私のクリーン化教育やセミナーでは、“なぜクリーン化が必要か”について、最初にお話するようにしています。今回は、その理由をお話します。
ものづくり企業にとって、クリーン度(ものづくりの現場の綺麗さの度合い)の維持・管理は最も大切な基本要素です。現場は綺麗に管理され、そしてその良い状態を維持して行くことは基本であり、おろそかにしてはいけません。日本人が大切にしている心であり、風土であると思います。
製品の歩留まりや信頼性は、製品の製造過程でのパーティクル(細かなゴミの総称・微粒子)や不純物イオンに大きく左右されてしまいます。これら不純物の制御如何で、企業の競争力が決まってしまうと言われます。つまり、“クリーンでなければまともな製品が作れない”、と言うことです。
ここで言う企業の競争力について、半導体製造を例に説明します。メモリーIC等は、どのメーカーでも全く同じ製品を作っているようn時期がありました。しかし、全く同じものを作っているにも関わらず、極端な場合、A社では歩留まり10%、B社では90%と言う風に企業間で差が出てしまう場合が多々ありました。A 社での歩留まりは低くても、他社と同じ製品を作る技術はあるわけです。しかし利益で見ると大幅な赤字、B社では黒字になります。
B社はなぜ大幅な黒字が出せるのか、裏で何をやっているのか良く分からない。その良く分からない事の一つが、恐らくクリーン化であろうと言われて来ました。こう言ったことを背景に、昔からクリーン化にきちんと取り組むことにより、歩留まりが向上するとか、利益が出るようだと言うことが分かって来ました。このようにクリーン化技術は歩留まり向上のノウハウであるため、相手に、他社に手の内を見せないのが普通でした。そのことからクリーン化技術は、門外不出と言われて来ました。従ってそれぞれの会社が独自のクリーン化技術を構築しており、安易に伝授、公開しないのです。これが、クリーン化が一般に広く普及しない理由の一つでもあります。
外注会社では、数社と取引をしている場合が一般的だと思います。その外注会社に対し、自分たちに納入する製品の品質を向上して欲しいと思っても、そこにクリーン化技術を伝授、公開してしまうと、自社のノウハウが流出してしまうことや、その外注会社と取引している他社は、何もしなくでも自分たちの製品に恩恵を得るため、積極的に支援しないのが普通です。品質向上を要求されてもノウハウは開示、伝授してもらえない為、利益は拡大しないと言うわけです。
ものづくり現場をクリーンルームにすることを要求されると、何が品質向上の阻害要因かもわからないまま、クリーンルーム化の投資をしてしまうこともあります。しかし、投資に対しての効果、あるいは回収が出来ないとのぼやきも聞きます。折角投資しても管理が出来ておらず、クリーンルームと言うただの箱になってしまっているケースも見てきました。
他社からクリーン化ノウハウを入手できないとなると、自分たちでクリーン化技術を構築する必要があります。昨今は、色々な資料も出回っていますので、その中に存在するわずかなノウハウを拾い集めたり、客先監査(Audit)で来社する会社から、少しでもノウハウを引き出すことや、自社内部で出来るものの積み重ねなど、多面的な努力を継続し、それをもとに独自のクリーン化技術を構築していただきたいところです。それらの地道な繰り返しにより、必ず自社の体質強化が出来ると思います。
ものづくりの会社では、ものを作ることだけが仕事だと思ってしまうと、それ以外の事、例えば、QCサークル活動、TPM活動、そしてクリーン化活動などの各種小集団活動は、余計な仕事と言う意識になってしまいます。すると、忙しい時にはやめても良いとか、手を抜いても良いと言う指示が出てしまう場合があります。ひとたび手を抜くと忙しさが回避され、余裕が出た時に元に戻ることはないと言っても過言ではありません。
忙しい時ほど継続が必要です。忙しい内容を分析してみると、製品がゴミや汚れでやり直し、手直しが発生していたり、歩留まりが低く、納入数確保のため追加で原料投入していたり、流動途中で不良が発生し、補填の為の投入などで忙しくなっていることが多々...
クリーン化はお金がかかるとか、お金をかけた割に効果が出ないと言う声を聞きますが、お金をかけたから歩留まりが向上すると言った錯覚ではなく、全員が知恵を出し、出来るだけお金をかけない活動にすべきです。お金がかかることも全くない訳ではありませんが、お金をかけないで出来ることが沢山ありますので、先ずそれらを徹底的に改善、対策していただきたいと思います。それだけでもかなりの成果、効果が出せると考えています。