クリーン化を成功させる条件とは クリーン化について(その21)

 

 

4. クリーン化のなぜを考える

◆ 防塵衣の劣化による静電性能低下問題

図.1 防塵衣の劣化事例

 

 防塵(ぼうじん)衣の自然劣化の最大の原因はクリーニングです。

 長い間クリーニングを繰り返すことでより生地が傷むことになります。防塵衣には縦、または格子状に黒い糸が織り込んであります。これは導電糸と呼ばれ、静電気を逃がす役目があります。ところが、これが擦(す)り切れてしまうと、静電気の逃げ道が途切れてしまい、帯電した静電気がなかなか逃げません。図1の後工程(C社)防塵衣の数値に着目してください。

 後工程のものが悪いのではなく、更新しないで長年着続けてしまったため導電糸が擦り切れてしまったものです。このような防塵衣を吊(つ)るした状態で、両手で挟んで擦ると帯電量は3000Vにもなりました(参考:図1の吊るして擦り)。これは調査のためであり、実際には素手で防塵衣に触れてはいけません。

 このような防塵衣が帯電しても、静電気が自然になくなる(減衰する)には長時間かかります。その防塵衣を着用してエアシャワーを浴びると500Vほど帯電します。これは乾いた風が防塵衣を擦ることで起こる摩擦帯電と呼ばれるものです。エアシャワーのジェット噴射が停止しても、10秒ほど経過しないと静電気は消えません。ジェットが吹き出している時は、エアシャワー内には沢山のパーティクルが浮遊しています。これが帯電している防塵衣に付着しますので、エアシャワー停止後すぐにドアを開けると、防塵衣に付着したゴミ、また浮遊しているゴミも一緒にクリーンルームに持ち込んでしまいます。

 どうしてこのような防塵衣を着用していたのかの理由ですが、当時の該当職場の責任者が、防塵衣は1セット購入するだけでも非常に高価なうえ、在籍人数分(1人2セット)購入すると大変な金額になるので、防塵衣を更新せず長く着続ければ、会社に余計な費用をかけさせずに済み、経費削減につながっていると勘違いしていたのです。これも、白い服を着ただけで安心してしまうことと同じです。

 

◆ 防塵衣のクリーニング

図2. 防塵衣のクリーニング

 

 図2の棒グラフに着目してください。左の部分は、きちんとクリーニングをした防塵衣からのパーティクル発塵量です。また、右側の部分はルール通りにクリーニングに出さなかったものです。目視ではきれいに見えても、手抜きをするとこんなに沢山発生するんです。これがクリーンルーム内に撒(ま)かれるわけです。このパーティクルの多くは塩分です。防塵衣を着用してクリーンルーム内で様々な行動をすることで、僅(わず)かながらも汗をかきます。また半導体製造では製品の熱処理工程があり、室内が高温になるので、汗の量は多くなります。人の汗が徐々に防塵衣に染み出て、これが乾くと様々な動作、行動でパーティクルとして飛散します。

 防塵衣は、その現場のルールに従い定期的にクリーニングをすることが重要です。特に半導体前工程ではナトリウム汚染による品質低下も考えられるので、きちんとルールを守る必要があります。やはり白い服を着用しただけで安心してはいけないのです。

 

◆ 防塵衣の生地

 防塵衣の生地の素材はポリエステルです。この繊維は非常に長く、ポリエステルの特徴の一つは水分を吸わないことです。つまり膨張収縮がないということです。そのため汗などの水分は吸収されずに、細かな織を伝わって広がります。毛細管現象です。それが乾いて飛散するわけです。

 私たちが日頃着用する下着は綿...

のものが圧倒的に多く、綿は短繊維であり、水分の吸収も良いので着用すると肌触りが良いのです。ただし短繊維であるがゆえに繊維同士の絡みが少なく、発塵しやすいので敬遠されます。ナイロンは繊維の膨張、収縮があり、また耐熱性、耐薬品性ではポリエステルの方が優れています。それがポリエステルが防塵衣に採用される理由です。

 なぜ防塵衣を着るのか、なぜ防塵衣に着用順があるのか、なぜ防塵衣は定期的にクリーニングをしないといけないのか・・・というように一つひとつに“なぜ”があります。それを一人ひとりが理解し、行動することが大切です。このような一つひとつをきちんとする、その積み重ねがやがて大きな成果に繋がります。

 

 次回に続きます。

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