合成樹脂材料は、環境条件からの影響による安定性が低く、用途の見極めが重要です。合成樹脂材料が原因の製品不具合は非常に多く発生していますが、その多くが使われ方の検討不足と、合成樹脂材料の環境条件に対する不安定性に起因します。合成樹脂材料を使った製品において、製品の使われ方を見極めることの重要性を理解して下さい。
一般に広く使われている合成樹脂ですが、上手に使いこなすためには、合成樹脂材料の性質をよく理解することが重要です。その中でも応力とひずみの関係は、最も基本的かつ重要な性質の一つです。材料力学は基本的に材料が弾性変形することを前提にしていますが、合成樹脂材料の弾性変形範囲は非常に狭いので、設計を行う上では注意を要します。弾性変形以外の部分も含めて、材料の性質を分かりやすく示すために用いられるのが応力-ひずみ曲線です。英語で応力はStress、ひずみはStrainなので、頭文字を取ってS-S曲線とも呼ばれます。詳細は、解説記事:プラスチックの強度設計とは、曲げ弾性率・ヤング率を参照。
今回は、このような背景を踏まえて、合成樹脂の概要を解説します。
1.合成樹脂とは
一般に広く使われている合成樹脂ですが、5大汎用プラスチックと呼ばれるPVC(ポリ塩化ビニル)・PE(ポリエチレン)・PS(ポリスチレン)・PP(ポリプロピレン)・ABSや、「5大エンプラ」と呼ばれるPA(ポリアミド)・PC(ポリカーボネート)・ポリエステル(PBT,PET)・POM(ポリアセタール)・変性PPE(変性ポリフェニレンエーテル)などです。上手に使いこなすためには、合成樹脂材料の性質と基礎知識をよく理解することが重要です。
2.合成樹脂の種類と用途
合成樹脂の種類と用途について解説します。
- ABS樹脂は、加工性、剛性、耐衝撃性などのバランスがよく、光沢があります。代表的な用途は、室内用建築部材・OA機器・自動車部品などです。
- ポリプロピレンは、合成樹脂の中で比重が軽く、透明性、加工性、発色性が高く、強度もあります。代表的な用途は、家電部品・食品・自動車部品などです。
- ポリエチレンは、耐水性、電気絶縁性に優れていて、その密度により性質が異なり、高密度ポリエチレンは剛性、耐熱性が高くなります。代表的な用途は、プラスチック容器・パイプ・フィルム類などです。
3.合成樹脂と天然樹脂の違い
天然樹脂は、ウルシなどの樹木からとれる脂のことを樹脂といいます。松やモミなどの樹脂成分で、樹木の樹液のことです。
樹脂の種類としては、植物由来・動物由来・鉱物由来の3種類があり、植物由来で代表的なものは、次の5つです。
- 松脂(まつやに)
- 漆(うるし)
- バルサム
- 天然ゴム
- 琥珀(こはく)
バルサムは樹脂が揮発性油脂に溶解したときの粘度の高い液体のことで、まつやにはマツ科の樹液からとれる樹脂成分です。漆はウルシ科からとれる樹脂で、かぶれなどの皮膚症状が出ることが特徴で、塗料・接着剤として使用されています。天然ゴムは、ゴムの樹木からとられた樹液を元に作られています。琥珀は樹脂が化石化したもので、宝石としても有名で、漢方や香料として使用されることもあります。
一方、有機化学が発達して天然樹脂に似た性質を持つ物質が化学原料から合成されるようになりました。そこで、天然樹脂と合成樹脂を区分けして、化学的に作られたものを合成樹脂と呼んで区別するようになりました。合成樹脂のメリットは、安価で取り扱いしやすことですが、次のようなメリットもあります。
- 電気と熱の絶縁性がいい
- 水に強い
- 軽量で柔らかい
- 自由度が高い
合成樹脂からできたプラスチックは軽量で柔らかいことがメリットです。熱可塑性樹脂であれば、熱すると液体状になるので、リサイクルできることもメリットですが、熱に弱いことはデメリットでもあります。
熱を与えると合成樹脂はすぐに変形してしまいますが、熱や電気を通しにくい絶縁性を持っています。フェノール樹脂は絶縁性を持っているので、電気絶縁性が求められる環境で使われることが多いようです。合成樹脂はそれぞれの樹脂のもつ特徴によって、用いられ方が異なります。
4.合成樹脂の劣化
原料となる合成樹脂の種類によってプラスチック成形品は、劣化要因が異なります。劣化の要因としては、外的要因による変化と複合的な外的要因による変化があります。
外的要因としては、次の5点です。
- 有機溶剤による劣化: 耐候性、衝撃強さ、耐熱性に優れているポリカーボネイトでも、ある特定の溶剤に対しては、材料内に有機溶剤を取り込みやすく強度が低下します。どんな素材でも、自身の構造と類似の構造をもつ材料は取り込みやすい性質をもちます。
- 光による劣化: 合成樹脂は、光のエネルギーを吸収...