現在、私たちの身の回りには、多くの電気機器があります。電磁鋼板は電気機器において、電気を磁気、そして力に変換する重要な役割を担っており、鉄鋼業界では将来電磁鋼板が足りなくなるという観測もあります。日本の鉄鋼メーカーの電磁鋼板は性能の良さで定評があります。新日本製鐵(当時)の方向性電磁鋼板は、変圧器での降圧・昇圧効率を向上させました。近年、国内の変電所で使われている変圧器には、もっとも進んだ方向性電磁鋼板が採用されています。
今回は、このような背景から、電磁鋼板の概要を解説します。
1.電磁鋼板とは
電磁鋼板(Electrical Steel Sheet)とは、電気を流した時に強い磁力が得られる鋼板で、普通の鋼板とは比較にならない磁力を得ることができる素材です。電気自動車、PHEV、HEVも、すべて電動モーターを使います。このモーターには電磁石だけを使うタイプと、永久磁石と電磁石を使うタイプとがありますが、電磁鋼板はこの両方に必須なのです。
多くのモーター機器では、電磁石の原理により電気を磁気に変換し電磁力を発生させており、鉄芯材料は、コイルに挿入され磁力を高める働きを担っています。
そのため電磁鋼板には優れた磁気特性が要求されます。絶縁被膜としてのコーティングが施され、磁気特性に悪影響のある不純物が極限まで低減されるなど、電磁鋼板ならではの特徴があります。
2.電磁鋼板の基本特性
電磁鋼板の基本特性は、鉄損と磁束密度とで表されます。鉄損は電気エネルギーから磁気エネルギーへの変換において発生する損失をあらわす指標で、鉄損が小さいほど損失は小さく省エネルギーとなります。磁束密度は磁化のしやすさの指標で、磁束密度が高いほど、高出力(一定の電流で高い磁力)が得られます。
トヨタのハイブリッドカーの心臓部ともいえる動力モーターは高強度で低鉄損という課題をクリアした高強度電磁鋼板を使用することで、低速から高速までのモーター使用を可能にしています。
3.電磁鋼板の種類と用途
電磁鋼板の種類として、無方向性電磁鋼板と方向性電磁鋼板があります。無方向性電磁鋼板は全方向に平均的に優れた磁気特性を有する鋼板で、動力モーターに使用されています。方向性電磁鋼板は圧延方向にのみ極めて優れた磁気特性を有する鋼板で、主に変圧器に使用されています。
4.電磁鋼板のキーテクノロジー
電磁鋼板の種類で述べた方向性とは、鉄分子が持つ性格を指します。鉄分子は磁化しやすくなるという性質があり、得られる磁力を最大化するべく一律の方向に結晶を揃えて鋼板を製造するのです。鉄分子をサイコロにたとえれば、1の数字面だけが上を向くように原子を並べるのですが、モーター回転によって磁化方向が変わるため、1の面を上に向け、横にくる2や3の面はランダムに現れるという構造が理想でした。
この構造の電磁鋼板を製造することに成功したのが新日鐵(当時)でした。成分調整した鋼材を熱間圧延によって厚さ2〜3mmまで薄く延ばし、さらに冷間圧延によって1mm以下に薄く延ばし、約1週間、温度を1200℃の状態に保つことで2次再結晶させる方法を確立したのです。サイコロの目が1を上にしてきれいに並ぶ確率は1億分の1です。そのレベルを人為的にコントロールできるようにしたのです。
この考え方は、無方向性電磁鋼板を使い続けてきた電動モーターの性能向上に寄与しました。初代プリウス以降、モーターを大型化せずに高出力化と高耐熱化を実現出来た背景には、電磁鋼板の生産技術革命があったのです。
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