「デスバレー(死の谷)」という言葉があります。その意味は、技術開発にあたって、発明と市場化のギャップであり、言い換えれば、高い技術力をグローバルな競争力に転換できないことを指しています。デスバレーへの対応は、体力に乏しい中小企業やベンチャー企業などの浮沈を分ける大きな問題です。要するに、開発した技術を商品化するには、技術開発で通常使うスキルとは異なるスキルと知恵が必要になるのです。最近、大学の博士課程修了者の就職灘が話題となっていますが、ここにも、“マーケティング”の素養が求められはじめていたのです。
技術者が押さえたいマーケティングのエッセンスを、2回に分けて取り上げ、今回はそもそもマーケティングとはどんなものかを考えます。
1. マーケティングの定義
マーケティングとは、どういうことを言うのでしょう。米国マーケティング協会の定義によると「マーケティングとは、組織とステークホルダー(利害関係者)にとって有益となるよう、お客様に向けて“価値”を創造・伝達・提供したり、お客様との関係性を構築したりするための、組織的な働きとその一連の過程である。」としています。しかし、この表現では、技術者には、直感的に理解しにくいでしょう。これを簡単に言うと、「お客様に価値を提供して対価をいただく全ての活動」になります。
2. マーケティング活動の体系
図1に、具体的なマーケティング活動を俯瞰できる体系図を示します。技術者としては、まずイメージとして捉えておけばよいでしょう。具体的に学習したい方は、この体系図をマップとしてページ数の少ないマーケティング入門書を読めば、理解が進みます。要点だけ述べるならば、マクロ環境およびミクロ環境を俯瞰し、必要に応じてマーケティング・リサーチを活用して情報収集を行い、SWOT(強み、弱み、機会、脅威)分析を行います。次に、マーケティング戦略として、標的市場選定のためビジネス(事業)ドメイン(領域)を決定します。そして、具体的なマーケティング・ミックスとして4P(製品戦略、価格戦略、チャネル戦略、プロモーション戦略)を考慮します。
図1 マーケティングの体系図
3. マーケティング戦略ドメインの3要素
技術者にとって、マーケティングを自分自身の問題としてどう実践すれば良いでしょうか。ここで、筆者が実践して大きな成果を得られた実践法の中で、すぐ実行できる方法を紹介します。それは、マーケティング=戦略ドメインという考え方です。ドメインという意味は、ネットの分野の方が有名になってしまったかもしれませんが、マーケティングでは、ビジネス(事業)領域ということです。つまり、図2のように、ビジネス(事業)領域として、「ターゲット」、「ニーズ」、「ノウハウ(独自性)」の3要素で考えます。ターゲットはお客さん、ニーズはお客さんが求めている価値のようなもの、そして、独自性(ノウハウ)は提供方法あるいは差別化能力を指します。
図2 マーケティング戦略ドメインの3要素
例えば、Google Earthというソフトウェア商品があります。これをマーケティングの3要素に分解してみましょう。ターゲットは、PCを活用している人のこと。ニーズは、地球上のどんな小さな情報も全てこの地球儀だけで探せるようにしたいということ。ノウハウ(独自性)は、3次元のリアルな衛星写真で提供すること。これを、みなさんの仕事のテーマに置き換えてみると、自分たちの仕事の存在価値が一目瞭然となります。筆者は、技術者に、常に新しいテーマや課題に直面したと...
ここは重要ですので、皆さんのよく知っている製品の事例でも考えてみましょう。花王の「ヘルシア緑茶」を、感覚的にモノとして考えるとどうでしょうか。何も言わずにこのお茶を飲んだら、「ただの苦めのお茶」です。このままでは売れません。そこに、マーケティング戦略ドメインの3要素を定義してみます。すると「ただの苦めのお茶」が「ヘルシア緑茶」に変身するのです。
- ・ターゲット:中年太りを気にする男性
- ・ニーズ:体脂肪への効果
- ・差別化:権威ある機関のお墨付きのある成分を添加