネジメントの手法や企業活動における利害関係者に対する成果責任の要請があまり強くなかったためと思われています。
企業の適切なリスクファイナンスへの取り組みは、予期しない、あるいは突発的なリスク事象が顕在化した場合でも、企業財務の健全性を維持し、企業の効率的、積極的な事業活動を行うことを可能とします。これは企業の持続・成長・発展に資するのみならず、社会・経済全体で考えれば、個々の企業の取り組みの積み重ねにより、わが国の社会基盤そのもののリスク耐性の強化につながり、安心・安全な社会・経済を実現する礎となるといえます。
こうした問題意識から、経済産業省では2005年9月から「リスクファイナンス研究会」を立ち上げ、企業におけるリスクファイナンスについて、その必要性の議論、取り組みに関する現状と課題、および環境整備の方向性について検討を行い、2006年3月「リスクファイナンス研究会報告書~リスクファイナンスの普及に向けて~」がまとめられました。リスクファイナンスの最適化の考え方が整理され、主なリスクファイナンス手法とその特徴が整理されています。日本におけるリスクファイナンスの現状と課題、普及に向けた主な提言もまとめられています。
2. リスクファイナンス推進に向けての動き
最後に、リスクファイナンスに関する最近のトピックスについていくつか挙げておきますので、理解の参考にしていただければと思います。
①企業の災害保険需要に関するアンケート調査
わが国企業のリスクアセスメントの実態を確認するため、企業のリスクファイナンスに関する大規模なアンケート調査である「企業の災害保険需要に関するアンケート調査」が、2015年に独立行政法人経済産業研究所により実施されています。この調査結果の解析については、関口訓央『我が国企業のリスクマネジメントの有効性向上に向けて』商工金融2020.9で報告されています。
②激甚化する大規模自然災害に係るリスクファイナンス検討会
自然災害が事業者の経営に与える影響は深刻であり、適切な備えを行うことで事業の継続性を確保することは、産業競争力の確保のみならず、速やかな地域経済の回復にとって不可欠なことです。東日本大震災という想定を超える災害が発生したことを受け、災害は完全に防ぐことは不可能であるという認識の下、被害を最小化し、事業の迅速な回復を図る「減災」の考え方が基本理念として位置付けられ、BCP(Business Continuity Plan・事業継続計画)策定などの減災対策が進展をみました。しかし、リスク自体を減らす災害リスクコントロールの取り組みには進展がみられたものの、保険や資金調達枠の確保などによるリスクの移転、あるいは適切にリスクを保有することで経営への影響度を緩和する災害リスクファイナンスについては、十分な普及がなされているとは思われていません。これを踏まえ、事業者のリ...